日々の音色とことば

usual tones and words

雷雨中断のRADWIMPS at SETSTOCK '12 レポート

ライヴが終わったあと、しばらく呆然としていた。放心状態だった。それくらいの体験だった。


10周年を迎えた西日本最大級の野外フェス「SETSTOCK '12」。その1日目のヘッドライナーをつとめたのがRADWIMPSだった。ちなみに、彼らが2012年に出演した夏フェスは、「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」とこのフェスの二つだけ。すごくレアな場だったし、キャリアの上での重要なマイルストーンを示すシングル『シュプレヒコール』をリリースしてからの大事なライヴの場所だった。それを目撃したいと思って、会場に向かった。

会場についたのは正午12時頃。その頃の会場の写真がこれ。

眩しく照りつける太陽。でも芝生が広がり木々が点在する丘には、時折風が吹き抜ける。快晴の一日。この時点では、あんなステージになるなんて、誰も想像していなかったと思う。

この日出演したその他のアクトの速報レポートは、以下のページに書きました。

SETSTOCK'12 速報レポート | Just another NEXUS site http://www.nexus-web.net/column/setstock/
ここに書いてある通り、夕暮れまで、とても心地いい空気だった。後で知った情報によると、この地域の雨雲レーダーは19時30分頃から強い雷雨を予報していたらしい。もちろん、会場にいた2万人のほぼ全員は、あの時点ではそのことは全く知らない。

19時15分。桑原彰、武田祐介、山口智史、そして野田洋次郎の4人が登場。大歓声。おそらく彼らを一番の目当てに集まった人たちなんだろう。興奮が伝わってくる。1曲目は“DADA”。スネアのイントロから、爆発するようなアンサンブルに飛び込む。目線で会話する4人の息遣いが伝わるような演奏。すごい! すごい!と思っていると、顔にポタリと水滴が落ちる。雨?

続いては、“ます。”“有心論”。どちらもメジャー2ndアルバム『RADWIMPS 4 〜おかずのごはん〜』に収録されたナンバー。疾走する2ビートのサビに飛び込んでいく“ます。”と、半径の大きなメロディで包み込むような“有心論”。どちらも過去の曲だけれど、『絶体絶命』を経て格段にブラッシュアップされたバンド・アンサンブルで鳴らされる。《息を止めると心があったよ そこを開くと君がいたんだよ》。会場から合唱の声が上がる。次第に雨が強くなる。

そして、“G行為”。打ち込みのビートの向こう側に、雷の音が響き始める。ドーン、ドーンという低い音。バーン!という爆音。強くなる雨。曲調の不穏さに拍車をかけるように、稲光が瞬く。大丈夫? そんな風に見回す表情がちらほらと見え始める。そして、スタッフがメンバーに駆け寄り、音が止む。

雷雨により、一時中断。スタッフがステージからアナウンスをする。「近くに雷が落ちました。みなさんは、落ち着いて、ゆっくりとその場にしゃがんでください」「木やテントから離れて下さい」。その時のツイートと写真がこれ。


後々思えば、パニックが起こらないように、そして安全を考えて高い木に近づかないよう誘導したスタッフの方の尽力は素晴らしかったと思う。僕はバックステージのテントに戻り、Webレポート用のノートPCが雨を浴びないようにビニール袋で覆うなどの作業をしていた。フジロックで毎年活躍しているレインウェアを上から着込んだけれど、それでも服まで水が染みてくるほどだった。雨脚はこれくらい強かった。

そして、40分〜50分くらいの時間が経過した。その間、土砂降りの雨の中、じっとしゃがんで待っていたお客さん全員の忍耐力は、すごかったと思う。なにせ、そのままライヴが中止になってしまう可能性だって、あったのだ。僕の脳裏には、いくつかの風景が浮かんだ。2000年、ROCK IN JAPAN FESTIVALの初年度の中村一義。1997年、FUJI ROCK FESTIVAL初年度のレッド・ホット・チリ・ペッパーズ。どちらも台風による中止。僕はそのどちらの場にも居合わせている。後からはいくらでも「伝説」なんて言えるけれど、リアルタイムでのやるせない気持ちは肌身で知っている。こんな形でRADWIMPSのライヴも語り継がれることになるのかな、なんて一瞬思う。

しかし、中止になることはなかった。スタッフから復旧に向けて作業が続いていることが告げられる。安堵のような歓声が上がる。幾分弱まった雨の中、サウンドチェックが続く。


そして、再び4人がステージに登場。

僕は、復旧が決まってからの短い時間のあいだ、野田洋次郎がどんな第一声で戻ってくるのかな?と考えていた。「ごめんね」「待っててくれてありがとう」「大丈夫だった?」。そのどれか、かな。そんな風に思っていた。でも彼の第一声は全然違った。

「%&$#&!!」

文字で書こうとするならそうとしか書けないような、言葉にならないハイトーンの絶叫。思わず鳥肌が立った。「ちくしょう! もう知らねえ! 好き放題やります!」。そして“おしゃかしゃま”。ゾクゾクした。まるでそこら中で火薬が爆発してるみたいな演奏だった。

さぁ無茶しよう そんで苦茶しよう
二つ合わさって無茶苦茶にしよう.

