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日々の音色とことば

新刊『ヒットの崩壊』が出ました。

恍惚と暴力の間――MY BLOODY VALENTINE、2月10日新木場

ライヴレヴュー

マイブラ看板

マイ・ブラッディ・バレンタインの来日公演に行ってきました。

僕が行ったのは、2月10日の新木場STUDIO COAST。東京の最終夜にあたる追加公演。

それはもう思い入れのあるアーティストだし、22年ぶりの単独来日だし、単純にめちゃめちゃ素晴らしいライヴだったし、終わった後にはいろんなことを思って感無量だったんだけど、結局最も拡散された感想ツイートはこちらでした。


これ、ほんとにいたからね。

最高だったなぁと思ってフロアを出て、バーカウンターでドリンク引き換えをしようと思って並んでたら、聞こえてきたのが件のカップルの女子の方が発した「なんなの? 歌とか全然聴こえなかったんだけど?」という不満気な感想だったのでした。たぶんその言葉を聞いた瞬間、ここ数年で一番、眉をしかめたと思う。自分ではわかんないけど、たぶん、マジで睨みつけてたと思います。ちなみにツイートでは書ききれなかったけど、男の方はいかにもナードっぽい感じの気弱そうな外国人で、女の子のほうはよくいる「外人狙い」っぽい感じのファッションをしたギャルでした。

別れてしまえ!!(←悪意)


まあ、それは置いといて、本当に最高のライヴだったのと、たぶんSNSだけでなんとなく情報を知ってる人は誤解を抱いていることもいくつかあると思うので、ここでレポ書きます。


マイブラ=「轟音」ではない


開演前に耳栓が配られていたことも話題になっていた今回の来日公演。

マイブラ耳栓


僕のも含め、感想ツイートも結局最後のノイズの部分のところばかり拡散されたので、ひょっとしたら、終始耳が痛いほどの爆音が鳴り響いたライヴだったと思う人もいるかもしれない。「シューゲイザー=轟音」という一般的なイメージも、それに拍車をかけていると思う。でも、それは実は間違い。

爆音のノイズがマイブラの真骨頂なわけではなくて、それはあくまで一部。ラストに披露された「You Made Me Realise」の“ノイズビット”(もしくは“ホロコースト・パート”)と呼ばれる箇所だけが耳栓が必要なほどの強烈なノイズで、それ以外はとても耳に優しい音が鳴っている。たぶん、ただ単純に音量のデシベルが高いという意味での「うるさい音」なら、他にもっとそういうものを鳴らしているバンドはいると思う。

そうじゃなくて、いわば「恍惚」という概念をそのまま体現したような音を鳴らすことができるのがマイブラというバンドの特異性であり、ケヴィン・シールズという人の天才性だと僕は思っている。

シューゲイザー・・ディスク・ガイド』という本を執筆した黒田隆憲(@otoan69)さんは、今回の来日公演の全部に密着しただけでなくマイブラを追いかけてオーストラリアにまで行った本物のダイハードなファンで、彼のツイッターのプロフィール欄に書いてある「My Bloody Valentineを液体にして体内摂取したいくらい好き」という言葉が、すごく象徴的だなあと思っているのです。だって、普通どんなに好きな音楽でも、そのバンドのファンでも「液体にして体内摂取したい」とは思わないでしょ? でも、マイブラの音を液体化して体内摂取したいという気持ち、どこかでわかる気がする。しかもトロトロに気持ちよさそう。


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(2010/03/05)
黒田隆憲

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今回も、基本的にはそういう音がずっと鳴っていたライヴだったのです。1曲目から14曲目までは。しかも背景には『ラブレス』のジャケ写を映像化したような、ゆらゆらと揺らめく映像がうごめいている。すごく気持ちいい。いいなあ、桃源郷だなあと思ってると、ラスト「You Made Me Realise」約20分のノイズ・ビットでぶっ飛ばされる。そういう体験だったのです。


■ほんわかした『ラヴレス』と前のめりな『イズント・エニシング』

で、今回のマイブラの来日で最も驚愕したのが、リズムの格好良さだった。やっぱり、ケヴィン・シールズとビリンダ・ブッチャーの二人に注目が集まりがちだし、基本的には彼らのライヴはそのツートップが鳴らすギターの音を“浴びる”という体験なのだけれど、それをがっしりと支えていたのがコルム・オコーサク(Dr)とデビー・グッギ(B)のリズム隊だった。特にコルムのドラムが、かなりの迫力を叩き出していた。

