日々の音色とことば

usual tones and words

『ヒットの崩壊』の「はじめに」

講談社現代新書より上梓した単著『ヒットの崩壊』が発売になります。amazonでは11月16日となっていますが、明日、11月15日には都内書店に並び始めると思います。

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

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この本の問題意識は、以下に引用する「はじめに」のところで書いています。

 

「ヒット曲」というものを一つの主題にした本ですが、音楽業界だけのことにとどまらず、流行の実情や、メディアと人々の接し方の変化、それによって生まれている社会の変化のうねりのようなものにも迫れたらと思って執筆を進めています。

 

―――――

 

はじめに

 

 「最近のヒット曲って何?」

そう聞かれて、すぐに答えを思い浮かべることのできる人は、どれだけいるだろうか? よくわからない、ピンとこないという人が多いのではないだろうか。

 かつてはそうではなかった。昭和の歌謡曲の時代も、90年代のJ−POPの時代も、ヒット曲の数々が世の中を彩っていた。毎週のヒットチャートを見れば、何が流行っているのか一目瞭然だった。テレビの歌番組が話題の中心にあった。

 でも、今は違う。シングルCDの売り上げ枚数を並べたオリコンのランキングを見ても、それが果たして何を示しているのか、判然としない。流行歌の指標がどこにあるのかわからない。それが今の日本の音楽シーンの実情だ。

 果たして何が起こっているのか?

 

 「音楽不況だからしょうがない……」

 そんなことを言う人もいる。確かにCDの売り上げは右肩下がりで落ち込んでいる。しかし、音楽の〝現場〟には、今も変わらぬ熱気がある。それは、音楽ジャーナリストとして20年近くロックやポップ・ミュージックについて取材と批評を続けてきた筆者の正直な実感だ。音楽フェスの盛況、ライブ市場の拡大もそれを裏付ける。

 では、なぜヒットが生まれなくなったのか? 実は、それは音楽の分野だけで起こっていることではない。

 ここ十数年の音楽業界が直面してきた「ヒットの崩壊」は、単なる不況などではなく、構造的な問題だった。それをもたらしたのは、人々の価値観の抜本的な変化だった。「モノ」から「体験」へと、消費の軸足が移り変わっていったこと。ソーシャルメディアが普及し、流行が局所的に生じるようになったこと。そういう時代の潮流の大きな変化によって、マスメディアへの大量露出を仕掛けてブームを作り出すかつての「ヒットの方程式」が成立しなくなってきたのである。

 

 本書は、様々な角度から取材を重ね、そんな現在の音楽シーンの実情を解き明かすルポルタージュだ。ミュージシャン、レーベル、プロダクション、テレビ、ヒットチャート、カラオケなど、それぞれの現場の人たちが時代の変化にどう向き合っているのか。その言葉は、たとえ音楽に興味がない人にとっても、あらゆる分野で「ヒット」が生まれなくなっている今の時代を読み解くためのキーになるのではないかと思う。

 

 本書の構成は以下のようになっている。第一章では、90年代から現在に至るまで、音楽産業がどう変わってきたかを解説する。CDが売れなくともアーティストが活動を続けられるようになった現状、「コンテンツ」から「体験」へとマーケットの軸足が移ってきたここ10数年の変化を読み解く。そして、日本の音楽シーンを代表するヒットメーカーとして、音楽プロデューサー・小室哲哉と、いきものがかり・水野良樹という二人の作り手に話を聞き、それぞれのスタンスと、ヒット曲についての考え方を探る。

 第二章ではヒットチャートの変化に迫る。極端な結果を示すようになったオリコン年間ランキングから、「AKB商法」とも言われる特典商法がヒットチャートを〝ハッキング〟してきた経緯を示す。そして、当のオリコン側はそのことをどう捉えているのかを尋ねる。また、複合的な指標による新たなヒットチャートのあり方を掲げるビルボード・ジャパンの狙いと、カラオケランキングから見えるヒット曲の受容の特徴を解き明かす。

 第三章はテレビの音楽番組をテーマにしている。10年代になって民放各局で放送されるようになった「大型音楽番組」の登場、そしてその長時間化は、果たして何を意味しているのか。制作者の意識を問う。

 第四章はライブ市場の拡大の背景にあるものを解き明かす。何故フェスは盛況を続けているのか。そして大規模な演出を用いたスペクタクルなワンマンライブやコンサートが増えてきているのは何故か。テクノロジーがライブを進化させた背景と、その行き先を探る。

