■貴重なライブと、その先への期待
サム・スミスのライブを観てきました。しかもUberのキャンペーンで当選して、黒塗りハイヤーで行ってきた。めちゃ貴重な体験をしました。というわけで、今日はその話。
待望の初来日。場所は鶯谷の東京キネマ倶楽部。感想から言うと、本当に素晴らしかった。圧倒的に歌が上手い。もうそれ以上余計なこと言わなくていいんじゃない?ってくらいのパフォーマンス。チェロ、ピアノ、ギターというシンプルなバンド編成で、リズム楽器のないアコースティックなアレンジだからこそ、彼の声が持つ色気と浸透力がストレートに伝わってくる。
セットリストは6曲。
- ニルヴァーナ
- アイム・ノット・ジ・オンリー・ワン
- グッド・シング
- ラッチ
- レイ・ミー・ダウン
- ステイ・ウィズ・ミー
あっという間だった。おそらく、今回のライブはあくまでショーケース的な意味合いの強いものなんだろう。でも、痛感したのはグラミー賞を受賞して時代の寵児になっている今の彼に対して、こんな小さな場所でショーケース的なライブをするということのもったいなさ。貴重なライブを目撃できた喜びはすごくあるんだけど、その一方で、これはもっと沢山の人が、みんなが観るべきものだという思いはぬぐえなかった。
『スッキリ』に出演したというのは「いかにも」と思ったけれど、それだけじゃなく、それこそ『Mステ』にも出てほしいし、夏フェスの大きなステージにも立ってほしいと思った。時代を代表する、みんなが知ってるスターになり得る器だと思った。
「レイ・ミー・ダウン」の前のMCで、サムは「自分の人生はアルバムをリリースして大きく変わった」と言っていた。ゲイであることも含め、彼は自分の「ありのまま」をさらけ出して音楽という表現にした。それが世界中で受け入れられた。そのことは、これからの社会をイメージする上で象徴的なことである、とも思うのだ。
少なくとも、アメリカのエンタテインメントの世界は変わりつつある。マイノリティがキワモノとして取り沙汰されるのではなく、それぞれの違いを認めつつ「イコール」な存在として、その多様性が認められるように変わりつつある。前にも、グラミー賞とからめてそのことは書いた。
サム・スミスとグラミー賞、アメリカと日本について - 日々の音色とことば
もちろん、彼自身は別に社会的なスタンスやメッセージ性を持ったシンガーというわけじゃない。それでも、サム・スミスみたいな人がヒーローに成り得る世の中って、すごく素敵だと思うのだ。だからアメリカだけじゃなく日本でも売れてほしい。もっともっとブレイクするだろうし、すごく期待してる。
■Uberでのスペシャル体験
そして、もう一つ。今回のサム・スミスのライブ、僕はUberのキャンペーンでチケットが当たって、行くことができたのだ。そのことはすごく嬉しいし、「Uberすげえ!!」と単純に思ったわけなんだけど、実際のところ、いろいろ考えることもあった。ここからは、そのことについて。
まずは、キャンペーンの概要。こういうキャンペーンだったのだ。
Uberで、第57回グラミー賞4冠を果たしたサム・スミスのスペシャルライブにいこう! | Uber Blog
サム・スミス×配車サービス Uber コラボキャンペーンでライブに招待 | Musicman-NET
「#SamSmithUber」というハッシュタグをつけてツイートを発信することで、Uber配車の黒塗りハイヤーに乗ってライブに行くことができる、という話。そりゃもう、応募しようと思いましたよ。チケットは当然あっという間にソールドアウトだった。ヤフオクも見てみたけど値段は数万円に跳ね上がっていた。超プラチナチケットだ。一応僕は音楽業界でライターとして仕事をしてるわけで、関係者という枠組みに入るんだろうけど、それでも今回のライブに行けるツテはなかった。そういうワケで、以下のツイートをしました。
Uberのキャンペーンでサム・スミスのスペシャルライブに招待してくれるという話。チケット当然とれなかったしめちゃめちゃ行きたいですわこれ→ http://t.co/UEPOugpZcT #SamSmithUber
— 柴 那典@新刊『平成のヒット曲』発売 (@shiba710) 2015年2月16日
そしたら一日後、Uberの人から連絡が来た。当選した、とのこと。
ホントだった。アプリを立ち上げたら「Taxi」や「ハイヤー」みたいな選択肢の隣に「Sam」というオプションがあって、それを選んだらライブの場まで連れてってくれるという。渋谷のヒカリエ前で黒塗りのハイヤーが待っていた。Facebookで誘ったヴィレッジ・ヴァンガードの金田さんと一緒に行ってきました。
黒塗りハイヤーでサム・スミスのライブへ。すごい時代だ。#SamSmithUber
という、今回のUberのキャンペーン。2組4名様の当選で、後から誰かのツイートで知ったんだけど、どうやらもう一組はモデルの人だったらしい。ツイッター見てたら「なんだよ、せっかく応募して楽しみにしてたのにやらせかよ」みたいな声もあった。もう一人のモデルの人のブログも見つけた。
Sam Smith!!|ロンロンオフィシャルブログ「Rong Rong」Powered by Ameba
まあ、そう思う人はいるかもしれないよな。とはいえ、誓って言うけど、仕込みじゃない。Uberの人とは面識ないし、事前に連絡もらってたような話じゃない。出来レースではない。
でも、僕はブログもツイッターもInstagramもやってるし、そこで日常的に情報発信をしている。フォロワー数だってそれなりにある。音楽ジャーナリストという仕事をやってるわけだし、自分で言うのもおこがましいけど、いわゆる“インフルエンサー”という括りに入るんだろうな、という自覚もある。ついでに言うなら、過去に『ミュージック・マガジン』誌で彼のアルバムを2014年の年間ベストに挙げてたし、過去にブログで何度も彼の音楽について語ってたりする。
そういう意味では、「やらせ」ではないけど、より効果的なバイラル・マーケティングのターゲットとして「選ばれた」んだろうな、という気はする。
(※追記・元の告知、改めてみたら「メッセージの熱さ、リツイート数・いいね数等をベースに当選者を確定します」 とあった。「抽選」じゃなかったわけだ。なので、最初の公開時から、書き方ちょっと変えました)
さて。
ここからが問題だ。僕はこうやって今ブログにレポを書いているわけなんだけど、これは「ステマ」になるのだろうか?
