日々の音色とことば

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「LINE Music」はスマホの普及で壊滅した「着うた」文化を蘇らせる

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■音楽配信サービス「LINE Music」が2013年内にスタート

LINEが2013年内に独自の音楽配信サービス「LINE Music」を開始することを発表しました。というわけで、今日はその話。8月21日に発表された新機能、新サービスのうちの一つで、他にはビデオ通話やECサービス、ウェブストアなどがスタートするらしいです。

LINE、新サービス「LINE Music」を年内リリースし音楽業界に参入 | All Digital Musichttp://jaykogami.com/2013/08/3760.html
上の記事によると、今のところわかっているのは、「LINE本体のアプリで基本機能として導入」「LINEフレンドと一緒に音楽を聴いたり、コミュニケーションを楽しむことができる」「グローバル音楽ストアを目指して開発中」「2013年内にリリース予定」ということのみ、らしい。

ニュース - LINEが新たにビデオ通話、音楽配信、ネット通販に参入:ITprohttp://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130821/499362/
こちらの記事によると、LINEが「スマホ時代のプラットフォーム」となったことを踏まえて「一人で聴く音楽からみんなで楽しむサービス」として年内の展開を予定していると、執行役員の舛田淳氏が語ったとか。つまりこれ、購入した楽曲を友達と共有できるサービスなわけです。

なるほど。僕自身はカンファレンスにも足を運んでないしLINEの開発陣とも何の面識もないし、新しいサービスがどういうものになるか全く情報がない状況なんだけど、それでもこれは、ちょっとピンときました。

これはおそらく、音楽業界にとっては相当の追い風になる、大きな意味を持つサービスになると思います。というのは、「LINE Music」は、スマホの普及で壊滅した着うたの文化を、その本質的な意味合いでもって復活させるサービスになると思うからです。

■なぜ「着うた」市場は5年で壊滅したか

ではまず、スマホの普及で着うた市場が壊滅したことについて。これはドリルスピンに寄稿した以下の記事の後半にも書きました。

第55回:「聴き放題」だけでは音楽ストリーミングサービスが成功しない理由 | DrillSpin Column(ドリルスピン・コラム)
http://www.drillspin.com/articles/view/571
以下は、日本レコード協会が毎年発表している有料音楽配信売上実績から「モバイル部門」(着メロ、着うた、着うたフル、ビデオ、その他の合計)の売上を並べたもの。

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そして、こちらがモバイル部門(ガラケー)、ネットDL部門(PC&スマホ)をあわせたシングルトラック(単曲購入)のダウンロード数量推移グラフ。

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(共に上記コラムより引用)

見事なまでに右肩下がり。ネットDL(スマホとPCの合計)は順調に増加を見せているけれど、それでもモバイルの減少を補えていない。そして、2013年の上半期はさらにその傾向が進んでます。以下はシングルトラック配信の数量(単位・千回)と前年比。

スマートフォン・PC45,309前年比137%
フィーチャーフォン16,762前年比45%
小計62,071前年比89%

フィーチャーフォンによるシングルトラック配信、いわゆる「着うた」「着うたフル」の売り上げは前年比48%という劇的な縮小。そして、上の表には書いてないけど、2013年上半期の音楽配信の金額ベースの総計は前年比74%なので、PC・スマホでのアルバム配信の伸びや、サブスクリプションの普及をもってしても、着うた市場壊滅による売り上げ減少を補えていないという現実がある。

やはり、この数字が証明しているのは、スマホに移行した人が音楽を買わなくなった、そのことによって「着うた」文化自体が壊滅したということなんだと思います。そういや、最近は、街中でもてっきり着うたや着メロが鳴ってるのを聞かなくなった。マナーモードの普及で着信音を鳴らすこと自体が減ってきたのもあるだろうし、聴いたとしてもプリセットの電子音がほとんどだしね。

■「ジュークボックス」→「着うた」→「LINE Music」

で、「着うた」という文化がまるごとなくなったのは何故か。その理由は、そもそも着うたが「音楽そのもの」(=コンテンツ)ではなく「会話のきっかけ」(=コミュニケーションツール)を販売するサービスだったから。僕はそう考えています。

