日々の音色とことば

usual tones and words

アジカン「リライト」とAKB48「ヘビーローテーション」から学ぶ、売れるメロディを書くための「たったひとつの冴えたやりかた」【追記あり】


リライト
【特典生写真無し】ヘビーローテーション<Type-A>


ASIAN KUNG-FU GENERATION(=アジカン)の楽曲が持ってるメロディの特徴を追っていったら、「あれ? これロックバンドとかアイドルとかボカロとかジャンルに関係なく、日本における“売れる曲”を書くための黄金メソッドなんじゃない?」と気付いた、というお話です。

(ちなみに、この記事は以前書いた「アジカンの黄金律」についての話の続き。前回の記事はこちら:「アジカンと「バックビート問題」〜武道館公演から見えた「黄金律」 
http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-502.html


ちなみに、7月18日に発売になった『MUSICA』誌でも、ニューシングル「それでは、また明日」のレビューの中で、こんな風に書きました。


MUSICA (ムジカ) 2012年 08月号 [雑誌]MUSICA (ムジカ) 2012年 08月号 [雑誌]
(2012/07/17)


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気持ちいいほど“アジカンメソッド”が貫かれた、黄金律発動の一曲。その詳細を説明するのはこの文字数では到底足りないが、一つのキーは「歌メロがリズムを駆動している」ということ。イントロや中間部では裏拍(=バックビート)にグルーヴの重心が、しかしAメロやサビでは表拍(=ダウンビート)に重心がある。メロディの抑揚とゴッチの歌い回しがその運動性の変化を生み出し、それがポップネスに繋がっている。

『MUSICA』誌上では「その詳細を説明するのはこの文字数では到底足りないが〜」なんて書いてしまったので、ここでじっくり書こうと思ってます。そのために、参考になる比較対象がAKB48の“ヘビーローテーション”というわけ。


■ 2011年の「ランキング1位」の”リライト”と”ヘビーローテーション”。


では、なぜ、アジカンの“リライト”とAKB48の“ヘビーローテーション”なのか。お互いの代表曲というのもあるけれど、この2曲は、ともに「2011年のランキング1位」なのです。2011年、つまり去年のランキング。何のランキングかというと、

・ AKB48“ヘビーローテーション”=カラオケリクエスト曲ランキング1位。
・ アジカン“リライト”=高校の軽音楽部のバンドが文化祭でコピーした楽曲ランキング1位。

(※ ちなみにカラオケランキングはJOYSOUNDのランキング(こちら)、軽音楽部のコピー楽曲ランキングはミニコミ『Kids these days vol.2』(こちら)を参照しました。後者はライターの成松さんが実際に高校の文化祭に足で通って調べた「17校・173バンド・のべ540曲」からのランキングです。そもそも軽音楽部のバンドにコピーされた楽曲ランキングの全国的な統計なんてないので、前者と後者でサンプル数に多大な開きがあるのはご容赦を)

で、共に発売からはかなり時間が経ってます。アジカンの“リライト”は2004年のリリースだし、AKB48で言えば、2010年リリースだけどその後に“フライングゲット”や“Everyday、カチューシャ”など、売上枚数の上回る曲はいくつもリリースされてます。それでも、これらの曲が2011年に1位を記録している。そのことの意味はとても大きいわけで。

これは、つまり“ヘビーローテーション”はカラオケにくる老若男女に、“リライト”はバンドを組んだ学生にとっての「歌いたい曲ランキング1位」になっている、ということ。いまやオリコンランキングが「(複数枚購入を前提とした)CDパッケージの売れた枚数の順位」の指標でしかない昨今、よっぽど信頼に値する「ヒット曲の指標」のNo.1に輝いた2曲と言えるんじゃないのかな、と。

そして、僕がこの記事で言おうとしているのは、この“リライト”と“ヘビーローテーション”が、実はほぼ同じメロディの構造を持っている、ということなのです。


■売れるメロディ=サビ1拍目のアタマに向かって駆け上がるメロディ

“リライト”と“ヘビーローテーション”で見られる同じメロディの構造とは何か。「歌いたくなる曲1位」の2曲の共通点は何か? 結論からいうと、

サビ1拍目のアタマに向かって駆け上がるメロディ
なのです。いったい何のこっちゃと思う人、まずは動画を。

“リライト”のサビ「♪消して リライトして」は、前小節の4拍目(「♪消し」)から1拍目アタマ(「♪て〜」)、前小節の2拍目ウラ(「♪リライトし」)から1拍目アタマ(「♪て〜」)に音程が上がっていくメロディ。

