日々の音色とことば

usual tones and words

日本のロックとボカロとアニソンの「ヨナ抜き音階」な名曲たち

亀田音楽専門学校

NHK Eテレの音楽番組「亀田音楽専門学校」、めちゃくちゃ面白いです。ほんと何度も言うけど、これ、特にミュージシャンとか音楽にかかわる仕事につこうと思ってる人は録画必須ですよ。

「おもてなしのイントロ術」、「アゲアゲの転調学」ときて、第三回は「無敵のヨナ抜き音階」。ヨナ抜き音階とは、ドレミファソラシドの「ファ」と「シ」を抜いた5音による音階のことで、これを使うと“和風”な、日本人の情緒に訴えかけるメロディが書けるという内容。詳しくは以下の記事を。

きゃりーぱみゅぱみゅは日本最大の輸出品!? 和の心が凝縮された“ヨナ抜き音階”とは - Real Sound|リアルサウンド
http://realsound.jp/2013/10/post-136.html
「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#03「無敵のヨナ抜き音階」 | たにみやんアーカイブhttp://magamo.opal.ne.jp/blog/?p=1291

というわけで、僕も流れに乗って「ヨナ抜き音階」を効果的に使った楽曲をいくつか紹介していこうと思います。

■くるり、サカナクション、THE BOOMの「ヨナ抜き音階」に込めた狙い

まずは、この「ヨナ抜き音階」を間違いなく意識的に使っているソングライターが、くるりの岸田繁。


くるり - 言葉はさんかく こころは四角

この曲のAメロのメロディ(0:45〜)が、まさにヨナ抜き音階なのです。これはアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』に収録されている曲で、つまり、クラシックからの影響を前面に押し出しウィーンに行ってオーケストラと作ったアルバムの中の一曲。そういうヨーロッパ的な背景を持つ曲に、日本的な叙情性を感じさせる(そしてスコットランドやアイルランドの民謡にも見られる)ヨナ抜き音階を使うのが、すごく“粋”だと思います。

本人自らインタヴューで語ってました。

もともと僕はヨーロッパの音楽が好きで、ロックも、イギリスのロックが好きで。前作は、中欧や東欧の和声の積み方を意識的に使いましたし。でもけっきょく、前作も歌っているメロディラインは、簡単なヨナ抜き音階(“ファ”と“シ”がない音階)っていうか、日本の唱歌とかアイルランド民謡みたいな、じつは簡単なメロディが多くて。

最新シングルの「Remember me」も、(これはヨナ抜き関係ないですが)すごく、いい曲。大好き。


くるり - Remember me (Full Ver.) 【期間限定公開】

続いては、サカナクション。


サカナクション - 夜の踊り子(MUSIC VIDEO)

この曲は、Aメロ(0:15〜)が典型的なヨナ抜き音階。

そして、興味深いのが、ヨナ抜き音階を使っているのがAメロだけなこと。Bメロのラスト(1:07〜)で「♪ドレミファソラドファ〜」と上昇してサビ(1:15〜)は「♪ドドシド ドドシド ドドシドシド」。つまり、サビではヨナ抜きではなく、逆に「シ」(ナ)の音を使いまくってるわけです。

「ヨナ抜きの音階できたメロディが崩れると、僕たちはものすごく“シーンのチェンジ”を感じるんです」

亀田誠治校長が番組で言ってたこの効果を、ちゃんと意図的に狙った曲展開なわけです。ソングライターの山口一郎のインタヴューを紐解いても、「ヨナ抜き音階」(これは唱歌や童謡に特徴的なメロディでもある)とダンス・ミュージックを融合することに自覚的なことがわかります。

この前、日本の童謡集って4枚組を買って聴いてみたら普通にダンスミュージックだったんですよね。踊れるし、4つ打ちも合うし、新しいし。自分たちが今やろうとしてることに近いなって。

そして、もう一つ、強い意図を込めて「ヨナ抜き音階」を使ったロックバンドもいるのです。それが、THE BOOM。

よく知られているように、THE BOOMの代表曲「島唄」は琉球音階を使った曲です。

琉球音階というのがどういう音階かというと、いわゆる「ニロ抜き長音階」。「ヨナ抜き音階」が4度(ファ)と7度(シ)の音を抜いた「ドレミソラ」のに対し、琉球音階は2度(レ)と6度(ラ)を抜いた「ドミファソシ」の5音音階。この音階を使えばメロディが沖縄っぽくなることについては、番組でも触れられてました。

ただし、実は「島唄」には意図して「琉球音階」ではなく「ヨナ抜き音階」を使った箇所が一部だけあるのです。それがBメロ。

ウージの森で あなたと出会い
ウージの下で 千代にさよなら

という部分。ここに使われている「ヨナ抜き音階」は、「沖縄」に対しての「大和(=日本)」を象徴するために用いられているのです。以下は朝日新聞の記事から。

「ウージの森で千代にさよなら」という歌詞は、ガマでの集団自死の悲劇を暗示します。旋律は沖縄音階を基調にしましたが、この「ウージ」の部分だけは日本的な音階に戻しました。「彼らを死に追いやったのは、当時の日本の軍事教育。沖縄音階では歌えない」と宮沢さんは判断したと言います。

こういう指摘もありました。ううむ、深い!

