日々の音色とことば

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「音楽メディア」を巡るあれこれ(3) 〜「NAVERまとめ」と、瓦解するプロとアマの境界線

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■バンド「Wienners」を知らしめた一本の「NAVERまとめ」記事


今回の記事は、

「音楽メディア」を巡るあれこれと、新しい音楽との出会い方http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-544.html
続・音楽メディアを巡るあれこれ〜食べログ研究と「影響力はどこから生まれるか?」という話http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-545.html

の続きです。今回は「NAVERまとめ」について、このサービスが“音楽メディア”として果たしてる役割について書こうと思っています。

とは言っても、そんなに堅苦しい話はなしで。まあ、まずはこれを見てくださいよ。でんぱ組.inc「でんでんぱっしょん」。


いやあ、格好いい! 「W.W.D.」も痛快だったけど、この曲は決定打になると思います。ちなみに、でんぱ組.incについては今でてる『MARQUEE』とこの記事にも書いてあるので、ぜひ。

ももクロとでんぱ組.incと大谷ノブ彦#ANNと「熱量」についての話 - 日々の音色とことば:http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-543.html


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で、ここからの話は、この曲を書いた「玉屋2060%」という人と、彼がフロントマンをつとめるバンド、Wiennersについての話。「でんでんぱっしょん」は、彼が作曲を、畑亜貴が作詞を手掛けている。代表曲「でんぱれーどJAPAN」も、このコンビの手によるものだ。


僕がWiennersを知ったのは、去年のこと。SEBASTIAN X主催のイベント「TOKYO春告ジャンボリー」でライブを観たのがきっかけ。相当ハチャメチャな曲調で、素っ頓狂な展開で、でもメロディセンスには確実にキャッチーなものがあって、「最高なバンドだなあ」と思ってた。

で、その後アルバム『UTOPIA』をリリースするということを知って、しばらくして、ふとバンド名で検索したら、以下の「NAVERまとめ」に行き着いた。

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日本一POPでクレイジーなバンド「Wienners」が最高すぎる - NAVER まとめhttp://matome.naver.jp/odai/2134628077408181701
現時点で5万PV超、お気に入り500超、はてなブックマーク100超。正直、ここまで見られているのにビビった。


(Wienners「Idol」。「でんでんぱっしょん」のMVを観てからこれを観ると、ニヤリとするね)

もちろん、「NAVERまとめ」には、他にも注目を集めてる記事は沢山ある。桁が一つ、二つ違うPV数を集めてる記事だって多いと思う。でも、ウェブメディアをやってる人間の肌感覚として、音楽ネタで、しかもアンダーグラウンドなバンドを「最高すぎる」と称賛してる記事で、ここまでPVを集められるというのは目からウロコだった。

正直、最初はどこかの関係者がプロモーションのためにやってるのかな、とか思った。でも、まとめ作成者の「しろくマン」さんのツイッターアカウントを見たら、どうやらそうじゃなさそうだった。プロのライターというわけでも、もちろんなかった。どうやらWiennersは単に一ファンとして好きみたいだった。

こりゃ、音楽メディアをやってる人間にとっては「NAVERまとめ」は脅威だな、と思った。

もちろん、「NAVERまとめ」にある音楽記事をプロのライターや編集者としての目から見ると「適当なこと書いてんなー」とか思うことも多い。でも実際、特にWiennersのようなバンドにとっては、中途半端な雑誌やフリーペーパーやニュースサイトよりも、こういう「まとめ」記事のほうがバンドを紹介するのに役立ってると思う。で、そのことに編集者やライターは危機感を抱くべきだと思うんだよね。

というわけで、「しろくマン」さんにコンタクトをとって、取材させてほしいとお願いしてみた。以下が、そのインタヴューです。

■「ネットを利用して簡単に一万円くらい稼げる方法はないかな?と思って」

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――まず「NAVERまとめ」をやろうと思った動機は?

ネットを利用して簡単に一万円くらい稼げる方法はないかな?と思っていたときに「NAVERまとめはインセンティブをもらえる」と知り、アカウントを取得しました。去年の夏ごろです。

――ブログ、ツイッターなど個人発信型のメディアは他にもありますが、「NAVERまとめ」を選んだ理由は?(インセンティブはモチベーションとして大きかったでしょうか)

上記の質問と同じ解答になりますが、NAVERまとめを始めた理由は「インセンティブ目的」でした。

――やり始めて、面白いと思い始めた、反響があると手応えを感じ始めたのはいつ頃ですか? (きっかけになった記事は?)

Wiennersの記事がNAVERまとめのトップページに掲載され、一日で「はてなブックマーク」が100以上付いたことですね。ニッチな話題がこんなにたくさんの人に見てもらえるなんて、物凄いパワーを持ったメディアだなぁと驚きました。始めたばかりでもすぐに反響を得ることができるのはNAVERまとめの強みだと思います。

――「まとめ」の題材はどうやって選んでますか?

生活の中で感じたことや自分がハマっているものの中から、ある程度のボリュームを出せそうなネタを選んでいます。

――沢山の「まとめ」記事を作って、PV数から、題材の選び方、タイトルの付け方のコツのようなものは見えてきましたか? もしあれば教えて下さい。

堅苦しい言葉を使わずにちょっと大げさなタイトルを付ける、とかですかね。シェアされやすいのはやはり旬のネタ、季節のイベントネタ、あとアニメ・マンガですね。音楽のまとめは一部で喜ばれるものの、viewは稼ぎづらいです。ただ、「フォロワーの多いtwitterアカウントを持っていれば勝ち」な部分もあるので小手先のテクニックはあまり関係ない気もします。

――今までで最高のPV数を稼いだ記事と、(可能なら)月間PV数は?

