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日々の音色とことば

新刊『ヒットの崩壊』が出ました。

2013年上半期のCDとレコードを巡るあれこれを振り返る

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■昨年をさらに上回ったシングルCD市場

今回はさらりと、2013年の上半期を振り返ってみたいなーと思います。
まだ5月までの発表しかなかったけど、まずは数字から分析。

一般社団法人 日本レコード協会|2013年5月 レコード生産実績(累計) http://www.riaj.or.jp/data/monthly/2013/201305.html


2012年は久しぶりに音楽ソフト生産数が前年比を上回った年で、「CD不況」とか「音楽業界の先行きは〜」みたいな文言がずーっと続いていたここ10年くらいの風向きが、大きく変わった一年だった。

で、その傾向は今年の上半期も続いている。特に好調なのがシングルCD。

シングルCD(邦盤)25,251千枚前年比103%
シングルCD(洋盤)349千枚前年比55%
シングルCD(合計)25,600千枚前年比102%

邦盤シングルCDの売れ行きは前年比3%増。AKB48さよならクロール」がオリコン歴代最高の初週売上176.3万枚を記録、嵐「Calling×Breathless」も自己最高記録の初週売上75.6万枚と、このあたりが数字を引っ張っているのは間違いない。

もちろん、この辺の現象に対しては握手券とか投票券とか複数枚買いだとか揶揄するようなモノ言いはとても多いんだけど、個人的には「オリコンのシングルチャート」というものの持つ意味がすでに変質している以上、薄っぺらい批判には意味が無くなってきているなーと思っている。

つまり、いわゆる「AKB48商法」への批判というのは、その多くがチャートをハックする振る舞いへの嫌悪感の表明であり、その裏側にはいまだ「シングルCDパッケージの売れ行き順位」がある程度の権威性を持っている、つまりヒットしている(=世間で流行している、よく聴かれている)音楽を上位順に並べたランキングと近似であるという、90年代のCDバブル的な感性が内在していることの表明だったりすると思うのだ。

でも、実際に時代は変わってきているし、たとえば配信チャート、カラオケチャート、YouTubeやニコ動の視聴数のような別軸のランキングも登場してきている。たとえばオリコンレコチョクの上半期シングルランキングを見ても並びは全然違う。

上半期ランキング特集『シングル&アルバムともにAKB48グループが1位!上半期の音楽シーンを振り返る』-ORICON STYLE ミュージック
http://www.oricon.co.jp/music/special/2013/musicrank0621/index01.html
上半期ランキング2013 シングル|レコチョクhttp://recochoku.jp/special/1422/
「パッケージを売る」ということと「音楽を届ける」ということは、もはや全く別の事象になった。そして、その上で、今なおシングルCDが売り上げを伸ばし続けている。昨年に日本はアメリカを抜いて世界一の音楽ソフト市場になったけれど、今年も間違いなくそうなるだろう。世界的に見て、日本はとても特殊な音楽市場になってきている。この辺の話についてはさやわかさんの書いた『AKB商法とは何だったのか』が面白いのでオススメです。

AKB商法とは何だったのかAKB商法とは何だったのか
(2013/06/03)
さやわか

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■健闘する邦楽アルバムセールスと落ち込みを見せる洋楽勢

一方、アルバムの数字を見ると、ちょっと違った風景が見えてくる。

CDアルバム(邦盤)38,728千枚前年比100%
CDアルバム(洋盤)12,038千枚前年比88%
CDアルバム(合計)50,766千枚前年比97%


邦盤アルバムの売り上げ枚数は前年比100%。ミリオンを記録した去年のミスチル2枚同発ベスト盤が5月発売だったことを考えると、そこに匹敵する売り上げのアルバムが一枚もない状態でこの数字というのは、音楽業界的にはわりと明るいニュースなのかも。

で、シングルとアルバムの合計はこんな感じ。

CD合計(邦盤)63,979千枚前年比101%
CD合計(洋盤)12,387千枚前年比86%
CD合計76,365千枚前年比98%

こう見ると、洋楽のセールスが引き続き下落しているのがハッキリしてくる。CDセールスにおいては、邦楽はわずかに上昇、洋楽は対前年比15%近く落ち込むという数字になっている。ワン・ダイレクションのブレイクもあったし、話題作も多かったし、洋楽のセールスは持ち直してるんじゃないかな?と思っていたけど、そうでもないみたいだ。昨年末に以下の記事で「洋楽を聴く層はどんどん減っている」と書いたけれど、少なくともCDのセールスを見る限り、その状況は今年もさらに進行しているみたいだ。

第47回:いつの間にロック少年は「洋楽」を聴かなくなったのか? | DrillSpin Column(ドリルスピン・コラム)http://www.drillspin.com/articles/view/526

