日々の音色とことば

usual tones and words

2012年、個人的に響いた1曲――XINLISUPREME「Seaside Voice Guitar A.D.」

4 ボムズ

2012年を振り返って、よかった作品、好きな作品は沢山あるけれど、「個人的に響いた1曲」は断然これだったなあ。XINLISUPREME「Seaside Voice Guitar A.D.」。


正直、聴く人を選ぶたぐいの音楽だとは思う。スピーカーが壊れたかと思うくらいのノイズが詰め込まれている。ただ煩いだけの音楽ではなく、まるで暴風雨のような音が鳴っている。ポップ・ミュージックの範疇は、軽く逸脱している。でも、不思議と揺さぶられる。胸が震わされる。僕が最初に音を聴いたときの第一印象は、こんな感じ。





数ヶ月経っても、やはりその衝撃は変わっていない。

世界中の叫び声を、一つの音楽の中で鳴らす

熊本の奇才シンリシュープリームによる、10年ぶりのCD作品である『4 Bombs』。その「10年」という時の重みを追っていくと、何故こんなに奇怪で激しくてエモーショナルな音塊が生まれたのかを、垣間見ることができる。

伝説の轟音エレクトロニカ・ユニット「XINLISUPREME」についてhttp://matome.naver.jp/odai/2134763656931579401
上記のページにもまとめたけれど、XINLISUPREMEがデビューしたのは、2002年のこと。シガー・ロスやムームを輩出したイギリスの名門インディレーベル「FatCat Records」からデビューした日本人アーティストである。デビュー作『Tomorrow Never Comes』は当時の海外メディアでもかなりの賞賛を集めたが、その後はずっと沈黙。僕も名前は覚えていたけれど、「ああ、いつの間にか活動しなくなったんだな」くらいに思っていた。が、どうやら本人は「至上の一曲」を作り上げるべく、マッドサイエンティストのように地元で作業に作業を重ねていたようだった。

彼はインタヴューでこんな風に語っている。

僕にはその時、もしフル・アルバム制作に掛ける全ての時間をたった一つの曲だけに費やしたら、どんな音楽が生まれるのだろう? という考えがありました。しかし、レーベルからはシングルやEPよりも、商業的な理由もあり、フル・アルバムを作って欲しいという要望がありました。本当に迷いましたが、最終的に、至上の一曲を作る環境作りのためにレーベルから離れて、一人で活動する選択を取りました。

「Seaside Voice Guitar」を至上の一曲の候補として選び、2010年の完成まで全ての制作時間をこの曲一つの為だけに費やしました。完成後はもちろんたった一つの曲だけなので、レーベルを通して商業ベースで出せる筈もなく、自分のサイトで公開しただけでした。

[ototoy] 特集: XINLISUPREME『4 Bombs』http://ototoy.jp/feature/index.php/20121013


「耳をつんざくような轟音なのに、聴いてると何故か涙が出てくる」――。僕は、「Seaside Voice Guitar」を聴いて、そんな感想を抱いた。何故そういう風に感情を揺さぶられる曲なのか。彼自身がその意図を明確な言葉で説明している。

世界中のあらゆる叫びをもし全て同時に鳴らしたとしたら、それはウルサいと言う意味でノイズとして聴こえると思います。しかし、一つ一つの叫びはノイズではなく、それぞれの切なる想いなり音楽だと思っています。僕にとって、「Seaside Voice Guitar」にとってのノイズとは、そういった現在過去未来の世界中の叫び声を時空を超えて、一つの音楽の中で可能な限り同時に鳴らそうと挑戦する馬鹿げた試みだったと思います。狂ってると思われるでしょうが、しかし僕はそこにこそ希望があると信じて作リ続けていました。

(同上)




「絶対開けちゃいけないと長年言い伝えられ、固く封じられてきた何かの箱」。つまりそれは、パンドラの箱だ。パンドラの箱のフタを開けたときに、病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなど、この世のあらゆる邪悪が世界中に飛び散ったかのように。悲しみや、嘆きや、怒りや、咆哮や、ありとあらゆる叫びが飛び散ることをイメージして作られた音楽。それがこの曲なんだと思う。(そして、だからこそこの曲には「希望」が込められている)

「たとえばもしこの世界が夢ならば」

そんなことをたびたび思った2012年だったな。


XINLISUPREME - Seaside Voice Guitar (Lyric)

海はあおく染まり 二人きり眺めていた 
さりげなく日射しは 長くのびて照らしてた

海にすい込まれ洗われた 君が描いてた明日は
結構すばらしい詩で
君の横に座った僕は なんにも知らない顔して
脱いだ靴 足元に揃えてた

たとえばもしこの世界が夢ならば
目覚めれば僕は 君を忘れるのかな
似会いすぎた景色のなかで 不安に
少しずつ心をうばわれた

波の数 かぞえてた君はおかえりと強く声かけて
ひとみに僕の心をうつしてた
君は確かに此処にいて 望んでいた風景のなかで
僕を見ている 今の僕がいた

海岸へとひろがる心で遊ぶメロディー
波の音に遇えば 繰りかえし打つリズム 
思いがけず胸の奥まで 長くのびて照らしてた
 
二人は今夜の夏の夢を
朝には忘れてしまうのかな
いつか夢で もしまた遇えたならば
せめて忘れない夏の夢ならば

海はあおく染まり ふたりきり眺めていた
海岸へとひろがる心で遊ぶメロディー
波の音に遇えば 繰りかえし打つリズム 
さりげなく日射しは 長くのびて照らしてた
海をみつめ指先で あなたの心にいますと
砂浜に描いた君は 夢のなかで詩にした
ひとみ閉じれば今も あの日の夢を思いだす
耳をすませば今も
君の歌がきこえてる
たとえばもしこの世界が夢ならば
目覚めれば僕は 君を忘れるのかな
似会いすぎた景色のなかで 不安に
少しずつ心をうばわれた

たとえばもしこの世界が夢ならば