最大はhttp://matome.naver.jp/odai/2135861824567172001 の約90万viewです。twitterで拡散されたことと、Yahooニュースに掲載されたことで短期間で爆発的に伸びました。

月間最大PVは約400万PVです。

――(可能なら)上記記事で得たインセンティブ、月間の額を教えてもらってもいいでしょうか。

普段は数万円、上記の記事の月だけいつもより多かったです。PV→円の変換率は人によってかなり違うようで、僕の場合は70PVで1円くらいです。

――他にも気になる、この人の記事は面白い、信頼できると思う「まとめ」人はいますか?

オススメはtakenakoさん(http://matome.naver.jp/mymatome/takenako)ですね。プロのライターさんなので読み物として質が高く、一ファンとして更新されるのを楽しみにしています。


――僕は、ミュージシャンがそうであるのと同じように、ライターやメディアに関わる人間でもプロとアマチュアの境界線は徐々になくなっていると思っています。音楽雑誌の廃刊の話題もあり、音楽メディアの形が変わりつつあるのは間違いないけれど、少なくとも「音楽をもっと多くの人に聴いてもらい、よさを伝える」ということができたら、それは紙だろうがウェブだろうが、雑誌だろうがニュースサイトだろうが「まとめ」だろうが、価値を提供できているのではないか、と僕は思ってます。そういう記事を書こうと思ってますので、もし質問への返答以外にも思うところがあったら教えて下さい。

僕はあくまで素人なので偉そうなことは全く言えません。でも、僕のまとめからCDを買ってくれたり、何度もライブに行って感想を教えてくれた方が何人もいらっしゃって、それは本当に嬉しかったです。もしも音楽メディアの本質的な価値が「良い音楽・好きな音楽を広めること」だとすれば、「NAVERまとめ」も音楽メディアとして機能していることになるでしょうか。タワーレコードのポップのように、素人だからこそ伝えられる魅力はあると思います。NAVERまとめは新規でブログを立ち上げるよりも人に見てもらいやすく、編集も感覚的にできるので、好きな音楽を広めたい方は使ってみる価値はあると思います。

■プロと素人の境界線

以上。

なるほどすごく興味深かった。僕はたまたまWiennersというバンドがきっかけになって「しろくマン」さんを知ったけど、他にも、「NAVERまとめ」には彼と同じように、もしくは彼以上のPV数を集めて「月数万円〜数十万円」を稼いでいる人が沢山生息しているはずだと思う。

そういえば、NHKのニュースでも「NAVERまとめ」は取り上げられていた。僕はあくまで「音楽メディア」としてだったけど、より広い視野で、でも、同じような切り口で、まとめ人に取材していた。すごく興味深かったのが、以下のくだり。

ほぼ毎日、3本から5本程度のニュースまとめ記事を投稿しているという、東京都内に住む30代前半の男性に取材しました。
男性の本業は「演奏家」で、「空き時間の副業として去年からまとめ記事の投稿を始めました。もともとニュースを見たり読んだりすることは好きで、興味を持った国内外の事件事故などのニュースについて、記事だけでは分からないことを自分でネットで検索して、読む人の疑問に答えるようにまとめています。投稿するとTwitterなどで反応がダイレクトに寄せられるのがおもしろくて、のめり込んでいきました」と語りました。

男性は著作権の侵害にあたらないよう、運営側の規約に沿った引用につとめるなどの注意を払っているということです。今では20万円近くを「月収」として得ているということですが「収入だけが目当てではなく、ニュースと関わっていることが好きなので続けたい」と話しています。

NHK NEWS WEB ネット報道の新潮流(1)「まとめ」て読むhttp://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2013_0507.html

一方で、こんな記事もあった。

「大丈夫、電子書籍専業でずっと食べていけるよ」と20代の未経験者にアドバイスするほどの確信はまだないというのが本音です。

IT業界的なコスト感覚で考えられると、お金をgoogleに払うのとライターに払うのとどっちが得かの二者択一の議論になってしまいがち。残念ながら、実績数値が明確に出やすいネットの世界においてはコンテンツに払うよりネット広告に払う方が効率的かつ確実だと考える人が依然として多数派です。
(中略)紙媒体を主戦場としてきたライターさんの中には、そんな現状を全く知らない方もいます。中堅どころの活字系ライターさんに予め原稿料を正直に伝えたところ、「失礼だ!」と怒られたこともあります。

文章で飯を食っていくということ : 本とeBookの公園 ― 21st century Book Story ―http://blog.livedoor.jp/hideorin/archives/26853994.html

ライターになりたいという若者がいたら、「悪いことは言わないからやめておきなさい。文章書きたいなら、別に本職を持ってBlogとかで書けばいい」とアドバイスするでしょうね。

追記:とある「ライター募集サイト」を見てみたら、「初期報酬:100文字50円〜」「初期報酬:100文字17円〜」と書いてありました。2000文字かいて千円? 後者なら340円? 
こりゃ、確かに1万2千円どころの話じゃないですね……

ライターになりたいという若者がいたら - ダリブロ 安田理央Bloghttp://rioysd.hateblo.jp/entry/2013/04/21/172557

電子書籍を立ち上げて10年のキャリアある方や、出版業界でライターとして活躍してる先輩が「悪いことは言わないからライターになるのはやめなさい」と若い人に告げ、その一方で、「空き時間の副業として始めました」「おもしろくて、のめり込んでいきました」と語る人が月20万近くを稼いでいたりする。

そういう現状を見ていると、プロってなんだろう? アマチュアってなんだろう?と、改めて考えてしまうのです。