 第五章では、ビジネスやマーケットではなく、音楽の中身について論じる。00年代以降、日本のポピュラー音楽の潮流はどう変わってきたのか。海外への憧れとコンプレックスから解き放たれて独自の進化を果たした「J‐POP」という言葉の意味合いの変化、そして日本発のポップカルチャーとして海外進出を果たしているその原動力を分析する。

 そして第六章では、大きな転換期を迎えている世界全体の音楽市場の動向を見据え、日本の音楽シーンの先行きを探る。ストリーミング配信が普及し十数年ぶりにレコード産業が拡大基調となった海外で、ヒットはどのように生まれるようになったのか。ロングテール以降の時代にグローバルなポップスターが君臨するようになった経緯、そして新たな「モンスターヒットの時代」の仕組みを解き明かし、この先に訪れる未来の可能性を示す。

 

 日本のロック/ポップス史に大きな足跡を残したミュージシャン・大瀧龍一は、かつてこう語った。

  歌は世につれ、というのは、ヒットは聞く人が作る、という意味なんだよ。ここを作る側がよく間違えるけど。過去、一度たりとて音楽を制作する側がヒットを作ったことはないんだ。作る側はあくまでも〝作品〟を作ったのであって〝ヒット曲〟は聞く人が作った。 (大瀧詠一『大瀧詠一 Writing & Talking』より)

 とても鋭い洞察だと思う。

 しかし、いつの間にか「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉自体をあまり耳にしなくなった。歌謡曲の時代には一つの定番だったフレーズは、今はその意味合いが薄れてきている。

 

 かつて、ヒット曲は時代を反映する〝鏡〟だった。  果たして、今はどうだろうか?

 

―――――

 

以上が「はじめに」で書いたことです。

 

J-POPの90年代と今を語る第一章では小室哲哉さんといきものがかり・水野良樹さん。ヒットチャートをテーマにした第二章ではオリコン株式会社の垂石克哉さんとビルボード・ジャパンの礒崎誠二さん、JOYSOUNDの鈴木卓弥さんと高木貴さん。テレビと音楽番組をテーマにした第三章では『FNS歌謡祭』『FNSうたの夏まつり』の総合演出を手掛けるフジテレビの浜崎綾さん。ライブをテーマにした第四章では、BUMP OF CHICKENやサカナクションやKANA-BOONを手掛けるヒップランドミュージックコーポレーションの野村達矢さん。日本と海外の音楽シーンの関係性の変化を書いた第五章では、もう一度水野良樹さんと、シュガー・ベイブやフリッパーズ・ギターを手掛け日本のポップスの歴史の体現者であるプロデューサー・牧村憲一さん、きゃりーぱみゅぱみゅや中田ヤスタカ擁するレーベルunBORDEのレーベルヘッド鈴木竜馬さん。そして第六章では、再び小室哲哉さん、水野良樹さん、鈴木竜馬さんにご登場いただきました。

 

僕一人の論考ではなく、ミュージシャン、プロデューサー、マネジメント、ヒットチャート、テレビ、カラオケなど、音楽の現場にいる人たちの生の言葉があってこそ成立した本だと思っています。改めて感謝しております。

 

 

 

 

 

反響にも感謝。

 

そして最後に告知ですが、ブログ「All Digital Music」を主宰するデジタル音楽ジャーナリスト、ジェイ・コウガミさんと、この本、特に第六章で書いたストリーミング以降の音楽シーンについて語るトークイベントを11月15日に開催します。詳細は以下。

 

『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)刊行記念
柴那典×ジェイ・コウガミ「テクノロジーは音楽をどう変えたのか?」

開催日時:2016年11月15日(火)19:30スタート
開催場所:スマートニュース イベントスペース(渋谷)
イベントページ:http://peatix.com/event/211745/

 

peatix.com

 

 

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

 

アメリカのポップスターは、束になってもトランプに勝てなかった

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■二つの世界の分断

 アメリカ大統領選の結果が出た。ドナルド・トランプが第45代大統領に就任することになった。

 

まずは僕自身の実感をここに記しておきたい。リアルタイム実況で赤く塗りつぶされていくアメリカ合衆国の地図を見て、うわぁ、と茫然としたのが正直なところ。大方のメディアの予想を覆す結果になったというのもある。「まさか」というのが第一印象。正直ゾッとした。