「千代にさよなら」、二番では「八千代の別れ」という歌詞が出てきますが、これが「千代に八千代に」という「君が代」からの引用であることは明らかです

■もう一つの「和」メロディ=「ニロ抜き短音階」

一方、こちらは亀田音楽専門学校では触れられていなかったけれど、ヨナ抜き音階と同じく、というか場合によってはそれ以上に「和」のテイストを感じさせる音階がある。それがニロ抜き短音階。いわゆるマイナー・ペンタトニックというヤツです。

さっき書いた「琉球音階」は「ニロ抜き長音階」。それに対して、マイナースケールの「ニロ抜き」です。いわゆるメジャースケールで「ニロ抜き」をすると沖縄っぽくなるのに対し、短音階、マイナースケールで「ニロ抜き」をすると俄然「和」のテイストが出てくる。最近で言えば、このニロ抜き短音階を最も上手く使ったロックバンドが、僕はDOESだと思っているのです。


DOES - 修羅


DOES - 曇天


DOES - バクチ・ダンサー

この3曲がやはり代表的。詳しくは以下の記事でも解説しました。

DOESは何が「和風」なのか - 日々の音色とことば:http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-463.html

これがアニメ『銀魂』の主題歌に使われたことがきっかけになって、「ギターロックの曲調 × ニロ抜き短音階のメロディ」=「幕末の世界観」=「“和”のテイスト」というイメージが10代に強烈に植え付けられることになります。

そして、ボーカロイドのシーンを代表する楽曲である「千本桜」も、やはりそのイメージを受け継いでいるわけです。(実際には厳密にニロ抜きではないけど)


黒うさP feat.初音ミク - 千本桜

そして最後はアニソンから。『偽物語』のオープニング「白金ディスコ」。登場人物のキャラクターから「和+ディスコ」の曲調を意図して作られた曲なんですが、これはかなりすごいですよ。AメロからBメロが「ヨナ抜き音階」で、サビは転調して「ニロ抜き短音階」。和を感じさせる二つの音階を駆使してるわけです。

YouTubeにオフィシャルないのでiTunesの試聴リンクを貼っときます。

考察によると「つきひフェニックス」の主題歌だから「フェニックス=不死鳥」→「死なない」→「4,7ない」になった、とか? マジか。

同じく神前暁作曲による「化物語」のOP曲「恋愛サーキュレーション」に

「シ」抜きで? いや 死ぬ気で

という歌詞があって、実際にメロディを採譜してみたら「シ」にあたる音階がなかったりするので、こういう考察が上がったりするのかも。


そういうわけで、「ヨナ抜き音階」の話は、探っていくとなかなか面白い話が沢山あるのです。音楽ライターが全員アナリーゼの教養を持つべし!とは思わないし、僕の知識も知ったかぶりの聞きかじりがほとんどなんだけど、それでも「亀田音楽専門学校」でやってるような話って、音楽を「面白く」語る上では一つの大事なキーになるんじゃないかな、と思うわけです。

■「オトナのコード」としてのm7♭5

ちなみに次回の「亀田音楽専門学校」は「オトナのコード学」とのこと。番組サイトを見たら「メジャー7th」について語るそうな。なるほど。でも、僕にとっては一番「オトナ」を感じるのが「m7♭5」(マイナーセブンスフラットフィフス)のコードなので、ぜひ以下みたいな話もしてほしいな!と思ってます。

──これは僕が知ってる範囲の知識なんですが、中田さんの曲ってm7♭5(マイナーセブンスフラットフィフス)、いわゆるハーフディミニッシュコードとそこに乗っている歌メロがキーポイントのひとつになっているんじゃないかと思うんです。

うわ、まさにそうです。自分でもあのコードの使い手だと思ってるんですよ。

──で、m7♭5のコードに乗ったメロディって、通常のスケールから半音下がりますよね。そこの半音下がっているところが、悩ましさとか狂おしさを生み出す。それが歌の色気につながる。僕は中田さんって、そういうところを感覚だけじゃなくて知識やスキルとして知っている方なんじゃないかと思っていて。

いやあ、鋭いところ突かれましたね(笑)

東京事変のこの曲なんて、まさに「悩ましくて狂おしいm7♭5」の宝庫だしね!


東京事変 - ハンサム過ぎて