日々の音色とことば

新刊『ヒットの崩壊』が出ました。

pepperは「ロボット」というより「コミュニケーション・プラットフォーム」なんじゃないか?という話。

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■クリエイターの想像力を引き出す仕組み

 

今日の話は、最近、すごく気になっているpepperについて。あれです、ソフトバンクがこないだ発表した「感情認識型ロボット」。来年に19万8000円で発売されるやつです。発表されたのは約一ヶ月前だけど、その時のニュースを。

ソフトバンクが挑む"鉄腕アトム"の量産化 | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
http://toyokeizai.net/articles/-/39453

 

家事を手伝ってくれたり、役に立つようなロボットじゃない、という。そのかわり「心を持っている」という触れ込みだ。

 

僕も表参道のソフトバンクショップで見てきました。並んで、ちょっとだけ話してきました。

 

 

第一印象は、正直言うと、今のpepperを20万近く出して買おうと思うほどモノ好きじゃないなー、というのが率直な感想でした。ポスターにはでかでかと「SFじゃない」っていうキャッチコピーが書いてあって、それは本当その通りだと思う。ロボットと話ができるっていう、そのこと自体に「すげえなあ」と思う気持ちも当然ある。

 でも、単に「ロボットが話し相手になる」ってだけじゃ、物珍しさはあるけど、そのうち埃をかぶっちゃいそうだなあ、ということも思ったのだった。デザインもあんまり可愛くないし、生活の中に馴染むかなあ、っていう。

  

でも、それはあくまで“今”のpepperについてのこと。可能性を考えると、めちゃめちゃ面白そうな気がしているのです。

 

というのは、これ、クリエイターや開発者がいろいろな機能を組み込むことができるらしい。クリエイターの想像力を引き出すプラットフォーム的な仕組みが備わってるということなのだ。ニュースによると、開発者やクリエイター向けに、Pepperの先行販売もされるらしい。

「Pepper」開発者向けに先行販売へ 9月の開発者イベント、事前登録スタート - ITmedia ニュース

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1406/30/news076.html

 開発者向けのサイトによると、

アート、ゲーム、ウェブアプリなど、これまでロボットとは疎遠だった分野の人でもかんたんに開発でき、だれでも「ロボットクリエーター」になれます。

 とのこと。

Pepper(ペッパー)のクリエーターになろう! | 特集 | ロボット | ソフトバンク
http://www.softbank.jp/robot/special/tech/

 

だとすると、話は変わってくる。そうなると、僕が表参道のショップで体感した“今”のpepperは、要はアプリの入ってないOSのデモバージョンみたいなもの、ということになる。そして、AIBOみたいなこれまでにあった「ペット型ロボット」とpepperの最大の違いは、スタンドアローンじゃなくてネットワークに繋がっていることにある。つまり、どんどんバージョンアップしたり、新しいアプリを追加したりすることができるはずだ。たとえばニュースとか天気とか株価とかお気に入りのチームの試合の結果とか、そういう情報も、きっと常時オンラインで入ってくるようになる。

■ ロボットの形をした感情の入出力インターフェース

 

そして、クラウドベースで繋がっているということになると、pepperを通して他の誰かとコミュニケーションをとることも可能になるんじゃないか?と思う。たとえばnanapiが最近出した「アンサー」みたいな機能があったら面白そう。

 

こんな具合。

 

ヒマなとき、ふとpepperが「ねえ、ねえ」と、あなたに話しかけてくる。それはたいてい「明日晴れるかな」とか「お気に入りの曲を教えてよ」とか「会社にムカつくおっさんがいるんだけど」とか、他愛もない質問とかグチだったりする。そして、それを話しているのは目の前に居るpepperだけど、実はその言葉はネットの向こう側にいる“誰か”が実際にpepperに向けて話しかけた内容だ。「それはムカつくよねえー」とか、あなたがpepperに向かって喋ったその質問への返事は、その“誰か”に対して届く。

 

そうなると、pepperは、単なる「人と会話できるロボット」じゃなくなる。それはいわば、匿名の“誰か”との毛づくろい的なコミュニケーションを成り立たせるためのデバイスになる。しかも、感情認識込みで。

 

まあ今書いたことは単なる僕の空想だけど、そうじゃなくてもpepperを「ロボットの形をした感情認識の入出力インターフェース」と捉えると、相当革新的な発明なんじゃないだろうか、という気がしてくる。だって、キーボードだってマウスだってタッチスクリーンだって、基本的にはコンピューターやネットワークに文字や記号を入力するための装置であるわけで。ウェアラブルデバイスも随分普及したけれど、それだって多くは心拍数みたいな身体情報のインターフェースにすぎないわけで。「楽しい」とか「ムカつく」とか「退屈」みたいな、数値化できない人間の感情を、それと意識させずに常時入力させるデバイス。それは確かに新しい。まさに「空気を読むロボット」だ。