 

クリントン当選確実という報道は事前に広まっていた。支持率調査もそれを裏付けていた。選挙戦を通して伝わってきたトランプのさまざまな醜聞、スキャンダル、荒唐無稽な政策を見て「さすがに大統領に選ばれることはないだろう」と思っていた。けれど結局トランプは勝ち、上院も下院も共和党が議席を握った。事前の見込みはひっくり返った。

 

けれど、起こったことは事実だ。アメリカの人たちは彼をリーダーとして選んだわけだし、その結果を受け入れて尊重するのが民主主義というやつだ。

 

そしてもう一つ。ゾッとした理由は、赤と青に塗り分けられた地図に見覚えがあったからだ。思い出したのはイギリスのEU離脱を決める国民投票。Brexitの時も、結局、投票前に報じられていた見込みは開票当日に覆った。

 

地図は二つの国の分断をクリアに示している。

 

EU離脱=青、EU残留=黄色に塗り分けられたイギリスの地図は以下。

 

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北部のスコットランド、北アイルランドを除けば、EU残留派が大勢を占めているのは南東部のロンドンやオックスフォードが中心だ。

 

そして今回、トランプ=赤、クリントン=青に塗り分けられたアメリカの地図は以下。

  

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ニューヨーク州やカリフォルニア州はクリントン、民主党支持の「青い州」だ。そしてトランプと共和党に票を投じた「赤い州」は内陸に広がっている。そして、デトロイトのあるミシガン州、オハイオ州、ペンシルバニア州など「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる地域の趨勢がトランプ支持に雪崩れたことが決定打となった。

 

上記の二つから思ったのは、どうやらロンドンやニューヨークはある種の「都市国家」になってきているのだろう、ということだ。そしておそらく、東京も。グローバル企業が拠点を置く都市に暮らしている人たちの価値観や思想と、内陸の郊外や田舎に暮らす人たちの価値観の乖離は、どんどん広がっている。

 

ロンドンにはシティがあり、ニューヨークにはウォール街がある。多くの金融機関がそこに拠点を置いている。メディア企業や情報産業も都市に拠点を置いている。商社もある。カリフォルニアにはシリコンバレーがあって、そこには世界的なテクノロジー企業が集まっている。彼らが相手にしているのはグローバル化を前提にした「オープンになっていく世界」だ。金融資本も情報も国境を軽々と超えてリアルタイムで移動する。富を生み出すのは知識と人的資本で、だから生まれた場所も人種も性別も多様な人たちが集まることが「是」とされる。多文化で、フラットで、より多様性に寛容で、より自由でクリエイティブな環境が称揚される。

 

一方で、内陸に暮らす人たちの目の前にあるのはグローバル化によって「閉ざされていく世界」だ。工場では、かつての雇用や繁栄が、少しずつ抜けていく歯のように失われていく。大きな視点で見ればそれは地球規模の富の平準化に他ならないのだろうけれど、そんなことを言われようがなんだろうが、その地に這いつくばって生きてきた人たちの間に「ふざけんな」という苛立ちは募る。

 

うねりを生み出したのは決して「貧乏な白人労働者階級」ではない。年長の高所得者層、つまり従来から共和党を支持してきた富裕層もトランプ支持に動いたことはデータが示している。以下の記事にそれが詳しい。

 

bylines.news.yahoo.co.jp

 

一方でシリコンバレーの投資家たちは平常心を失い、(半ばジョークだろうけど)カリフォルニアの分離独立を主張するような人すらいる。

 

jp.techcrunch.com

 

年齢に関しては若者がヒラリー、高齢者がトランプを支持していたことをデータが示している。特にミレニアル世代の投票結果を見るとほぼ全ての州が青に塗りつぶされている。

 

 

 

これも理由は明らかで、ミレニアル世代(特に若くして政治に関心を持つような高い教育を受けている階層)が見ているのは、やはり前者の「オープンになっていく世界」だからだ。たとえ住んでいる場所は田舎でもその機会は開かれている。一方で、内陸の郊外や田舎で暮らす中高年層たちが見ているのは、たとえ工場や地元企業の経営者だったりして所得は高くても、やっぱり後者の「閉ざされていく世界」だ。

 

そしてトランプは後者に、強く、強く訴えかけた。

 