さぁ有耶しよう そんで無耶しよう
二つ合わさって有耶無耶にしよう

この冗談みたいな歌詞の言葉が、あんなにリアリティを持って響いた場所は、僕は他に知らない。まるで天に喧嘩を売ってるみたいだ。そう直感で僕は思った。大抵の人なら「しょうがないよね」であきらめてしまうことすら、全身全霊でひっくり返してしまおうとしているかのようなエネルギー。続けて、“君と羊と青”。やっぱり、途轍もないテンションの高さ。4人が円になって、目を見合わせて演奏する。

そして、“トレモロ”。野田洋次郎はこんな風に言った。「今、こんな天気だけど、この雲の上に満天の星空があるの、想像できますか? お前らの想像力を見せてくれよ」。そして、こう歌い始めた。

満天の空に君の声が 響いてもいいような綺麗な夜
悲しみが悲しみで終わらぬよう せめて地球は周ってみせた


満天の空に君の声が 響いてもいいような綺麗な夜
悲しみが悲しみで終わると疑わぬように 神様は僕に夢を見させた
今開いていたページの上に描いてみようかな
「離さないよ 繋いでたいの 僕は僕の手を」
今 止まっていた景色が動き出した気がしたんだよ


鳥肌が立ちっぱなしだった。音源で聴くより数段激しく、そして強い意志をこめた演奏。歌詞の言葉の持つ意味が、「いま、ここ」の現実とリンクする。そうだ、RADWIMPSは「このこと」を歌ってきたバンドだった。この日はやらなかったけれど、“オーダーメイド”にしても、“シュプレヒコール”にしても、そう。「神様が決めたこと」に対して、「決まってるんだからしょうがないね」じゃなくて「なんでそうなってるんですか?」と問いなおすような曲を歌ってきたバンドだ。だからこそ、再登場のときの第一声が「ごめんね」でも「大丈夫?」でもなくて、言葉にならない叫び声だったんだと思う。

曲を終え、野田洋次郎は、雷雨と嵐による中断のなか、スタッフにライヴを中止する判断の話を持ちかけられたときのことを語る。

「SETSTOCKは2005年からオープニングアクトで出させてもらったフェスで、ウチらが初めて出たフェスで、ウチらが心より愛するフェスです。そのフェスで、初めてトリをつとめさせてもらいました。だから終われねえって言ったんだよ!」

そして「SETSTOCK、10周年おめでとう!」とフェスの歩みを祝い、「ありがとう、愛してます」とオーディエンスに感謝を告げ、未来の再会を約束して、最後に一曲“いいんですか?”。

いつの間にか、雨は上がっていた。あの曲を一緒に歌っていたオーディエンスの一人一人は、ずぶ濡れだったけれど、それでも不思議なほどの肯定感に包まれていたと思う。少なくとも、僕が見回した範囲ではそうだった。そして、終演後には、花火が上がった。ほんの数十分前の豪雨を思うと、ウソみたいな夜空だった。



■想像力が現実を上書きする


中断後からのたった4曲で、とても鮮烈な物語を彼らは描いた。喜怒哀楽のそれぞれの極限、その点と点を結んで線にしたようなステージだった。おそらく、雷雨による中断で誰よりも口惜しい思いを抱えていたのは野田洋次郎本人だったと思う。でも、限られた時間の中で、雷雨の記憶をクリアに塗り替えるようなステージを、彼らは見せた。

帰り道。僕が考えていたのは、「想像力が現実を上書きする」ということについて。あのとき、フィールドでは沢山の人たちが、震えながら膝を抱え、雨に打たれていた。寒かったし、ずぶ濡れだった。あんな状況の中「この雲の上に満天の星空があるの、想像できますか?」なんてことを言える人、なかなかいないと思う。

でも、確かに“トレモロ”を聴きながら、僕はあの公園の上に広がる綺麗な夜空のイメージを思い描くことができた。ひょっとしたら、数年後に振り返ったこの日の記憶の中では、激しい雷雨と、ライヴの興奮と、そして(見えなかったはずの)満天の星空が、一緒になっているかもしれない。

想像力は、ときに目の前の現実を、上書きする。そういうことを可能にするのも、彼らの音楽が持つ不思議な効力のひとつ。

そんなことを考えながら、東京への帰途についた。


[セットリスト]

1.DADA
2.ます。
3.有心論
4.G行為
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雷雨により中断
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5.おしゃかしゃま
6.君と羊と青
7.トレモロ
8.いいんですか