「もともとドワンゴグループは、着うたや着メロのようなモバイルのコンテンツを配信する事業を展開していましたが、それも単なる音楽の販売とは位置付けていなかった。僕らは、着うたや着メロというのを、買った人とそれを聴かせた相手の間に会話が生まれるきっかけになるサービスとしてイメージしていた。そういうサービスに人は帰属するし、依存するということを考えていた」


(『別冊カドカワ「総力特集 ニコニコ動画」 杉本誠司氏インタビューより』)

ドワンゴの杉本誠司社長はこう言っています。そして、「買った人と聴かせた相手の間に会話が生まれるきっかけになるサービス」として、「着うた」と本質的なところで同じ意味合いを持っていたのが、かつてバーやボウリング場にあった「ジュークボックス」だと、僕は思うのです。

僕自身、ボウリング場のジュークボックスに100円を入れて、お気に入りの曲を友達に聴かせた思い出があります。音質もよくないし、決してその曲が手元に残るわけではないのに、ジュース1本分のお金を払っていいと思えた。あのときに払った100円は楽曲コンテンツの値段ではなくて、それがもたらす「コミュニケーションのきっかけ」への対価だったわけで。「ねえ? これ知ってる?」という会話のきっかけになるものに、人はお金を払うわけです。

でも、レコチョクなどの着うたサービスはスマホへの対応が遅れ、しかも数年たってようやく登場したアプリ「レコチョクplus+」は、単なる音楽ダウンロードアプリだった。コンテンツは売ってるけれど、そこに「会話のきっかけ」になるような機能は、一切備えていなったわけです。

そう考えていくと、「LINE Music」が持つ意味の大きさが見えてくるわけで。つまり「LINE Music」が提供しようとしているものは、単なる音楽配信ではなく、着うたやジュークボックスと本質的に同じ「音楽をきっかけにしたコミュニケーションツール」そのものだと僕は思うのです。「一人で聴く音楽ではなく、みんなで音楽を楽しむサービス」と執行役員の舛田淳氏は語っていたけれど、そういうものは20世紀初頭、1940年代とか50年代の頃から脈々とあるわけで。ようやくそれがスマホのプラットフォームに乗っかったのだ、という。

■「スタンプ」として消費される音楽

で、もう一つ。LINEのアドバンテージとして大きいのはスタンプの存在。

たぶん、「LINE Music」はおそらく「着うた? ジュークボックス? 何それ?」な10代のスマホネイティヴな層には「スタンプみたいに使える音楽」として受け止められるんじゃないかと、僕は考えてます。つまり、文字でいちいち伝えるのが面倒くさい感情を伝えたり共有するためのツール、としての音楽。もちろんスタンプのキャラクターの表情より手っ取り早いわけじゃないけど、それでも数秒で生々しく今の自分の気分とかムードとか感情を伝えられるものとして。そういう風にして、やっぱりコミュニケーションツールとして音楽が消費されるようになるんじゃないか、と思います。

ひょっとしたら、腰を据えてじっくり曲を聴くタイプの音楽ファンにとっては、「数秒だけ再生して聴いた気になるなんてふざけんな」という風に思われるかもしれない。でも、僕はそこにすごく可能性があるんじゃないかと考えるわけです。というのは、LINEのサービスの特性は「速さ」にあるから。

僕は最近「音小屋」という鹿野さんが始めた音楽メディア人養成学校の講義をやっていて、そこに集まった実際にLINEを使ってる20代の人たちと「なぜLINEが勝ったのか?」というテーマでディスカッションをしてみたんだけど、そこで出たLINEの使い勝手の話に、なるほどと感じて。

いわく、
「レスポンスが速いから、直感的に使える」
「メールよりも会話に近い」
「“明日遊びにいく友だち”みたいに気軽にグループを作れるから、クローズドなコミュニティを自由に作れる」
「知り合いだけじゃなくて、趣味の近い人、同じアーティストのファンとグループを通じて繋がることもできる」
「そもそもコミュニケーションサービスは人が集まったもの勝ち」

などなど。いろんな要因があるんだろうけど、僕は「レスポンスの速さ」がキーだと思ってます。googleの勝因だって速度にあるわけだし。人は本能的に、レスポンスの遅いものを選ばなくなる。