まあ、そんな風に簡単に世の中を二分できるという考え方自体がどうなんだろう、という気もするけど。少なくとも、今回の投票結果を導いたものの一つに「アンチ・エスタブリッシュメント」の潮流があるのではないかというのは以前から指摘されていたところ。

 

だからメディアはこの潮流を予測できなかった。というか、メディア企業の人たちは前者の「オープンになっていく世界」に属する人種で、後者の人たちの中に身体ごと飛び込んでいくのは、マイケル・ムーアのような数少ない例外を除けば、ほとんどいなかった。

 

だからマイケル・ムーアは7月の時点から「トランプが大統領になる」と繰り返し予測してきた。

 

www.huffingtonpost.jp

 

そして、マスメディアも含めて「より多様性に寛容」なはずの人たちの中には、選挙戦を通して、後者の人たちの愚かさを叩いたり、蔑んだりするような動きもあった。だからこそ、分断の溝は深まった。

 

そういうことなのではないかと思う。

 

■ 「ミュージシャン VS トランプ」の結果

 

この結果を受けて、僕が強く感情を揺さぶられたのは、エンターテイメントやポップカルチャーについてのことだ。

 

今回の大統領選の結果自体は、いろいろな思いはあるけど、フラットに受け止めようと思っている。だけど、はっきりと悔しい気持ち、とてもつらい落胆の感情があるのは、僕の大好きなアメリカのミュージシャンたち、俳優や、映画の作り手たちが、束になっても「勝てなかった」ことだ。

 

僕は特にアメリカの音楽シーンを支えるミュージシャンたちの動きを注視していた。日本と違って、多くのアーティストが政治的なスタンスを明らかにするのがアメリカという国だ。

 

そして、見たところ、トランプ支持のアーティストはほとんどいなかった。キッド・ロックとアジーリア・バンクスくらいかな。マドンナも、ビヨンセも、レディー・ガガも、ケイティ・ペリーも、アリアナ・グランデも「#I'mWithHer」(クリントン支持のハッシュタグ)だった。

 

digital.asahi.com

 

カニエ・ウェストも、チャンス・ザ・ラッパーも、エミネムも、アーケイド・ファイアも、いろんなミュージシャンが「反トランプ」だった。ローリング・ストーンズも、エアロスミスも、ニール・ヤングも、R.E.M.も、ホワイト・ストライプスも、トランプの選挙キャンペーンに自分たちの曲が使われたことを非難してきた。

 

news.aol.jp

 

楽曲使用を快諾したのはトゥイステッド・シスターくらいで、「ミュージシャン VS トランプ」の対立構造は明確だった。

 

以下の記事にはその顔ぶれがまとめられている。

www.nme.com

 

ハリウッドだってそうだった。クリント・イーストウッドなど数少ない例外を除けば、多くの俳優や監督がクリントンを支持していた。

 

どれもセレブリティ中のセレブリティたちだ。ツイッターやインスタグラムのフォロワー数を足したらアメリカの全人口を軽く上回るくらいの影響力だ。けれど、彼らの支持や応援は響かなかった。

 

彼らがツイッターでトランプの間違いを論理的に正したり、揶揄するようなことを指摘したりしても、それは結局何にもならなかった。支援コンサートやライブも何度も開かれた。しかしそれも「トランピズム」の潮流を押し返すことはできなかった。

 

なんというか、とても残念で悲しい気持ちがある。「この先の日米関係は~」とか「アメリカ社会の分断が~」みたいな、そういう大上段の話じゃない。応援しているチームが見くびっていた相手チームに負けてしまったときのような、そういう気持ち。きっとそれは僕がレディー・ガガやビヨンセやマドンナやケイティ・ペリーが好きだからで、僕と同じように彼女たちのファンである若者たちも、きっと同じような打ちひしがれた気持ちがあるんじゃないか思う。

 

僕としては、その理由はこんな風に分析している。

 

成功したポップ・ミュージシャンやポップスターは、マイケル・ムーアが言うところの「トランプランド」、この記事で書いた「閉ざされていく世界」に住んでいる中高年層にとっては、やはり違う世界の住人に見えているのだろう。SpotifyやApple Musicなどのストリーミング配信は急速に世界の音楽シーンを一つにしている。大規模なワールドツアーを繰り広げる音楽界のトップスターは、ニューヨークやシリコンバレーで働いている「その気になればどの国でも才能を発揮できる」人たちと同じように「オープンになっていく世界」を目の前にしている。

 

