日々の音色とことば

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PEOPLE IN THE BOX「『Citizen Soul』 release tour」@中野サンプラザについて


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(2012/01/18)
People In The Box

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PEOPLE IN THE BOXの『Citizen Soul』 release tourファイナル、中野サンプラザに行ってきた。
彼らもMCで言っていたけれど、約1年前に同じ場所で行われた『FAMILY RECORD』のリリースツアーの“リベンジ”を意識させるようなタイミングの公演。あの時は波多野いわくの「あの忌々しい計画停電(笑)」のおかげで、照明も演出も節電を意識したものになっていたそうな。

セットリストは以下の通り。

1.沈黙
2.笛吹き男
3.市民
4.親愛なるニュートン街の
5.見えない警察のための
6.ペーパートリップ
7.技法
8.レテビーチ
9.冷血と作法
10.ブリキの夜明け
11.ニコラとテスラ
12.月曜日 / 無菌室
13.はじまりの国
14.スルツェイ
15.ニムロッド
16.旧市街
17.汽笛
―――――――–
18.泥の中の生活
19.火曜日 / 空室
20.完璧な庭
21.She Hates December
―――――――–
22.ヨーロッパ


こんな風に帰宅後はツイートしたんだけれど、どうもそれだけじゃ整理がつかない感じがあるのだよな。

もちろん、ライヴはすごくよかったし、活き活きしていた。MCでもだいぶ笑いを呼んでいた。

波多野「帽子の中は完全にハゲてるからね!」→「うっそー!(笑)」→「エイプリルフールの責務を果たしました」

とか。

アンコールでの、

大吾「男子に訊きたいんだけど、三人の中で誰が好き?」
客席「健太さんです」
波多野「僕も男子に人気あるはずなんだけどなー」

とか。

終盤、“泥の中の生活”で帽子を脱いで、ギターも置いて、謎の舞を踊りだしたり、とか。


MCだけじゃなく、鳴らされている音にもステージの上で演奏を全身で楽しんでいる感じがあって、そのことが伝わってくる。以前の彼らのライヴじゃ信じられないことだよなあ、と思う。以前はもっと表現主義的な、楽曲の世界を見せるための演奏をしていた感があった。そういう結び目がほどけて、どんどん自然体になっている、というか。

ただ、ずっと彼らの音楽を追ってきた身として、新作『Citizen Soul』を聴くと、その“自然体”に、もう一つの側面があるような気がしてならない。それは、ざっくりと言うと、


「誰よりもほがらかに怒っている」

というか。その怒りはある種の抑圧として働く世の中の“当たり前”に、人々の価値観を“本能”から遠ざけるものに、向けられている。そういう規範や善悪の基準よりも“美しさ”が上位にあるという意識は、波多野裕文という表現者の核にあるものだと思う。


「表現の元々の出発点ていうことですか? それは……なかなか一言では言えないんですけど。僕が表現したいものは、誰もピックアップしたくないような美しいところをピックアップすることですね。それは、あるときは、善悪とか、倫理観に触れることだったり、人が傷ついたりすることだったりとかするかもしれない。その行為や物事の美しい部分、そういうものに対するまだ言葉になっていない部分、感情みたいなものを、音楽で表現したい。音楽ならそういうことができるんで。そういうのをやっていきたいと思ってます」
(『MARQUEE』2009年10月発売号インタヴューより)


で、『Citizen Soul』は、そういう意識が、これまでの中でも最も直接的なメッセージとして立ち現れたアルバムだと思っている。

《あの太陽が偽物だって どうして誰も気付かないんだろう》(“ニムロッド”)

という歌詞の一節が、とても象徴的だ。で、怒りが強くなっているぶん、音楽自身はどんどん楽しくなっている。満面の笑顔と強い怒りを矛盾せずに同居させていて、それが自然体の表現に結実している。

なんか、そういうライヴだったと思ったんだよね。