日々の音色とことば

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Tシャツと集合写真 〜2010年代の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」論 その1

RIJFES2013イメージ


■「ロッキン文化圏」の誕生と定着

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に行ってきました。前回の記事の続きとしては「さあ、どのアイドルが勝ったかな?」ということを書いてもいいんだけど、それ以前にフェスそのものの構造がすごく興味深かったので、今日はその話をします。

僕が行ったのは8/3、8/4の二日間だったけれど、全体的にすごく面白かったのです。レポ仕事なしで行くフェスがこんなに楽しいとは!っていう。最初にちゃんと言っておくと、RIJって、すごくいいフェスなんですよ。トイレや通路の隅々にいたるまで空間全体がきちんとコントロールされていて、ストレスとか環境とかへの不満がほとんどない。かつて自分がスタッフやライターとして関わっていた贔屓目を抜きにしても、本気でディズニーランドのホスピタリティを目指しているんじゃないか?と思うくらい客目線の快適さが徹底されている。でも、感じたのはそれだけじゃなくて。久しぶりに行ったこともあって、かつては全く気付かなかったことが、外側から改めて見たことでクリアにわかった気がしたするのです。

それは何かというと、このフェスはすごく特殊だ!ということ。RIJは、フジロックとも、サマソニとも、ライジングサンとも、その他の数々の邦楽系ロックフェスともちょっと違う独自の力学で動いているフェスだと思うのです。そして、そこに毎年集まるお客さんたちからは、他の場所にはない独自の文化圏が立ち上がっている。特にここ数年の傾向としてそれが定着、拡大しているように見える。

ここでは、「ロッキン文化圏」と、それを名付けてみました。今日はその「ロッキン文化圏」の話。

ちなみに、この「ロッキン」という略語はなかなか面白くて、ツイッターやネット上には普通に出回ってるけれど、公式には決して使われない言葉なのだ。フェスを主催しているのは株式会社ロッキング・オン。そこでのオフィシャルな略称はRIJ。ただ、ユーザー側ではその略称よりも「ロッキン」の方をよく見かける。

一方、ネットには「ロキノン」とか「ロキノン系」みたいな言葉が出回っていて、そちらは同社が刊行する雑誌の『ロッキング・オン・ジャパン』を差す略称。そして、そもそも「ロキノン」という言葉は「毎月ロックシーンに革命が起こってる」雑誌への揶揄や皮肉が混じったネットスラングだったのだが、対して「ロッキン」という言葉が使われるときには、そういう悪意はあんまりない。基本的にはポジティブな意味合いを持っている。その多くがフェスコミュニティへの愛情や帰属意識を伴っている。たとえばツイッターのアカウントに「◯◯@8/2〜4ロッキン参戦!」って書いたりね。

で、その「ロッキン文化圏」とは、どういうものか? 文章でいちいち説明するより、まずは写真を並べれば一発で伝わると思います。以下は「ロッキン」「集合写真」「拡散希望」でツイッター検索して見つけた写真。

こんな感じの風景が、一日、そこら中で生じているわけだ。ここにいるのは、夏フェスが日本に定着し、レジャーとして消費されるようになったここ10年ちょっとの風景を当たり前に過ごしてきた若者たち。音楽をツールに、こういうタイプの一体感を得るコミュニケーション志向が、「ロッキン文化圏」の大きな土台になっている。

(オズフェストの記事の時にも書いたけど、念のため。基本的な僕のスタンスとして、何かを全力で楽しんでる人に対しては、たとえどんなスタンスであれ、皮肉ったり揶揄したりするつもりはないです。むしろわりと好感を持って捉えてる。楽しそうな人を見たらこっちも楽しくなるしね)

■「ハッピとハチマキ」=「Tシャツとタオル」

で、写真を見れば分かる通り、「ロッキン文化圏」には、Tシャツ×タオルのフェスファッションが完全に定着している。数年前はマフラータオルが流行りだったけれど、ここ最近になって定着したのがフード付きバスタオル。Tシャツの上にそれを羽織るのが定番のファッションだ。しかも、バンドTシャツよりも、フェスのオフィシャルTシャツの着用率が非常に高い。2日目、ちょっと時間が空いた時に数えてみました。実際は228人ほど目測した。

もちろん日や時間帯や場所によっても違うだろうけど、いろんなところで見た感触としては、だいたい6割がフェスTシャツ着用だった。これはほんと、他のフェスではまずない光景だ。年齢層が高く山の中で行われるフジロックではアウトドア系ウェアが多いし、出演陣の傾向がバラバラなサマソニではヘッドライナーによって参加者の様相が大きく変わる(リアーナやピットブルが出た昨年はギャル系ファッションが多かった)。他のイベントやフェスでも、基本的にまず多いのはお目当てのバンドTシャツを着用したファン。普段着のお洒落の人も多い。しかしRIJではそういう人の割合はぐっと下がる。とにかくフェスTシャツが圧倒的に多いのである。

その理由として、今でも記憶に残ってるエピソードがある。数年前、友達の姉妹がフェスに着ていくTシャツの話で言い争いになったという話をきいたことがあった。姉はレディオヘッドを愛する30代洋楽ファン。ライヴにはお洒落していく派。いわく、

「邦楽のロックフェスに行くような客って、なんでみんなしてダサいロゴのフェスT着てんの? バカじゃない?」と。

対して妹はRIJに毎年通う邦楽ロックファン。いわく

「フェスはお祭りなんだから、ハッピ着てハチマキ巻くのが当たり前でしょ? それがTシャツとタオルなんだから、そういう場所でスカした格好しようとするお姉ちゃんのほうが大バカ者だ!」と。

なんかこのやり取りすごく印象的だった。

■キャラクター文化とロックフェスの接近

あと、RIJはスタジオジブリとコラボしているだけあって、コラボTシャツの着用率も高かった。一番多く見かけたのはトトロの顔にロゴをあわせたデザインのTシャツ。トトロをはじめ、いろんなジブリキャラクターが会場に展示されてたりもした。

totoro.jpg


そして、コラボTシャツの流れはジブリだけにとどまらないようだった。今年夏から「rockin' star」という新しいTシャツブランドが立ち上がっていて、そこでは綾波レイやキティーちゃんやスヌーピーなどのキャラクターとのコラボを展開していくという。

rockinstar.jpg
(個人的にはこれ、けっこう衝撃だったな……)

ともあれ、「ロッキン文化圏」にとって、Tシャツというのは非常に重要なアイテムであり、それは単なる衣服というよりも、フェスコミュニティへの帰属意識を表明する大きなメディア=メッセージになっているのだと思う。

まだまだ語りたいことは沢山あるけど、今日はこのへんで!