そういうセレブリティたちに、トランプがいかにレイシストでセクシストかをこんこんと説明されても、それは「ポリティカル・コレクトネスの棍棒で殴られた」苛立ちにしか感じなかったのかもしれない。

 

なんと言うか、そういうことも含めて、とても悔しい気持ちがある。

 

■内戦の時代へ

 

ミュージシャンたちは、クリントンの敗北とトランプの勝利を受けて、こんな風にツイートしている。

 

www.cinra.net

 

 

マドンナは「私たちは諦めない。私たちは屈しない」とツイートし、「希望を失わないで」と告げた。

 

  

レディー・ガガは「私は#CountryOfKIndness(思いやりのある国)に住みたい」「#LoveTrumpsHate(愛は憎しみに勝る)」とハッシュタグをつけてツイートした。

 

 

 

ケイティ・ペリーは「座り込まないで。泣かないで。動こう。私たちは憎しみに導かれる国に住んでいるわけじゃない」と。

 

 

 

その他、沢山のリアクションが以下の記事にまとめられている。

 

www.billboard.com

 

pitchfork.com

 

pitchfork.com

 

沢山のミュージシャンが失望を表明し、それでもマドンナやレディー・ガガやケイティ・ペリーをはじめ、多くの人たちがファンを鼓舞するようなメッセージを発している。諦めるな、負けるな、再び立ち上がれ、と。

 

それを見て僕は思う。

 

2016年は、アメリカにおいても、イギリスにおいても、新しい時代の扉が開いたのだと思う。

 

それは、僕が思うにある種の「内戦の時代」だ。資本家と労働者、右翼と左翼、白人と黒人みたいな、従来の対立とは構造が違う。「オープンになっていく世界」と「閉ざされていく世界」、それぞれの住人同士の戦いの火蓋が切って落とされた。それがBrexitと大統領に起こった二つの番狂わせの理由なのかもしれない。

 

そして、おそらく日本においてもそれは同じなのだろう。静かな内戦が少しずつ始まっている。

 

 

【告知】新刊『ヒットの崩壊』が11月15日に発売になります。

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

 

今日は告知。11月15日に新刊『ヒットの崩壊』が、講談社現代新書より発売になります。(amazonでは16日発売ですが、書店では15日あたりから並び始めるはずです)

 

「激変する音楽業界」と「新しいヒットの方程式」をテーマに、各方面に取材して半年くらいかけて書き下ろした一冊です。このブログでも発売までいくつか記事をアップしていこうと思いますが、まずは、ざっくりと内容を。以下が目次です。

 

 ■目次

はじめに

第一章 ヒットなき時代の音楽の行方

1 アーティストもアイドルも「現役」を続ける時代

  • 「音楽不況」は本当か?
  • CDは売れなくともアーティストは生き残る
  • 「ブームはいつか終わるもの」だった90年代
  • 「遅咲きバンドマン」が武道館へ
  • 終わらなかった「アイドル戦国時代」
  • 音源よりもライブで稼ぐ時代に
  • 失われた「ヒットの方程式」
  • 2010年代の前提条件

2 みんなが知っている「ヒット曲」はもういらない?

  • 小室哲哉はこうしてヒットを生み出した
  • タイアップとカラオケがもたらしたもの
  • 「刷り込み」によってヒットが生まれた
  • 宇多田ヒカルの登場と20世紀の大掃除
  • AKB48とSNSの原理
  • 動員の時代
  • いきものがかり・水野良樹が語るJ-POPの変化
  • 音楽は社会に影響を与えているか
  • バラバラになった時代を超えるために
  • 「共通体験」がヒットの鍵を握る

第二章 ヒットチャートに何が起こったか

1 ランキングから流行が消えた

  • 異様な2010年代の年間チャート
  • オリコンチャートからは見えない「本当の流行歌」
  • 音楽は特典に勝てない
  • オリコンはなぜ権威となり得たか
  • 「人間の対決」が注目を集める
  • ヒットチャートがハッキングされた
  • そもそもCDを買う意味とは
  • オリコンの未来像

2 ヒットチャートに説得力を取り戻す

  • ビルボードが「複合チャート」にこだわる理由
  • 「ヒット」と「売れる」は違う
  • ランキング1位の曲を思い出せるか
  • 懐メロの空白
  • カラオケから見える2010年代の流行歌
  • 定番化するカラオケ人気曲
  • J-POPスタンダードの登場
  • ヒット曲が映し出す「分断」