■アナログレコードの逆転現象

一方、CDのセールスとは桁が3つ違うから全く違うボリュームの話なんだけれど、アナログレコードの売り上げ数字をよく見ると、ちょっと面白い状況が見えてくる。

アナログディスク(邦盤)186千枚前年比149%
アナログディスク(洋盤)266千枚前年比315%
アナログディスク(合計)453千枚前年比216%

2013年5月までの数字を見ると、実はアナログレコードの生産数は去年に比べて2倍以上の大きな伸びを示している。で、邦盤が前年比150%なのに対して、洋盤が前年比300%以上の市場拡大を果たし、それに貢献している。CDやDVD、Blu-rayにもここまでの数字の伸びはない。

2013年の上半期、あらゆる音楽ソフトの中で最も高い伸び率を示しているのは、実はアナログレコードだった。そして、そのニッチとはいえ好調な市場の拡大を支えているのは洋楽リスナー層だった。CDセールスを巡る状況とは全く逆の風景が見て取れるわけだ。

こういう状況が生じているのは海外でも同じで、アメリカでもiTUNESAmazon MP3やSpotifyなど、いろんなデジタル音楽サービスが整備された00年代の後半から急激にアナログレコードのセールスが伸び始めているという数字がある。以下の記事を見ると一目瞭然。

過去19年分のアナログレコードの売上を図式化したインフォグラフィック| All Digital Musichttp://jaykogami.com/2013/04/1617.html
で、毎年4月に開催されそういう流れの象徴になっているイベントが「レコードストアデイ」。日本でも開催されて、後藤正文(ASIANKUNG-FUGENERATION)が編集長を務める新聞『THE FUTURE TIMES』が、それにあわせた増刊号を作っていたりもする。

TheFutureTimes 増刊号http://www.thefuturetimes.jp/archive/no04_extra/
僕もその中でインタヴュー担当したのだけれど、サカナクションの山口くんの言ったことには「なるほどなあ」と思わされた。

山口「(前略)アナログだと音が分離していないんですよ。全部の音が塊として出てくるんです。でもその良さは、体験しないとわからないんですよね。レコードプレイヤーも、スピーカーもいいものを用意して、ある程度の音量で聴かないとわからない。そういう状況が整ってないと判別しにくいけど、それでも、その違いを知った上で選べるようになるといいですよね。ミュージシャンと一緒に、レコードショップがそういう活動をしてもいいと思う」
――お店がそういう風にアナログレコードならではの音を体験できる場所になってもおもしろいですよね。
山口「CDショップによくある試聴機って、たいてい、安いCDプレイヤーに安いヘッドフォンがかけてあって、それで新譜を聴くようなタイプのものが多いじゃないですか。それって、かなりレベルの低い試聴体験だと思うんです。それだったら、オーディオルームを作って、いいスピーカーをドンと置いて、好きな音楽を聴いて“これ格好いい!"って思って買いたい。そういうお店ができたらいいなって思う」
――僕も、今年マイ・ブラッディ・バレンタインの新譜を買ったとき、正直、PCからイヤフォンで聴きたくなかったんですよね。どうせなら爆音で聴きたいと思って、深夜にリハスタを借りて大きな音でスピーカーで鳴らしたんです。
山口「わかる、それ。だから、自分の好きな曲を大きな音でいい環境で聴けるカラオケボックスみたいな店があったらいいですよね。みんな、それを望んでると思う。デカい音を出して騒ぎたいと思ってる音楽好きな子は多いと思うし、その子たちの欲求を満たすのはカラオケじゃ足りないんですよ。だって、もっといい音で聴きたいから。予言するけど、きっと10年以内にそういうお店ができると思う。できなかったら僕がやろうかな(笑)」

山口一郎 | TheFutureTimeshttp://www.thefuturetimes.jp/archive/no04_extra/yamaguchi/

あと、今年久しぶりに会った旧知の人と話していて、「震災以降、CDを持つことに意味が感じられなくなってきた」という話を聞いたのも軽い衝撃だった。

なんでもそれまではCDを数千枚か1万数千枚か、AからZまで全部きちんと整理して几帳面に棚に並べていたらしくて。東京だから揺れはたいしたことなかったんだけど、CDは軽いから数千枚が全部床に雪崩れてしまった、と。しょうがないからとりあえずダンボールに詰めたんだけど、そこでふと気付いた。

この数千枚のCDは、すでに音源データとしてちゃんとHDDに取り込んでいる。だから、聴こうと思えばいつでも聴ける。特に大事なアルバムはアナログレコードで持っていて、それはそれで無事だ。そこで、ふと手が止まった。「今から並べ直そうとしているこのプラスチックのカタマリは一体何なんだろう?」と。で、その時から2年以上、CDを雑然と放り込んだそのダンボールに触ってない、という。

なんだかすごい話。だけど、今の時代、音楽を消費するという行為の全体において「CDを買う」「CDを聴く」って、一体どういうことなんだろうなあ、と考えさせられた話だった。

てなわけで、2013年の上半期のCDパッケージを巡るあれこれの話でした。最初は「今年上半期はこれ聴いた〜」みたいな話をしようとしてたらずいぶん大きな話になっちゃった。最後に順不同でお気に入りだった盤や曲を並べておきます。


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