「終わりの始まり」―― 音楽業界の2007年と2008年
http://d.hatena.ne.jp/rmxtori/20071230/p1
元記事の方にリアクションをいただきました。ありがとうございます。
書かれている内容は、まさに僕自身が「まだまだ整理しきれていない」と思っていた部分について。僕もそこについて、続けて書こうと思っていた。音楽そのものがなくならないのは前提として、「それをどう人に届けるか?」という問題についてだ。同じことをリスナー側の視点からいえば、「聴きたい音楽にどうやって辿り着けばいいのか?」という問題。
今進んでいる事態は、まさに音楽業界を巡る状況がフラット化しているということに他ならないと、僕自身は思っている。そういう中で、果たして「ポップ・ミュージック」が成立するのだろうか? その問いの答えは、確かにシビアなものにならざるを得ない。
昨日書いたように、音楽の作り手と受け手との関係がパーソナルになっていくこと、フラットになっていくことを突き詰めていくと、どういうことになるのだろうか。思考実験も兼ねて、「まあそうは言ってもさ……」みたいな部分を排除して推測してみる。まず、CDの売り上げ数が減っていくのは大前提。ロングテールの尻尾がどこまで伸びていっても、頭や胴体は痩せ細っていく。音源を「みんなが聴いている」という状況、つまりポップ・ミュージックを成り立たせている共通認識は確かになくなっていくだろう。そうしたときに、どうすればいいのか?
ミュージシャン側の視点に立つならば、「マスに届けなくていいんじゃね?」ということになるかもしれない。それでよしとするならば、成り立つ音楽業界のビジネスモデルはいくらでもある。というより、小さなライヴハウスはすでにそういうシステムをずっと昔から構築している。出演する側が金を払って、チケットのノルマを買い取る。それを超える人数が集まれば、アーティストの収入になる。そういう、表現する側が金を払うというモデル。ミュージシャンがプロとしてやっていく条件は、デビューを果たして華々しい成功をおさめることではなく、兼業も含め、見合ったスケールにおけるコストを最大限まで切り詰めるということになる。もしくは「自己表現」なんて厄介なものと向き合うのをさっさとやめて、発注者の依頼に応えるサウンド・クリエイターに徹すること。”絵描き”か”イラストレーター”みたいなものか。
でも、リスナー側の視点に立つと、話は少し厄介になる。そうしてフラット化した場所から「聴きたい音楽」「(自分にとって)いい音楽」をどうやって探し出すか。amazonもITMSも、俯瞰でみれば広大な砂漠のようなものである。ランキングはあるけれど、それはビルボードやオリコンのような指標にはならない気がする。さらに、myspaceやmuzieのように無料で登録できるものなら、玉石混合の度合いは劇的に高まる。到底見つけられない。口コミは頼りになるだろうし、だからこそSNSはひとつのキーになるだろうけれど、それでもそれがこれまでの(リスナーにとっての)音楽業界やメディアの役割を補完するとはなかなか思えない。
つまり、レーベルや音楽メディアは、そういう広大な砂漠において「水脈はここにありますよ」ということを大声で喧伝することを商売にしてきた、とも言える。水脈はやがてオアシスになり、多数の人がそこに集う。そうして、集まった人たちに水を売ることで商売は成り立つ。オアシスという言葉を「音楽シーン」と言い換えてもいい。けれど、資源だと思っていた水=コンテンツは複製が容易なおかげですでに売り物ではなくなり始めている。さあ、どうしよう? ……というあたりが、ここ数年の状況なのではないかと僕は思っている。
そこで、ひとつ考えられるのが、音楽業界にはまだgoogleがいないな、ということ。googleの検索結果に並ぶのはそもそも「売り物」ではない。それをユーザーに提供することで金を得ているわけではない。それと同じように、広大な玉石混合の砂漠の中からリスナーが聴きたい音楽に辿り着くための最適化されたサービスを構築することができれば、それはきっとビジネスモデルとして成立する気がする。ただし、この場合も金を払うのはリスナーじゃない。googleが広告収入で成り立っているのと同じように、やっぱり、表現する側が金を払うというモデルだ。
そして最後に。そういうミュージシャン側とリスナー側の視点を踏まえたうえで、それでも「ポップ・ミュージック」や「音楽シーン」なるものを成立させていくにはどうすればいいのか?という問題は、やっぱり一番難しい。それだけは、さすがに表現する側が金を払うというモデルでは無理があるだろう。そこでみんな頭を抱えているわけだ。
でも、すでに多くの人が書いているように、そのキーはやはり“つながり”と“体験”にあると僕も思う。つまり、フェスティヴァルやライヴそのもの。
フェスについては書きたいことも多いので、この話題はまだまだ続きます。