そう考えると、「スタンプみたいな音楽」だって、全然アリだと思うのですよ。たとえば、今のLINEのトーク上でもYouTubeのリンクを送れば「音楽を共有する」こと自体は全然できる。でも、YouTubeのURLをタッチすると別アプリが立ち上がって、しかも広告を数秒見てから動画が再生される、みたいなまだるっこしさに比べると、スタンプみたいに曲のアイコンが送られて、それをタッチすると再生がスタートするという「速さ」は受け入れられそうな気がする。そこが入り口になってもっと豊かな音楽の世界に足を踏み入れる人だって出てくるだろうし。

なので、LINE本体のアプリで基本機能として導入され、しかも

1.新曲がすぐに手に入る(ドラマやCMでOAされるとすぐに先行配信、遅くともCDの発売日にはフル配信)
2.「これ聴いてみて?」と曲を友達にどんどん送ったりTL上で同時に再生できたりする

というような感じのサービスになるんだったら、「LINE Music」は一気に広まるんじゃないかと思ってます。


■「LINE Music」のライバルは

好みの曲がつぎつぎ集まる音楽プレイヤー Groovy - Google Play の Android アプリ


で、そうなってくると、「LINE Music」の最大の競合は、レコチョクBestでもMusic UnlimitedでもSpotifyでもなく、やっぱりDeNAの「Groovy」になってくるんだと思います。

DeNAの音楽アプリ「Groovy」の可能性 - 日々の音色とことば:http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-542.html
上の記事はサービス開始当時に書いたものなんだけど、その後「Groovy」はアップデートして、「好みの曲がつぎつぎ集まる音楽プレイヤー」としての機能を強化してきていて。

ほとんど意味のなかったジャンル別のランキング機能が「サーチ」の二階層目に仕舞い込まれて、そのかわりに「オススメ」機能がトップ画面のタブに現れるようになった。これ、実際に使ってみたら、なかなか便利なんですよ。そこでは

1. 最近自分が聴いた曲と近いテイストの楽曲
2. フォローしてる友達やミュージシャンが最近聴いた楽曲
3. 公認アカウントが最近聴いた楽曲
4. 「Groovy編集部」オススメの楽曲
5. 「自分と同世代」「男子高校生」「女子高校生」「20代前半男子」「20代前半女子」がよく聴いている楽曲

みたいな順で楽曲がどんどん表示される。

で、そこをタップすると視聴のページに移る。45秒の視聴は無料、フル再生には1回5円くらいの「プレイチケット」が必要になるんだけど、実は手持ちの楽曲をアプリで再生してると特典チケットがどんどん届くので、日常的にアプリを使っていればほとんど無料の感覚で新しい曲を聴くことができる。

で、自分が何度か再生したアーティストが自動的に「ファン」に設定される機能もあり、トップ画面から「ファン」というタブをタップして表示されるタイムラインでは、そのアーティストを好きな人が集まってトークしてたりする。
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ちゃんと「SNS×音楽プレイヤー」として機能し始めてるわけです。

というわけで、今の時点でのまとめ。

「LINE Music」は、スマホの普及によって失われた「着うた」の文化、そしてレコード時代から脈々とある「みんなで音楽を楽しむ」ジュークボックスの文化を、今の時代に新しい形で蘇らせるサービスになるんじゃないか、と思います。

ちなみに、海外ではこの辺を担っているのが、聴き放題のサブスクリプションサービスだったりするわけなんですよ。ヨーロッパやアメリカではSpotifyが、台湾やアジア地域ではKKBOXが、SNSと結びつくことで音楽消費のスタイルを変えてきている。もちろん日本でもサブスクリプションの配信サービスは伸びてきてはいるんだけど、それを横目にDeNAとLINEが独自の「音楽×コミュニケーション」のプラットフォーム戦争を始めている。そういう状況が2013年にあるのが、すごく興味深い。

もちろん、ここまで書いた僕の見立てと予測がまったく外れる可能性も全然あると思います。(あと、この手のことを書くと「オレは一人で好きな音楽を聴いてるからコミュニケーションなんて関係ねえ」というような反応を寄せる人もいて、僕自身もそういうところはあるし周りにもその手のタイプの人は沢山いるんで、そういう気持ちはすごくわかります)

ただ、少なくとも世の中のマジョリティはコンテンツよりもコミュニケーションを消費していて、時代と共にその形は進化してきていて、その中で音楽が果たせる役割はまだまだ沢山あると、僕自身は思っているのです。