日々の音色とことば

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ロックフェスの「戦場」に躍り出たアイドルたちの夏が始まる

rijfesイメージ
(画像はROCK IN JAPAN FESTIVAL公式ページより)

■ロックフェスはアイドルにとって「アウェーの場」ではなくなった

こんなツイートをしたのが約1ヶ月前。今日はそこから書いたり観たりしてきた「フェスとアイドル」の話です。

まず、こないだ、こんな記事を朝日新聞で見かけました。

朝日新聞デジタル:アイドルは“アウエー”がお好き 夏フェスに続々参戦 - カルチャーhttp://www.asahi.com/culture/articles/TKY201307180417.html
執筆したのは桝井政則記者。お会いしたことないですが、文章から伝わってくる前のめりな熱さがすごいです。実は朝日新聞のアイドル取材班には鈴木京一さんという記者がいて、この人はまさに日本のアイドル史を現場で見てきた生き字引のような人。実は僕もこないだ刊行された『小説トリッパー』の「アイドルの未来、未来のアイドル」という特集でお仕事ご一緒したんですが、そこに掲載されている「客とアイドルの20年史」という文章はめちゃめちゃ面白かった。

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なんだけど、上記の記事には異論があって。アイドルの現場にずっといた人から見たら、まだまだロックフェスは「アウェー」に見えるかもしれないけれど、逆に僕みたいにフェスの現場をずっと見てきた人からすると、特に記事で取り上げられてるでんぱ組.incやBABYMETALにとっては、とっくに夏フェスの場は「アウェー」じゃなくなってるのです。

そのことについては、先日出たばかりの『ミュージックマガジン』の特集「ポスト戦国時代"のアイドル最前線」に寄稿した文章に書いています。そこから引用。

アイドルとロックを巡る状況は、大きく変わった。今年夏に各地で行われる大型野外フェスのラインナップは、そのことをヴィヴィッドに反映している。オズフェストの騒動を最後に、アイドルがフェスに登場すること自体が「事件」だった時代は終わりを告げた。ロック・フェスのお客さんにとって、アイドルの出演はウェルカム。アイドルにとっても、ロック・フェスは「異種格闘技戦」を挑みにいくアウェーの場所ではなくなった。むしろ、それぞれのアイドル・グループがしのぎを削り、シーンの中で勝ち抜くために競い合うような「戦場」になったわけだ。

 その象徴となる大きな変化を打ち出したのがロック・イン・ジャパン・フェス(以下RIJ)だ。3日間の大トリをPerfumeがつとめる同フェスでは、昨年までは片平実などのロックDJがレジデントをつとめていた「DJブース」に、PASSPO☆、でんぱ組.inc、BABYMETAL、BiS、LinQ、アップアップガールズ(仮)、9nine、くりかまきの出演が決定。バンド主体のラインナップを揃えるRIJに多数のアイドル・グループが参加するのは初のこととなる。
 一方、サマソニでは2年連続出演のももクロが出演した "RAINBOW STAGE" に、でんぱ組.incとBABYMETALが決定。さらに、そのBABYMETALが昨年に出演していたお笑い芸人中心の "SIDE-SHOW" には、hy4_4yh、バニラビーンズ、LinQ、ベイビーレイズ、アップアップガールズ(仮)、9nine、7cm、リンダIII世の出演が決まった。

 RIJもサマソニも、まずはサブ・ステージ扱いの場所にアイドル・グループを出演させ、反響や盛り上がりを見て次年度に向けてステップ・アップさせていくのが運営側の心づもりなのだろう。もちろんアイドルの側も、そこで全力のパフォーマンスを見せて勝ち上がっていく意気は満々だ。そこではアイドル・グループ同士の健全な「戦い」が可視化される。しかも前述したように、それぞれのアイドルが展開するのは、歌謡曲やポップスの枠をハミ出した何でもアリのミクスチャーな音楽である。とても面白い状況が生まれているわけだ。


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そういえば、7月21日に北海道で行われた野外フェス「JOIN ALIVE」でBABYMETALのステージを観てきたんだけど、そこでも、まさに上で書いたような状況が生まれていた。この日のBABYMETALは生演奏の本気メタル仕様。「どんなもんか見てやろう」という初見のお客さんも多かったけれど、後半の“ヘドバンギャー”の頃にはフィールド後ろまで飛び跳ねてたし、“イジメ、ダメ、ゼッタイ”では、お客さん同士が全速力でぶつかり合うモッシュ、通称「ウォール・オブ・デス」が生じていた。

で、先週末はTOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)でした。僕はフジロックのほうに3日間足を運んでいたので、そちらの様子はわからず。でも、以下の記事によればかなり面白かったみたい。

第73回:「TOKYO IDOL FESTIVAL2013」に今年も行って来た! | DrillSpin Column(ドリルスピン・コラム)http://www.drillspin.com/articles/view/626

以下の記事を見ると、同日に「アイドルが出演しないロックフェス」のフジロックが苗場で開催されていることで、TIFが「アイドルフェス」として純化している面もあるのかな、と思ったりもする。お客さんがそんなこと思ってるわけはないだろうけど、少なくとも運営側はフジを意識しているみたいだし。

