日々の音色とことば

usual tones and words

追悼XXXTentacion

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XXXTentacionが亡くなった。享年20歳。強盗犯に射殺されたという。

 

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とても悲しい。すごく残念で、胸が締め付けられるような気がする。だから、ちゃんと追悼の思いを書き連ねておこうと思う。

 

シンプルに、彼の作る音楽がとても好きだった。こういう仕事をしているからいつもは評論家めいた物言いをしてしまうけれど、XXXTentacionのいくつかの曲に、その言葉やメロディに、かつて10代の思春期の頃に自分を救ってくれた音楽に通じ合うものを勝手に感じていた。

 

昨年、やはり21歳で若くして亡くなってしまったLil Peepも同じだ。僕は彼の音楽にすごく思い入れていたから、その死は、とても惜しく辛いものだった。


僕がXXXTentacionに出会ったのは、彼の名を有名にした「Look at Me」ではなく「King」という曲だった。たしかSpotifyのランダム再生だったと思う。ちょうど車を運転していたから、中盤の叫びのところで「え? 誰?」と思わず路肩に止めてアーティスト名をメモした。

 

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この曲ではこんなことを歌っていた。

 

Leave me alone, I wanna go home
(一人にさせてくれ、帰りたいんだ)
It’s all in my head, I won’t be upset if
(全部俺の頭の中の問題だ。そうならもう心も乱さない)
Hate me, won’t break me,
(憎んでくれ。そうしたって俺は壊れない)
I’m killing everyone I love
(俺を愛してくれる奴ら全てを殺したい) 


最初に聴いたとき、なにか撃ち抜かれるような感があった。居場所のなさ、行き場のなさ、自暴自棄な混乱と諦念。「メンヘラ」という言葉で括られてポップに消費される以前の生々しい感情。そういうものがあった。

 

彼やLil Peepのことをいろいろ調べて記事を書いた。デビュー・アルバム『17』をリリースする前のことだ。彼自身が元彼女への暴行など様々な問題を起こしていたことを知ったのは、もう少し後の話。

 

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そこで書いた「グランジ・ラップ」なる言葉は僕の造語だけれど、結局、彼やLil Peepの音楽は「エモ・トラップ」や「エモ・ラップ」というジャンルで括られるようになっていった。でも、だいたい意味するところは同じだ。ニルヴァーナのカート・コバーンだって、マイ・ケミカル・ロマンスのジェラルド・ウェイだって、世を席巻した時代は違うけれど、それぞれの時代の生き辛さを抱えたティーンを救っていた。

 

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いや、「ティーン」なんて言い方をすべきじゃないな。これは僕の話だ。

 

僕自身は決して不幸な生い立ちじゃない。むしろ恵まれていたほうだと思う。虐められていたわけでもない。不登校だったわけでもない。少しばかり奇矯な行いは目立っていたと思うけれど、それでも中高一貫の男子校で楽しく充実した日々を過ごしていた。と思う。

 

でも、それでも過去を振り返ると「なんとか生き延びてきた」という実感がある。よくわからない自分の内側のどこかに切迫したものがあって、眠れない夜に、それが獣のように襲いかかってくるような感覚。それを今でも覚えている。怒りや苛立ちが外に向かわず、ハウリングを起こしたマイクとスピーカーのようにぐるぐると内省の回路をまわり続ける感覚。いっそのことスイッチを切ってしまいたい、大事にしているものを全て投げ捨ててしまいたい、という衝動。そういうものがあった。

 

いや、今も時々ある。

 

そういうときは処方された薬を飲むようにしている。アルプラゾラム。日本では「ソラナックス」という商品名で知られている。syrup16gがアルバム『coup d'Etat』で「空をなくす」という曲を書いているが、その曲名はここからとられている。

 

そして、それはアメリカでは抗不安薬「Xanax」という商品名で売られている。

 

だから昨年、デビューアルバム『Come Over When You're Sober, Pt. 1』を発表したばかりのLil Peepが21歳で亡くなったときには深い衝撃があった。死因はXanaxのオーバードーズだった。とても他人事じゃない。

 

XXXTentacionが昨年夏に発表したデビューアルバム『17』に収録された「Jocelyn Flores」は、鬱病に苦しみ16歳で自殺した彼の女友達をテーマにした曲。タイトルは彼女の名前だ。

 

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そこではこんなことが歌われている。

 

I’ll be feelin’ pain, I’ll be feelin’ pain just to hold on


(苦しい。苦しくて仕方ない。でも耐えるしかない)

 And I don’t feel the same, I’m so numb


(もう前と同じようには感じない。麻痺してるんだ)

 

そして今年3月、XXXTentacionはセカンドアルバム『?』を発表する。アルバムは前作を上回る傑作になった。

 

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『17』の成功や、Lil Peepの死や、いくつかの状況が彼の価値観と行動を変えていた。大きな変化は、根底にある鬱や孤独感は変わらぬまま、自棄や厭世的な内容に終わらず、世代のアイコンとなりつつある自分の存在の意味を引き受け始めていたことだ。


収録曲の一つ「Hope」は、2月に彼の地元フロリダの高校で起きた銃乱射事件に対しての追悼曲だ。

 


『?』はビルボード1位を記録し、XXXTentacionはスターダムを駆け上がった。

 

そして彼は前に進もうとしていた。死の直前の5月にはチャリティープログラム「Helping Hand Foundation」立ち上げを宣言し、フロリダでチャリティーイベントを行う計画を表明していた。

 

「Hope」ではこんな風に歌っている。

Oh no, I swear to god, I be in my mind
(俺は神に誓う)
Swear I wouldn’t die, yeah,
we ain’t gonna-
(俺は死なないよ。俺たちは死なない)
There’s hope for the rest of us
(生き延びた俺たちには希望がある)

 

だからこそ、彼の死は早すぎたし、運命の皮肉を感じてしまう。


本当に惜しいのは、この先に沢山の可能性があったこと。Diploの追悼コメントによると、どうやらXXXTentacionはDiploとSkrillexのプロデュースで次の作品を制作する構想もあったようだ。

 

幻になってしまった次の作品は、きっとXXXTentacionにとっての本当の代表作になっただろう。ひょっとしたら、それは、マイ・ケミカル・ロマンスにおける『The Black Parade』のように、死から生へと向かう強烈なエネルギーを新しいポップ・ミュージックの形で昇華したものになったかもしれない。

 

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僕はXXXTentacionのことを、次の時代の音楽シーンを担うヒーローだったと本気で思っている。そして、たぶん、いろんな媒体で「アメリカの鬱屈した若い世代の代弁者だった」と彼のことを書くだろうと思う。

 

でも、このブログはとても個人的な場所なので、一つだけそれに加えておく。自分はもういい歳したオッサンだけど、彼は「若者」だけじゃなくて僕自身の代弁者でもあったんだと思う。

 

だから、すごく悲しい。

 

There’s hope for the rest of us.

 

冥福を祈ります。