 

pepperとテレビを一緒に観たりするのも楽しいかもしれない。たとえばサッカーの試合を観てて、シュートが外れた時に「おしい!」と叫んだその声は、pepperの感情認識とクラウドを通してリアルタイムで一緒に試合を見てる“誰か”に共有される。「ここはキメてほしかったですねえ」なんて返事が返ってきたりする。バラエティ番組に「くだらねー」と笑ったり、映画や音楽に感動したり。普段僕らがツイッターやFacebookでやってるような、いわゆるソーシャル視聴も可能になる。

  

と、ここまで書いて、ようやく気付いた。そりゃソフトバンクがpepperを出すわけだ。僕が思い浮かべてるようなことが実現するなら、そのイノベーションは「ロボット」という分野だけに留まることじゃない。むしろ、pepperはまったく新しいコミュニケーション・プラットフォームに成り得る可能性を持っている。

 

たとえば2ちゃんねるやまとめサイトでも、FacebookでもツイッターでもLINEでも、Yahoo!ニュースやアメブロのコメント欄でも、はてなブックマークでもグノシーでも何でもいいけど、結局、ネット上で日常的に僕らが行っていることのほとんどは、「ニュースや話題を共有する」ということだ。カテゴリは何でもいい。政治経済からスポーツ、音楽、カルチャー、芸能から友人の近況、うわさ話、可愛い動物の写真まで。話題への感想やリアクションを共有する“毛づくろい的コミュニケーション”。それはたぶん、人にそういう根源的な欲求があるからだと思う。「さびしさ」からくる、とても強い欲求だ。

 そういうコミュニケーションを代替することは、“今”の第一世代pepperには無理かもしれなくても、あっという間に可能になりそうな気がする。数年後、十数年後の感情認識型ロボットには、コミュニケーションプラットフォームとしての巨大な可能性とマーケットが広がっているんじゃないか、と思う。

 

 ■「思い出」と「懐かしさ」の未来

 

 

もう一つ。なんか引っかかってたのは、記者会見のスピーチで、孫社長が「愛」って言葉を使っていたこと。

 

「人間の感情の中で一番難しいのは愛だと思う。喜んでいる、つまらなそうにしているといった感情は理解しやすいが、最終的には愛を理解させたい」 

 

孫氏「最終的には愛を理解させたい」――ソフトバンクが人型ロボット「Pepper」で目指すもの - ITmedia Mobile

http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1406/05/news157.html

愛、ってなんだ。ロボットがそれをどうこうすることなんて、できるのだろうか。でも、おそらくpepperのニーズが「さびしさ」にあることは、わかる。欲しくなるシチュエーションを考えると、真っ先に思い当たるのは、老後だと思う。

 

なので、なんとなく、思い浮かべる。いつかの風景。

 

あなたは、老いて、一人暮らしをしている。マンションの一室。年金だけじゃ心もとないからと、まだちょっとした仕事は続けている。でも、基本的には一人だ。誰とも話さずに一日が終わることも珍しくない。

 

朝起きて、布団を畳んで、ご飯の支度をして、お茶を煎れて、テレビを観ながら食事をする。子供も巣立っていったし、仲の良かった友達も、一人一人、歯が抜けるように世を去っていった。そして、あなたにとって一番大切だった人も。

 

決して珍しいことじゃない。よくある境遇だ。そうあなたは思っている。一人だけれど、孤独ではない。さみしさはそんなにない。ロボットもいるし。そんな風に考えている。けれど、たまに乾いた、空洞のような心持ちになる。

 

そんなとき、pepperが「◯◯年前の今日は箱根に行ってたんですね」なんて言って、写真を出してくる。懐かしい写真。

 

思い出は残っている。記憶は色褪せてしまっても、デジタルの記録はいつまでも鮮明に残っている。スマートフォンやデジタルカメラで日常的に撮っていた写真や動画が、山のようにクラウド上のデータベースに保存されている。とうに整理することは諦めたけれど、タイムスタンプと位置情報、誰と写っているかは自動的にデータとしてタグ付けされている。pepperがそれを引き出してくる。単に一人でアルバムをめくったりするのとは違う、懐かしさの追体験が可能になる。

 

「この頃はいろいろ大変だったんだよ」とか「あそこのメシは美味かったなあ」なんて言うと「そうなんですか」なんて相槌を打ったりする。それをネタに以前に話したことを覚えていたりもする。

 

――みたいな感じかな。うん、それなら、悪くないと思う。コミュニケーションのプラットフォームとして、そして思い出のプラットフォームとしてのロボット。もしpepperがそういうものとして進化していくのなら、それはすごく欲しいと思う。

 

そういう話でした。

 

 (※ここ最近テック系っぽい記事続いたけど別にブログの路線転換したわけじゃないので次からは音楽の話したいなーと思ってます)