日々の音色とことば

usual tones and words

アノニマスはなぜ日本政府とレコード協会に宣戦布告をしたのか

著作権法が改正され、違法ダウンロードの刑事罰化が決まってから数日後。アノニマスが日本をターゲットに動き始めた。第一報は以下の記事に詳しい。

Anonymousが日本政府とレコード協会に“宣戦布告” 違法ダウンロード刑事罰化に抗議
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1206/26/news064.html

その後も、最高裁からJASRACまで、ホームページに対するサイバー攻撃が続いている。ページが閲覧しにくくなったり、別の内容に書き換えられたりしている。“霞ヶ関”と“霞ヶ浦”を間違えたり、お茶目な間違いもあるようだが、6月28日現在、まだまだ攻撃対象は拡大していきそうだ。

なぜ、アノニマスは宣戦布告をしたのか。彼らの意図はどこにあるのか。

まず確認しておきたいのは、ニュース解説などでは「国際的ハッカー集団」と言われているアノニマスが、決して一枚岩の「集団」ではないということ。アノニマスは、一人のリーダーのもと統率された組織ではない。ハッキング行為を行なっているのはそのうちの少数だという話もある。「集団」というよりも、匿名多数による「現象」と言うほうが、そもそものアノニマスの形態に近い。

参考:
Anonymousは「ハッカー集団」なのか?
http://d.hatena.ne.jp/ukky3/20110908/1315536752
「アノニマス」の歴史とその思想
http://synodos.livedoor.biz/archives/1850228.html
アノニマスを「ハッカー集団」という一つの統率された「組織」ではなく、匿名の、烏合の衆による「現象」だと捉えると、いろいろなことに気づく。


もちろん、日本にもアノニマスはいる。


アノニマスは、既存の政治とは無関係であり、国際的な集団です。
我々は、あなたがどこの国から来ても、またどの政党を支持していようと、問題にしません。
我々は、情報の自由を守ることと、検閲に反対することを唯一の関心としています。

マスコミはアノニマスをハッカー集団と述べていますが、これは完全に真実ではありません。
コンピュータハッカーの参加者もいますが、多くは単純に、日常的にインターネットを楽しむユーザーであり、
情報の自由を信じています。この掲示板は、これら普通の人に向けてのものであります。

非合法の活動をここで促進したり、議論したりしないでください。

安全に抗議しましょう。
合法的に抗議しましょう。
そして、アノニマス(名無し)のままでいましょう。

上記は「チャノロジー・アノニマス」という団体の掲示板から抜粋したもの。http://jbbs.livedoor.jp/internet/11764/

今回の件に関しても、日本のアノニマスたちはあくまで合法的なやり方での抗議を考えていたが、アメリカのアノニマスの一部が強硬手段に出た、という情報もある。

アノニマスは「組織」ではなく「烏合の衆」であるから、その行動もバラバラだし、集団として一つのまとまりを持っているわけではない。しかし、一つの旗印はある。それは上記に書かれている「情報の自由を守ることと、検閲に反対すること」ということ。

今回のサイバー攻撃に関してのアノニマスの声明は以下のページに掲げられている。
http://anonpr.net/opjapan-expect-us-512/#more-512
はたして彼らが何を思っているのか。とりあえず、和訳してみた。

日出ずる国の皆へ。こんにちは、我々はアノニマスだ。

近年、世界中のコンテンツ産業や政治家や政府による、インターネット上の海賊行為や著作権侵害との戦いが激化している。

しかし、残念ながら、この動きの中で彼らは多くの間違った選択を行っている。数々の強権的な法律を制定し、その結果市民の基本的な権利を侵害し、イノベーションを大きく阻害している。

そして今、これまで多数の偉大な技術的革新を育んできた日本もまた同様に、コンテンツ産業の圧力に屈し、海賊行為と著作権侵害との戦いに邁進することを選んだ。

日本では、先週、著作権法の改正が行われた。違法アップロードされたコンテンツをダウンロードしただけで、一般人が最高で2年間の懲役刑を課せられるようになった。

我々アノニマスは、このことによって数多くの無実の市民が不当に投獄され、しかも著作権侵害の問題そのものの解決にはほとんど効果をあげないと強く信じている。

さらに、コンテンツ産業は日本中のプロバイダーに対して日本中のインターネット利用者を監視するシステムを導入するように圧力をかけている。この前例のないアプローチは、法を遵守する市民が自由な社会で保障されるべきプライバシーを深く傷つけることになるだろう。

日本政府と日本レコード協会へ。あなたたちが基本的なプライバシーの権利、そしてオープンなインターネットの権利を侵害するならば、我々はあなたたちが相応の報いを負うべく、同じように働きかけるだろう。期待してほしい。

我々はアノニマスだ。
我々は軍団だ。
我々は許さない。
我々は忘れない。
我々の行動に期待してほしい。


もちろん、サイバー攻撃を肯定するつもりは全くない。端的に言って犯罪であるし、そのことによって今の状況が好転するとは、思っていない。

ただし、著作権法の改正と違法ダウンロードの刑事罰化が音楽産業やコンテンツ業界だけの問題ではなく、「情報の自由の侵害」、つまりは基本的人権にかかわる問題なのであるというのが、彼らの基本的なステートメントだ。それを多くの人に伝えるというのが彼らの第一の意図なのだろう。

2012年になり、彼らはイギリス政府中国政府に対しても攻撃を行なっている。

これまでアノニマスは、チュニジアやエジプトの革命時も含め、各国政府や多国籍企業など「情報の自由に対する脅威」とみなした対象への大規模な攻撃を繰り返してきた。今回の一件で、日本もその流れに飲み込まれた、ということなのだ。

※アノニマスについて、以前に書いた文章はこちら。
「アノニマスから「Google Army」へ」
http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-483.html

個人的には日本においての大飯原発の再稼働やマニフェストを反故にした消費税増税、そしてヨーロッパにおけるギリシャやユーロの問題と同時並行でこの動きが起こっていることが、とても興味深いと思っている。

ひょっとしたら、問題の本質はレコード協会とかJASRACよりはるかに大きい、「国家という統治機構に対する信用」に関わるものなのではないか?という……。

この先の話は、またいずれ。