東京失格 (2008/08/22) 関口純KYPCAHT 商品詳細を見る |
古い友人でもある井川広太郎監督の初作品『東京失格』がDVDリリースされた。
バンクーバー、ロッテルダム、ソウルなど各国の映画祭にノミネートや招待もされているというこの作品。公開からは2年経ったけれど、今でも少しずつ反響を巻き起こしている。
僕は今までに2度、この映画を観ている。最初は監督に渡されたまだラフな編集段階のもの、そして次はちょうど2年前、2006年の夏・下北沢シネマアートンにて。
最初に観たときは、率直に、「なんて何も起こらない映画なんだろう」と思った。親友を亡くした二人が、飲み明かし、騒ぎ、家に帰れないまま、夜から朝へ、そしてもう一度夜へ、東京を彷徨い続ける。ストーリーの起伏はない。ただダラダラと、時間が過ぎていくように見える。
けれど、劇場の大きなスクリーンで観たときに、その「帰れない時間」の静かな鮮烈さがゆっくりと伝わってきた。満開の桜の花。雲が掛かった川べりの白い空。深夜の車の中のわずかな光に照らされた横顔。
最初の方のシーケンスで印象的な台詞がある。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
というちょっとしたやり取り。その場では飲み会での「飲み過ぎてないか」くらいの軽い確認だったはずなんだけれど、ラストシーンに近づくにつれ、その言葉の本当の重みが露になってくる。そして、ざらついた問い掛けが後に残る。〈果たして、自分は、何かを置き去りにしてきてはいないだろうか。〉
「lost in tokyo」という副題のせいもあっただろうか。僕はこの映画を“喪失”にまつわる物語かと勝手に思っていた。でも、そうではなかった。ロードムーヴィーの形をとりながら、ある種の「決着のつかなさ」について、ゆっくりとあぶりだしていくような映画だった。
観終わった後に、何か言葉にし辛いものが心に貼り付いているかのような余韻を残す作品。他の人がどんな風に思うか、感想を聞いてみたいな。