日々の音色とことば

usual tones and words

95年の“渋谷系”の話/その頃のぼくらといったら、いつもそんな調子だった

1990年代に世界同時多発で盛り上がった“渋谷系”ムーブメントを象徴する楽曲を、現在のインディーズアーティストがカバーしたコンピレーションアルバム「渋谷系 リスペクト」が、3作連続でリリースされる。

(〜ナタリー「パーフリからCymbalsまで「渋谷系リスペクト」3作発売」より)
http://natalie.mu/music/news/78174

今日は“渋谷系”について語ろうと思う。でも、これはとても個人的なお話。シーンとかムーヴメントとかそういう大きな視点ではなく、個人のリスナー遍歴としての些細な、でも僕にとってはとても大事な話。

僕は95年に大学に入った。そこで沢山の音楽との出会いがあった。その頃がちょうど“渋谷系”の爛熟期だった。小沢健二が『LIFE』をリリースしたのが94年のことで、その後に『強い気持ち・強い愛/それはちょっと』から『痛快ウキウキ通り』までシングルを連発していたのが95年。

カローラIIにのって (1995年1月1日)
強い気持ち・強い愛/それはちょっと (1995年2月28日)
ドアをノックするのは誰だ? (1995年3月29日)
戦場のボーイズ・ライフ (1995年5月17日)
さよならなんて云えないよ (1995年11月8日)
痛快ウキウキ通り(1995年12月20日)

一年に6枚シングルがリリースされている。今考えると、ちょっと神がかった、躁的なハイペースだったと思う。

一方、コーネリアスは95年11月に『69/96』をリリース。リードシングルとして同年10月にリリースされた『MOON WALK』は、CDじゃなくて「カセットテープ」での発売だった。あの頃、まだまだカセットテープは現役で、でもお店でカセットテープの商品が売ってるのは最早演歌くらいなもので、だからコーネリアスが突然カセットテープを発売したのにはビビったものだった。

あの頃、音楽を聴くのはミニコンポかCDラジカセで、CDは友達から借りるものだった。だから、新譜が出たらいち早くチェックしたり、サークルの飲み会でそれをネタにずっと話したり。この頃はCDショップに行くのが楽しくてしょうがなかった。カラオケに行けば定番だったのは“今夜はブギー・バック”。これは94年のリリース。

その頃のぼくらといったら
いつもそんな調子だった
心のベスト10 第一位はこんな曲だった


95年は、僕にとっては大事な一年だった。小沢健二や小山田圭吾がフリッパーズ・ギターとして活動していた90年代の前半の頃、僕自身は邦楽をほとんど聴いてなかったので、フリッパーズ・ギターは後追いで知ったのだった。

中学生時代の僕はメタル少年で、高校時代はキング・クリムゾンとかEL&Pとかイエスとかプログレばっかり聴いていて、だんだんそれで飽きたらずイタロ・プログレとかジャーマンとかカンタベリー系も攻め始めていて、それはそれでおかしな思春期だったと思うんだけど、少なくともリアルタイムの日本の音楽とは全く接点がないまま高校を卒業していた。ユニコーンもブルーハーツも、BOOWYもバンドブームも、どこか「対岸の出来事」だった。なので、95年にあったいくつかの出会いは、その後の僕の人生を決定付けるほどのインパクトだったんだと、今になって振り返って思う。

(ちなみに。かつて80年代はプログレ専門誌だった『MARQUEE』が渋谷系に傾倒していく路線変更を行ったのもこの辺りのことで、熱心な読者ではなかったものの、同じく「プログレ→渋谷系」というリスナー遍歴を辿った自分が、今その雑誌で仕事させてもらっているのは、奇縁だなあ、と思う)

“渋谷系”って、人によっていろんな捉え方があると思うんだけれど、僕にとっては、その当時の記憶と、その頃の大学の一年先輩だった人の記憶と、不可分に結びついている。だから、一般的な“渋谷系”の定義とはずれるような曲も一緒くたになってるんだけど、そんなのは僕にとってはどうでもいい。


フリッパーズ・ギター“Coffee-Milk Crazy/コーヒーミルク・クレイジー”


yes, mama ok?“コーヒーカップでランデヴーって最高よ”


カヒミ・カリィ“ハミングが聞こえる”


ハイポジ“身体と歌だけの関係”


ZABADAK“遠い音楽”

その後、99年に僕は音楽雑誌の編集者として仕事をするようになった。それからも、その人のツボは熟知しているつもりだったので、「これは」と思う新譜や新人が出てくると、会った時に必ず薦めていた。数年前、まだ「LOVEずっきゅん」がmyspaceで騒がれているくらいの頃の相対性理論を「絶対、気に入ると思いますよ」と教えたときもあった。次に会った時に、まるでキンキンに冷えたビールを飲んだ後みたいに目を細めた顔で、「アレはあざといね」と嬉しそうに返してくれたのは、よく覚えている。


相対性理論"LOVEずっきゅん"

“○○系”とか“サブカル”とか、そういう言葉はとても便利だ。僕もよく使う。でも、そういう風に何かを一括りにして語ったつもりになってしまわないように、いつも気をつけている。特に、早とちりに「終わった」とか「今、来ている」とか言ってしまうのは、僕はあんまり好きじゃない。ブームとか流行とは全く別のところで、人にはそれぞれ「その人のツボ」があって、そちらのほうを僕は信用している。

今だったら、あの人に何を薦めようかな。田中茉裕とか、絶対気に入りそうだなあ。こないだの8月に奈良美智さんの個展でミニライブやったんですよ、とか。食いつきそうだなあ。そんなことを、ぼんやりと考えている。


田中茉裕 "小さなリンジー"