第三章 変わるテレビと音楽の関係

 1 フェス化する音楽番組

  • 東日本大震災がテレビと音楽の歴史を変えた
  • 各局で超大型音楽番組が拡大中
  • フェス文化を取り入れて進化した
  • 「入場規制」が人気のバロメーター
  • スマホでフェスが生中継される時代に
  • 制作者の意識はどう変わったか
  • 「メディアの王様」ではなくなった
  • 「音楽のお祭り」を作る

2 テレビは新たなスターを生み出せるか

  • 狙いは「バズる」こと
  • 人気を測る尺度が複数になった
  • テレビの役割は紹介になった
  • 『ASAYAN』以降の空白
  • 世界的なスターは今もテレビから生まれている

 第四章 ライブ市場は拡大を続ける

  • ライブビジネスが音楽産業の中心になった
  • 音楽体験は「聴く」から「参加する」へ
  • 「みんなで踊る」がブームになった時代
  • 時間と空間を共有する
  • 前代未聞の「事件」がもたらしたもの
  • アミューズメント・パーク化したフェス
  • スペクタクル化する大規模ワンマンライブ
  • ピンク・フロイドとユーミンがライブを「総合芸術」にした
  • ライブの魅力は「五感すべて」の体験
  • メディアアーティストがライブの未来を作る

 第五章 J-POPの可能性――輸入から輸出へ

 1 純国産ポップスの登場

  • 洋楽コンプレックスがなくなった
  • J-POPの起源にあった「敗北の意識」
  • ニッポンの音楽の「内」と「外」
  • 演歌も「舶来文化」から生まれた
  • 『風街ろまん』が日本のロックの起点になった
  • はっぴいえんどのイノベーション
  • アメリカへの憧れと日本の原風景
  • 洋楽に憧れない世代の登場
  • J-POPが「オリジン」になった
  • なぜカバーブームが起こったか
  • ブームの仕掛け人は誰か
  • 大瀧詠一の「分母分子論」

2 新たな「日本音楽」の世界進出

  • なぜBABYMETALは世界を熱狂させたのか
  • 「カレーうどん」としての発想
  • 「ミクスチャー」から生まれた発明
  • 「過圧縮ポップ」の誕生
  • 「パンク」としてのきゃりーぱみゅぱみゅ
  • 原宿の元気玉
  • 中田ヤスタカが作る次の「東京」

第六章 音楽の未来、ヒットの未来

  • 過渡期の続く音楽業界
  • 所有からアクセスへ
  • 拡大するグローバル音楽産業
  • 世界の潮流に乗り遅れた日本の音楽業界
  • 変化を厭い「ガラパゴス化」した
  • この先に何が訪れるのか
  • 音楽を“売らない”新世代のスター
  • アデルの記録的な成功
  • 「ニッチの時代」は来なかった
  • ロングテールとモンスターヘッド
  • サブカルチャーとしての日本音楽
  • 小室哲哉の見出す「音楽の未来」
  • unBORDEの挑戦
  • 健全な「ミドルボディ」を作る
  • 水野良樹が語る「ヒットの本質」
  • 「歌うこと」が一番強い
  • 音楽シーンの未来

おわりに

 

ヒット曲は、かつて時代を反映する”鏡”だった。果たして、今はどうだろうか?

 

――というのが、本の全体のテーマ。「コンテンツ」から「体験」へと消費の軸足が移ってきたここ10数年の変化を経て、音楽ビジネスのあり方はどう変わってきたのか? そして日本の音楽シーンのこの先はどうなっていくのか? というのを、ミュージシャン、プロデューサー、マネジメント、ヒットチャート、テレビ、カラオケ……という各方面のキーマンに取材して書きました。

 

取材に快諾いただいた小室哲哉さん、いきものがかり・水野良樹さん、オリコン株式会社の垂石克哉さん、ビルボード・ジャパンの礒崎誠二さん、株式会社エクシングの鈴木卓弥さんと高木貴さん、フジテレビの浜崎綾さん、ヒップランドミュージックコーポレーションの野村達矢さん、牧村憲一さん、ワーナーミュージック・ジャパンの鈴木竜馬さんには心から感謝をしております。

 

手前味噌ですが、音楽ジャーナリストとしての勝負作のつもりで書きました。発売はもう少し先ですし、まだ書影も出てないくらいの段階ですが、ぜひチェックよろしくお願いします。

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)