12月12日、タワーレコード限定の500円シングルとして、うみのて『もはや平和ではない EP』がリリースされた。
ようやく、この曲が音源化された。この曲を最初に知ったのは今年の春のこと。笹口騒音ハーモニカの弾き語りで、どこかのライヴで観たのがきっかけだ。
今日もどっかで起こってる
小さな戦争 小さな悪意 小さないたずら 小さないじめ 小さな欲望 小さな声
やがて重みに耐えきれず
どっかがぷっつりキレるだろう
やがて痛みに耐えきれず
僕らはぷっつりキレるだろうその日までその時まで 知らないふりを続けるのか
面倒臭がって明日にしよう 見て見ぬふりを続けるのかもはや平和ではない
僕らは毎日注意深く 慎重に暮らしてる
誰も傷つけないように 誰にも傷つけられぬよに僕らの平和はつぶされる
一人の馬鹿に 一人の馬鹿 一人の馬鹿 一人の馬鹿 一人の馬鹿ひとりのバカ!
「笑っていいとも!」やってる限り平和だと思ってた(そうですね!)
「笑っていいとも!」やってる限り平和だと思ってた(そうですね!)けど
もはや平和ではない
その後、YouTubeでこの動画を観た。2分30秒からの展開に目が離せなかった。
天才だ、と思った。
その後、鉄琴とキーボードのnekiが加入し、今の5人編成になったうみのてを初めて観たのが、今年の8月のこと。曲のインパクトもさることながら、何よりバンドサウンドが格好よかった。ギターの轟音が渦を巻き、鉄琴はキュートに響き、眩い音が鳴っていた。
うみのて、初めて観た。揺さぶられた。もっていかれた感じ。笹口騒音ハーモニカは観ていたし、曲自体はYouTubeで知ってたけれど、生で観ると全然違う。あんなに尖った攻撃的な言葉が、陶酔的でユーフォリックな音楽として響いていた。
— 柴那典さん (@shiba710) 8月 23, 2012
興奮したまま、新宿ロフトの物販ブースでアルバム「NEW WAR(IN THE NEW WORLD)」~『新しい戦争を始めよう』オリジナルサウンドトラック~」を購入した。
そして、その頃から、あっという間に時代は変わった。
笹口騒音ハーモニカが「もはや平和ではない」という曲を作ったのは、かなり前のことだ。曲の直接的なモチーフは秋葉原無差別殺傷事件で、2008年のこと。
しかし、2012年12月12日。「戦争をするぞ」という言葉は、選挙戦の街頭演説から聞こえてくるようになった。それも、一介の泡沫候補ではなく、メディアを賑わす新党の党代表の言葉として伝えられた。戦争をしたいという人が、それで何かの問題を解決できると思う人が、一定数いる。それはもはや白日の下に明らかになった。「事実上の弾道ミサイル」という言葉がメディアを飛び交うなか、この曲はタワーレコードの店頭に並んだ。
もはや平和ではない。そうですね。もはや風刺として成立しないほどの肌身に迫るリアリティが、この言葉に生まれてしまった。
ただ、一つだけ指摘しておきたいのは、彼らが歌う”戦争”は、ニュースや政治家の言葉から思い浮かべる “戦争”とは違う、ということ。
第5世代の戦争
笹口騒音ハーモニカが、うみのてが歌う「新しい戦争」とは、「第5世代戦争」のことだ。それは、領土や資源を巡る国と国との衝突ではない。テロのような理念の衝突でもない。徴兵制どころか、軍隊すらも必要ない。そういう戦争が、生まれつつある。これは僕が言い出したことではなく、2009年にアメリカの軍事専門家が提唱したことだ。
WIRED.jp -「第5世代の戦争」:理念の衝突すらない、突発的な暴力の時代軍事理論の専門家たちはこの数年というもの、もっぱら「第4世代戦争」について考えてきた。これは、領土や資源をめぐる衝突というよりは理念の衝突であり、「グローバル・ゲリラ」の概念を唱える著述家のJohn Robb氏が、「アドホックな兵士」と呼ぶ者たちによって遂行されるものだ。
ウェブサイトや衛星電話、国際的な物資調達、24時間放送のケーブルニュース、銀行口座への即時送金などによって、同じイデオロギー、あるいは同じ敵を持つ者は、たとえ何千キロ離れていたとしても団結することができる。John Robb氏は、これを「オープンソース戦争」と呼んでいる
(中略)
「第5世代」と呼ばれる次世代の戦争には、第3世代におけるような軍隊もなく、さらに、第4世代におけるような明確な理念もない。
アフリカ担当のトップ情報部員である米国陸軍のShannon Beebe少佐はこれを「暴力の渦(vortex of violence)」と呼んでいる。将来を見据えた首尾一貫した計画というよりも、フラストレーションをより大きな動機とした、何のルールもない突然の破壊だ。
第5世代戦争は、不満を抱える世界の人々がその絶望を、より高度に組織された第4世代戦争の兵士が開拓した戦術と戦場を利用して、自分たちに欠けているすべてのものを最もわかりやすく体現するシンボルに向けた時に起きるものだ。
「フラストレーションを大きな動機とした、何のルールもない突然の破壊」。これは2009年の言葉だけれど、2012年にいろいろな場所で巻き起こっている状況を、とても鋭く射抜いている言葉だと僕は思う。
僕が取材を担当した北野武監督の『アウトレイジ ビヨンド』についてのインタヴュー原稿でも、このことに触れている。
CINRA.NET - 北野武が語る「暴力の時代」もしかしたら、あと20年か30年後に世界中の人が「このときから人間の破滅は始まってた」って言うんじゃないかな。それが今日のことを指すのかもしれないし。我々が幕末の話をするときに「このときにはもう江戸幕府は終わってたね」って言うのと同じように、世界のあらゆるものが崩壊しだしている。
「暴力の時代」は始まっている。それは肉体的なものではなく、すでに記号上の悪意として、メディア空間の上を跋扈している。
笹口騒音ハーモニカは、うみのては、ずっとこのことを歌い続けている。
新しい戦争を始めよう
それは現代の戦争
殺し合いなんて時代遅れ
銃? ミサイル? ダサイダサイ
ボタン一つでお前をキルユー
情報操作でイレイスユー
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