正直、ステルス・マーケティングの正確な定義はわからない。ちょっと前のバズワードとして消費された感もあるから、今さらそれを問題にしている人がどれくらいいるかもわからない。
ただ、ステルス・マーケティングが問題になったり炎上したりした事例をいくつか見て調べたら、やっぱり「偽っていること」がその理由だったということがわかる。たとえば、実際は企業や代理店から報酬を受け取っているのに、それを隠して第三者の振りをしてその企業の商品をオススメしていたり。たとえばブログ自体が架空の人物による「やらせ」の企画だったり。
そういう意味で言えば、ここに書いてきた僕の体験談は、何の偽りもない本当のことで。僕はサム・スミス見たいぜ!と思ってツイートしたし、当選したんだったらそりゃバイラル・マーケティングで恩返しは引き受けるよ、という気もあった。どっちかと言うと「ガチマ」に近い、というか。
先輩の音楽ジャーナリスト、宇野維正さんからはこんなツッコミがあった。
あまりにもステマくさいから、逆にステマじゃないと理解(笑)。いいな! RT @shiba710: Uberのキャンペーンで「明日のサム・スミスのライブ行きたい」とつぶやいたらマジで当たった……! Uberさんありがとう! 超嬉しい。黒塗りハイヤーで行ってきます。みんなUber登〜
— 宇野維正 (@uno_kore) 2015年2月17日
そうそう。そんな感じなんです。ついでに言うと、以下の記事を書いたのは去年のこと。
AirbnbとUberとYelpを使ってNYを旅して思ったこと - 日々の音色とことば
せっかくなんで、宣伝もちゃんとしとこう。以下のリンクから登録すると2000円無料クーポンがつくそうなので(僕にも紹介者として2000円クーポンがつきます)、よろしくお願いします。
Sign Up to Ride With Uber Today | Uber
■「アンバサダー」と熱気の伝播
そして、もう一つ。
ここから、さらに踏み込んで考えるならば、僕が体験したこの一連の出来事は、社会のあり方が少しずつ変わってきていることの象徴でもあると思うのです。何度も繰り返して書いてきたことだけど、ここ10年ちょっとでメディアのあり方は大きく変わってきた。テレビやラジオや新聞や雑誌だけじゃなく、ウェブとソーシャルメディアの一般化で個人がメディアとなり得るようになってきた。
そのことで、「著名人」と「一般人」みたいな区分も、よりシームレスになってきた。マスメディアに選ばれた人だけが人前に出れる、みたいな状況ではなくなった。情報を発信できるようになった。(80年代や90年代はよくあった「あの人は今」みたいなテレビ番組が成立しなくなったのはそのせいだよね。アカウントを持って地道に活動していたら「消えた」ことにはならないわけだから)
さらに言うなら、誰かの「ファン」であることは、その人自身に知名度があるかないかは別として、すでに「発信側」になっているということを意味するようになってきた。
たとえば、サム・スミスの所属するユニバーサルインターナショナルは、昨年から「アンバサダー」という制度を始めている。
「UNIVERSAL INTERNATIONALアンバサダー」は、ユニバーサルインターナショナルのアーティストのファンの中から、ソーシャルメディアを積極的に活用し、自身の体験や関連情報を能動的に友達に伝達してくれるような「 アンバサダー」を発見・育成していく、企画です。
日頃、使用しているfacebookやTwitter、ブログ等のソーシャルメディアを通じ、所属するアーティストの各種情報を発信されている方が対象となり、アーティストのライヴやイベントに参加できたり、特別なプレゼントも貰えたり、アンバサダー限定の企画やキャンペーン情報を入手できるというような機会も提供される予定です。
ユニバーサル ミュージック 洋楽アンバサダー企画 第1弾スタート! |ユニバーサル ミュージック合同会社のプレスリリース
つまり、そういう風にメディア状況が変わってきている今の時代においては、やり方しだいで誰もが「アンバサダー」に成り得る、ということで。
よく「◯◯さんは影響力があるから」なんて言ったりするけど、影響力の有り無しというよりも、「誰かを熱量持って好きでいるかどうか」ということの方が、本質に近いんだと思う。その人に本気の熱があれば、それは少なからず、伝播する。
そういう「熱」を持った人が選ばれる時代になっている、ということだと思う。