“ヘビーローテーション”のサビ「♪I want you I need you」は、前小節の3拍目「♪I want」から1拍目アタマ「♪You〜」に音程が上がっていくメロディ。

どちらも同じ譜割りとメロディの抑揚を持っているわけだ。まあ解説しようとするとややこしくなっちゃうけど、ピンとこない人も「♪ I want you〜 リライトして〜」と口ずさんでみたら、なんとなく「あ、同じ!」とわかるんじゃないだろうか。


■ 実はボカロ曲にもあった「駆け上がるメロディ」

で、実はこの構造のメロディを持っている曲は、“リライト”と“ヘビーローテーション”だけじゃない。ボーカロイド楽曲として500万回再生という破格の再生回数を記録したハチの“マトリショカ”。アーティストとしてのデビュー作品『diolama』が大きくヒットした米津玄師がボカロPとして作った楽曲だ。この曲のサビも、そう。

サビの「♪あのね〜」が、同じくサビ前の3拍目ウラからサビ小節1拍目のアタマに向かって駆け上がるメロディになっている。

そして、黒うさPの「千本桜」。こちらも2011年9月の公開から380万回再生というモンスターヒット。

これも、「♪千本桜〜」の「♪せん〜」がサビ前の4拍目から入っている。そこからサビ小節1拍目のアタマに向かって駆け上がるメロディの動き方をしている。

というわけで、ボカロ曲においてもトップクラスの2曲に、このメロディの構造が現れている。アイドル、ロックバンド、ボーカロイド、それぞれジャンルや聴いている人の層は違えど、ヒットする曲には同じメロディの構造が現れているわけだ。

■「1拍目アタマに向かって駆け上がるメロディ」をメソッド化したアジカン

で、僕が「黄金律」と言っているのは、「1拍目のアタマに向かって駆け上がるメロディ」を、他のアーティストや作曲家に比べ、アジカンのメインソングライターである後藤正文は明確に意識してメソッドとして用いているから。実際、彼らの楽曲、特にシングルカットされた楽曲にはこのメロディの構造を持ったものが、非常に多い。サビに限らず、いろんなところでこれが使われている。たとえば”君の街まで”などもそう。


そしてそれは、決して初期の彼らにだけに見られる特徴でもない。最近で言えば“マーチングバンド”も、そして新曲“それでは、また明日”もそう。

「♪彼が求めたのは あの娘が流したのは 君が嘆いたのは ほかならぬ今日だ 」
「♪誰かが隠したような 僕らがなくしたような 何事もない日々を取り戻せそうか」

ちょっと変則的だけれど、サビのメロディの繰り返しの2番目「♪あの娘が〜」は、4拍目のウラから1拍目のアタマに駆け上がるメロディ。ちなみに、この「4拍目のウラから入る」というのも”アジカンメソッド”の大事な要素の一つ。他の曲でも多々出てきます。そして「♪ほかならぬ今日だ」という部分。こちらも1拍目のアタマに駆け上がるメロディになってます。


ちなみに、この”それでは、また明日”というのは劇場版『NARUTO』のタイアップがついたナンバーで、アジカンにとっての勝負曲とも言える楽曲。こういう、ここぞという楽曲では「必殺のメロディ」を惜しげもなく使ってくるのが、「黄金律」と僕が思う所以なのです。

ちなみに、この「1拍目アタマに駆け上がるメロディ」が「売れるメロディ」なのは、洋楽や邦楽も超えたものなのか、時代を超えた普遍性を持つ嗜好なのか。それを今は探っているところなんだけれど、今のところはどうも00年代以降のJ-POPに特有の現象という気がしています。もしそれが事実ならば、後藤正文というソングライターは、00年代以降のJ-POP一つのフォーマットを作った功績がある、というふうにも言えるかも。

つまり。

最近では『THE FUTURE TIMES』の発行や、様々な場所でのスポークスマン的な活動が目立っているけれど、僕は何よりも、後藤正文という人は日本のロックシーンが誇る「最強のメロディーメイカー」だと思っているのです。

【追記】

はてなブックマークのコメントやTwitterで反論もらいました。アウフタクト(弱起)の典型例なのではないか、と(→「アウフタクトとは - 音楽用語 Weblio辞書」)考えてみたら”川の流れのように”もそうでした。なので上記のように”発明”とか”フォーマットを作った”とか言うと、ちょっと語弊がありますね。反省。





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(2012/07/25)
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