ちなみに、セットリストは以下の通り。これは今回の来日公演ではどこも同じだったよう。

01. I Only Said(ラヴレス)
02. When You Sleep(ラヴレス)
03. New You(m b v)
04. You Never Should(イズント・エニシング)
05. Honey Power(EP's 1988-1991)
06. Cigarette in Your Bed(EP's 1988-1991)
07. Come In Alone(ラヴレス)
08. Only Shallow(ラヴレス)
09. Thorn(EP's 1988-1991)
10. Nothing Much To Lose(イズント・エニシング)
11.To Hear Knows When(ラヴレス)
12. Slow(EP's 1988-1991)
13. Soon(ラヴレス)
14. Feed Me With Your Kiss(イズント・エニシング)
15. You Made Me Realise(EP's 1988-1991)

見ての通り、『イズント・エニシング』と『ラヴレス』という2枚のアルバムと『EP's 1988-1991』から満遍なくセレクトし、新曲「New You」を加えたセットリストになっている。

こういう流れで体感すると顕著なのだけれど、実は、名盤とされている『ラヴレス』は、彼らのキャリアの中ではわりと異端な音楽性を持っている。端的に言うと、すごくほんわかしてるのだ。「I Only Said」や「To Here Knows When」がわかりやすいけど、『ラヴレス』の音は、ギター以外は、ちょっと遅めのBPMでゆったりしたグルーヴと、上のほうでループするシンセ、ウィスパーボイスのヴォーカルで成り立っている。とても甘くて優しい音色が揃っている。

なので、南波志帆さんがインタヴューの中でマイブラについてこんな風に言っているのは、実はすごく正しい感覚だと思うのだ。

マイブラは最近リマスター盤が出た『ラヴレス』を「おやすみBGM」として聴いているんですよ。ボリュームを小さくして聴いていると、すごく気持ちよく眠れるんですよね

CINRA.NET - 南波志帆インタヴュー「今の自分だからこそ感じる10代の世代感」
http://store.cinra.net/static?content=interview-namba3

ちなみに、今回のセットリストで新曲として唯一披露された「new you」も、新作『m b v』の中では一番「ラヴレスっぽい曲」だった(新作については後日改めてレヴューします)。


で、逆にリズムが前のめりで荒々しくて刹那的なのが『イズント・エニシング』や『EP's 1988-1991』の曲群。ここで大活躍してたのがコルムだった。ここでコルムがドカドカとなぎ倒すようなリズムを叩きだし、デビーのベースがそれをドライヴさせたことで、ライヴならではのダイナミクスと迫力が生まれる。宇野維正さんがこんな風に感想ツイートしてたけど、これには完全同意。


■特別な「最後の20分」

というわけで、マイブラはひたすら完璧でした。嬉しかった。今回のアジア〜オーストラリアツアーの初日になったソウルのセットリストを見て「やり直しばっかりじゃん」と思った人もいるかもしれないけど、ミスとかやり直しのたぐいは、少なくとも僕が見た限りでは一切なし。韓国の人達には悪いけど、あれはウォームアップギグというか、リハスタ感覚だったんじゃないかな。

で、「爆音のノイズがマイブラの真骨頂なわけではない」とは最初に書いたけど、いろんなものをふっ飛ばして、やっぱり記憶に焼き付いたのは、「You Made Me Realise」のラスト20分だった。あればっかりは、じかに浴びた人じゃないと共有できない類の体験。音源には収録されてないし、探せばYouTubeとかにライヴ映像が上がってるのかもしれないけど、それを観たってしょうがないしね。

ツイートでも書いたけど、ほんと、凄まじかった。まさに爆風を浴び続けるような体験。

ケヴィンもビリンダもデビーもギターやベースを激しくストロークしている。コルムはずっとスネアを叩いている。でも、スピーカーから放たれるのは、音程感の一切ない、ひたすら押し寄せる地鳴りのような音の波のみ。しかもずっと同じ音が鳴ってるのではなく、それが少しずつ展開していく。ステージ背後の映像は、森の中を進む光景が繰り返される中でどんどん高速になり、ブレていき、なんだかわかんない抽象的な模様になっていく。ガラス窓が割れ、木々やビルがなぎ倒され、都市が壊滅していくさまを、そのまま音として「聴いている」ような感覚、というのかな。

で、ステージ上の4人が目を合わせて合図をするとノイズパートが突如終わり、メインのリフに戻って、あっけにとられる間もなく終了。気付いたら耳がキーンとしていて、それは一昼夜くらい続いてました。

マイブラ久々のライヴは、純度の高い恍惚と暴力をそのまま音にして、それをひたすら浴び続けるような90分でした。

最高だった。