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日々の音色とことば

新刊『ヒットの崩壊』が出ました。

2012年の「シーンの垣根を壊した5曲」(その1)

2012年も半分以上がすぎ、自分が聴いてきた、熱くなった音楽を振り返る。

いろんなことを語りたいんだけど、特に、ボーカロイドやインターネットミュージックを基点にした音楽に、やっぱり重要な起点となる曲をいくつも知ることができた実感がある。ぐつぐつと渦巻く噴火前のマグマみたいなものじゃなくて、ちゃんとそれが成熟した形で花開いたものとしてのキーポイントを示すアンセミックな曲、というか。

2012年は変化の年になるはずなので、ちゃんと今のうちに、点と点を線でつないでおこうと思う。そういう5曲。

■米津玄師 『vivi』

この人については、もうきっと知っている人のほうが多いと思う。ボーカロイドPとして既に大きな人気を獲得していたハチというクリエイターが本名の「米津玄師」として自分の声で歌い、今年5月に1stアルバム『diorama』をリリース。彼のデビューは、明らかに一つの分水嶺になった。

「たとえば椎名林檎がそうであったように、あるいはBUMP OF CHICKENがそうであったように、ひとつの音楽がその後のシーンの流れを変えてしまうことがある。5月16日発売のアルバム『diorama』でデビューする米津玄師という存在は、間違いなくそういうものだ」
(『MUSICA』6月号より)

「間違いなく10年に1度の才能を持ったとんでもないアーティストである。米津玄師は音楽シーンを一気に進化させ、変えてしまう力量を持つアーティストだ。このデビュー・アルバム『diorama』から、日本の音楽シーンは新しい時代を迎えることになる」
(『ROCKIN’ON JAPAN』7月号より)

こうやって音楽誌の煽り文句を並べると、皮肉っぽい見方をするなら、いかにも『NME』っぽいハイプに思えたりもして。でも、実際、僕だって音源が届いて初めて聴いたときには同じことを考えてたんだから、しょうがない。鳥肌が立つような、ゾクゾクした感触を覚えたのが、今でも記憶に残っている。

でも、改めて考えてみると、彼の紹介において「音楽シーン」って言葉を使っちゃうのって、わりと無自覚なことだよなあ、と自戒を込めて思ったりもする。彼がボーカロイドP「ハチ」として活動を始めたのは2009年のことで、初のミリオン達成曲“結ンデ開イテ羅刹ト骸”も、その年の夏の発表。

すでにここには、後の『diorama』にも散見される彼のオリジナリティ、不穏な不協和音とノイズを用いた過剰な作風の萌芽が表れている。そして、僕が彼のことを知ったのはその後の“マトリョシカ”がきっかけ。2011年のことだったと思う。すでにその時のカラオケのランキングで1位になっていた。すでにそこには「シーン」があったし、そこで彼はちゃんと才能を発揮し、それを人気につなげていたのだ。そういう考え方をすると、彼は、いわゆるロック雑誌がいう音楽シーンに「登場した」のではなく「発見された」というほうが、正しいということになる。

まあ、そういうのは、言ってみれば瑣末な話。大きいのは、彼の登場が、明らかに「垣根を壊した」ということ。他にも才能を持ったボカロPは沢山いるし、去年から、ボカロPがメジャーデビューを果たす流れも増えてきている。けれど、なぜ彼の登場が決定打になったのか。やっぱりそれは、いろんな人が言っているように、圧倒的な情報の奔流が前提になり誰もが簡単に誰かにアクセスできるようになった「00年代以降」の現実を前提にしたサウンドのセンスと、それでも「みんなと、そしてあなたとは、決してひとつになれない」という巨大な孤独感が、音楽に結実しているからだと思う。

愛してるよ、ビビ 明日になれば
バイバイしなくちゃいけない僕だ
灰になりそうな まどろむ街を
あなたと共に置いていくのさ
(“Vivi”)

livetune feat. 初音ミク 『Tell Your World』

でも、そもそも”「みんなと、そしてあなたとは、決してひとつになれない」という巨大な孤独感”なんてものは、ボーカロイドのシーンとは、あまり接点のない感覚なのではないかと、一方で僕は思っていた。むしろ、誰でもが参加できるアイコンとしての側面を、僕はずっと感じていた。

2007年の「初音ミク」の登場から5年。ボーカロイドのシーンは、「初音ミク」というキャラクターを媒介に、様々なクリエイターがそれをN次創作的に共有することで広がってきた。いろんな人が「ひとつになれる」という高揚感と興奮が、その起爆剤になった。それが大きなエンジンになって、沢山の新しい表現のフィールドが広がってきた。もちろん人によって考え方は違うけれど、僕はそういう風に捉えている。

去年の末に公開され、『Tell Your World EP』として今年3月にリリースされたlivetune feat. 初音ミク 『Tell Your World』。「Google Chrome」のCMのために作られたこの曲は、そういうことを表現した曲。ボーカロイドだけでなく、インターネットとソーシャルメディアが普及したおかげで「みんな」に広がった可能性を、鮮烈なメロディとクリアな言葉で歌い上げた曲だった。

基本的に楽曲を作る作業ってひとりで進めるじゃないですか。それがインターネットを通じてたくさんの人とつながることで、イラストや動画、ダンスなど、クリエイター同士の縁が広がっていくんですね。僕が感じたそんなインターネットのすごさを、もっと感動的にとらえてもいいんじゃないかと思ったんです。”

(ナタリー - [Power Push] livetune
http://natalie.mu/music/pp/livetune

これは作曲者、kz(livetune)の言葉。そもそも、彼自身がボーカロイドの、そしてインターネットミュージックシーンのパイオニアであったことが、この曲の持つ物語と意味の強度を、とても強固なものにしている。”Packaged”の発表は2007年9月、そしてメジャーからのアルバム『Re:package』のリリースは2008年。

彼はこうも言っている。

ソーシャルメディアの発達によって解放された全ての表現者たちへのアンセムです。僕自身、今こうして色々な音楽を作ることができているのはインターネットのおかげだと思ってるので、インターネットに対する愛の歌でもあります。”

HMV『Tell Your World』発売記念インタビュー)
http://www.hmv.co.jp/news/article/1203010088/

そして、やはりここでも、大きかったのは歌詞だと僕は考えている。「インターネットに対する愛の歌」をとても高い純度で形にした強い言葉の力が、この曲をアンセムにしたんだと思う。

君に伝えたいことが 君に届けたいことが
たくさんの点は線になって 遠く彼方へと響く
君に伝えたい言葉 君に届けたい音が
いくつもの線は円になって 全て繋げてく
どこにだって
(“Tell Your World”)


そして。

livetuneが"Tell Your World"で表現した「みんなが一つになることができる」ことの高揚感と、米津玄師の「目の前のあなたと一つになれない」“Vivi”の孤独感は、コインの裏表のようなものだ。どちらが嘘で、どちらが本当ではない。90年代のイギリスに喩えるなら、アンダーワールドの“Rez”とレディオヘッドの“クリープ”、みたいなね。両方が、とても純度の高い音楽になる。アンセムになる。

そういうものが生まれたのが、2012年の日本だったと思うのだ。

(まだまだ続くよ)