レジーのブログ アイドルと自意識、アイドルの自意識12 - TOKYO IDOL FESTIVALを堪能してきましたhttp://regista13.blog.fc2.com/blog-entry-87.html

上記のレポでは触れられてないけど、僕が気になってるのは、後藤まりことはまた違った意味で「越境」の存在である大森靖子がどうだったか。動画を見るとアプガとの共演がかなり盛り上がってたみたい。

レジーさんには8月8日にさやわかさんまじえて下北沢B&Bでトークイベントやるので、その時にもTIFの話を聞いてみたいと思ってます。

『アイドルとロックの蜜月』  柴那典×さやわか×レジー | B&Bhttp://bookandbeer.com/blog/event/20130808_bt/

■BPMから見るアイドル×ロックの親和性

では、この現象はどういうこところから生じているのか。いろんな角度からの検証ができるんだけど、まずは音楽的なところからそれを分析してみると、まず大きいのはBPM。音楽が持つ「リズムの機能」の面で、2010年代以降のロックバンドと今の「フェスに進出した」アイドルは、かなり近い側面を持っているのだ。

だから、「可愛い女の子が踊っている」のと「楽器を持って演奏している」というパフォーマンスのプラットフォームが違うだけで、実際のところは、同じように盛り上がることができる。僕がそのことを痛感したのは、今年5月に行われたMETROCKの時。

で、実はそういう傾向に完璧にあわせてきたのが、でんぱ組.incの「ノットボッチ…夏」。

この曲のBPMは上記の傾向にかなりジャストなんですよ。Aメロ〜BメロがBPM140の四つ打ちファンク。そして、サビでテンポチェンジして、BPM180弱のタテノリ。ダメ押しで「オイ! オイ!」のコールも入ってる。さすがヒャダイン=前山田健一という。
(※この曲の作詞はNOBE、作曲は野間康介(agehasprings)、編曲はヒャダインこと前山田健一)

ちなみに、同じように曲中のリズムチェンジが目立つ曲は、こちらも前山田健一が手掛けた2011年のももクロ「ミライボウル」がある。なんだけれど、こちらはAメロ〜BメロがBPM110のスウィングビート、サビがBPM150の四つ打ち。「ノットボッチ…夏」を踏まえて聴くと、意外と遅いって思っちゃうのだ。

■バンド側からのアプローチ


ヒャダインだけじゃなく、バンドマンがアイドルの楽曲を手掛けることも多くなってきている。最近でいえば、PASSPO☆「妄想のハワイ」。この曲はHAWAIIAN6の安野勇太が楽曲提供&プロデュースをしている。

で、安野勇太はPASSPO☆のライヴを観た感想を、こんな風に語っていたりもする。

なんか熱量がすごかった。ある意味ではパンクみたいなものよりも活気があったかな。ロックバンドのライブでも前のほうは盛り上がってるけど、後ろのほうはおとなしいことが多いじゃないですか。でも僕が観たときは後ろのほうの人たち含めてフロア全体が盛り上がってた。それがすごい心に残ってます。

ナタリー - [Power Push] PASSPO☆「妄想のハワイ」インタビュー (1/4)http://natalie.mu/music/pp/passpo03
そして、さらにその先をエクストリームに突っ走っているのがBiS。先日には「キング・オブ・ノイズ」として世界に君臨する非常階段と「ノイズアイドルバンド」BiS階段を結成し、アルバムをリリース。その中で戸川純の「好き好き大好き」をカヴァーしている。

すでに共演も果たしている両者。JOJO広重は初共演の様子をこんな風に語っている。

いざ一緒にライブやりますっていうとき、BiSと僕らとお客さんとで特別な空間が作れるなと感じました。エフェクターをバンっと踏んだ瞬間にスイッチが入りましたね。会場も演奏者も全部が一体感を感じる特別なライブって1年に数回しかないんですよ。あれはそのうちのひとつで、去年のベストくらいのライブでした。

アイドル×ノイズの狂宴 BiS階段インタビュー -インタビュー:CINRA.NEThttp://www.cinra.net/interview/2013/07/24/000000.php?page=1

あと、曲提供とかはしてないけど、以下の対談を見るかぎり、ピエール中野の暗躍も見逃せない。アイドルグループに「よきお兄さん役」として接することのできるバンドマンって、意外に貴重な存在かも。

ナタリー - [Power Push] BABYMETAL×ピエール中野(凛として時雨)対談 http://natalie.mu/music/pp/babymetal03
ナタリー - [Power Push] 9nine「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」インタビュー http://natalie.mu/music/pp/9nine


ちなみに、こうやってつらつらと書いてきたのとは別の角度の分析で「ロックフェスがアイドルたちの戦場になった理由」というコラムを書いたんだけど、それは次号の『クイック・ジャパン』に掲載される予定です。


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ともあれ、ROCK IN JAPAN FESTIVALとサマーソニックで、どのアイドルグループが「勝ち抜ける」のか、僕は興味津々なのです。