日々の音色とことば

usual tones and words

RADWIMPS「青とメメメ」と「あの日のこと」


青とメメメ「セプテンバーさん」 - YouTube

 

  

9月15日21時から、「RADWIMPS「青とメメメ」発売記念『あの日のことを、話そう』♯メメメ座談会」という企画で、スペシャアプリ上の座談会に出演します。

 

「青とメメメ」発売記念『あの日のことを、話そう』#メメメ座談会
配信日時:2015年9月15日(火) 21:00~配信予定
出演:MUSICA編集長 有泉 智子/カメラマン 古渓 一道(青とメメメ:オフィシャルカメラマン)/
ライター 柴 那典/SPACESHOWER TV 栗花落 崇/映像ディレクター 谷 聰志(青とメメメ:映像監督)
ハッシュタグ:#スペシャアプリ
※都合により配信時間が変更となることがあります。予めご了承ください。

www.universal-music.co.jp

 

 

というわけで、今日の記事は、『音楽と人』2013年11月号に掲載されたRADWIMPS「青とメメメ」のライブ評原稿です。この公演のDVD/Blu-rayが9月16日に発売されるにあたって、編集部の許可を得てブログに再掲します。

 

 

 

よかったら、ぜひ。


(以下)

 『RADWIMPS / 青とメメメ』2013年9月15日 ライブレポート

 

「やばいな、本当にいい音がする」

 ライヴ中盤、ステージ真ん中に据えられたピアノの前に座って、野田洋次郎はそう呟いた。

「泣きそうになるな……」

 “ブレス”を弾き語りで歌い終え、そう言ってしばらく俯いたまま、黙りこんでいた洋次郎。しばらくしてスピーカーから嗚咽の声が響く。しゃくり上げるような、すすり泣きの声。数十秒の間、演奏が止まる。フィールドからは観客の声援。思わず息を呑んだ。

 彼が弾いていたのは、石巻の幼稚園で津波に見舞われて水没し、その後地元の楽器店「サルコヤ楽器」で修復されたというグランドピアノだった。演奏前には、彼が石巻の街を訪れ、楽器店でそのピアノに出会った時のドキュメンタリーもヴィジョンに映し出された。

 それは、目の前で沢山の命が失われていったあの日の風景を、そして、そこから2年半の時間を目の当たりにしてきたピアノだった。その後、ほんのすこしの時間。すぅ、と洋次郎が再び息を吸い込み、鼻声で次の曲「蛍」を歌いはじめるまで。僕にはまるで、震える指先で鍵盤に触れながら、洋次郎が「失われた命」と交信しているかのようにすら、感じられた。

 宮城県・国営みちのく杜の湖畔公園みちのく公園北地区 風の草原で行われたRADWIMPSの野外ライヴ「青とメメメ」。この日のMCでも告げられたのだが、実はこのライヴは2012年の春に計画され、一年半ごしで実現したのだという。本当は2012年の秋にやりたかったのだとか。

 そのことを知ったとき、RADWIMPSというバンドにとっての、このライヴの持つ意味が胸にすとんと落ちた気がした。「青とメメメ」は、本当に、ここ数年の彼らの総決算としての場だったんだろう。それを東北できちんと形として見せることで、ようやくバンドとして次に進むことができる。そういう機会だったんだろう。そう痛感した。

 2011年の3月9日に、彼らは『絶体絶命』というアルバムをリリースしている。その時点でリリース後の「絶体延命」ツアーの日程も発表されていた。直後に東日本大震災が起こる。何度も繰り返し書いてきたことだけれど、その偶然の符合は大きな衝撃として表現者・野田洋次郎を揺さぶったはずだ。

 RADWIMPSは2012年の3月11日には「白日」を、そして2013年の3月11日には「ブリキ」を、それぞれバンドのオフィシャルYouTubeに公開している。映像を担当したのは、島田大介率いるコトリフィルム。震災直後に特設サイト「糸色-Itoshiki-」を作った同じチームだ。この9月末には島田大介監督による短編映画作品「ただいま。」も公開された。「ブリキ」は、そのエンディングテーマにもなっている。

 もちろん、すでに様々なアーティストが東北でライヴを行っている。特別な思いを込めたものも、復興を力強く応援するものもあったはずだ。それでも、他の誰がどうだからではなく、やはり彼らはこの日、ここに立つ必要があったのだと思う。

「今朝起きたとき、ああ、こういうことなのかなって思ったんだ」。

 洋次郎は、この日の最初のMCでこう言った。この日は台風18号が接近し、会場は朝から豪雨に見舞われていた。東京では中止になったイベントもあった。その雨を思い、彼はこう告げる。

「ここに来れなかった人、この場にいられなかった人とかが、みんな雨になってこの場に駆けつけたのかなって。だから、今日はそんな気持ちを込めて最後まで歌います」

 彼が言った「ここに来れなかった人」には、あの日に失われた命のことも含まれるのだろう。そのことに、多くの人が気付いたはずだ。

 RADWIMPSというバンド、野田洋次郎という人は、そういう思いに寄り添い続けてきた。というか、そもそも彼らは震災が起こる前からずっと「何よりも大切なもの」と「理不尽な世界の矛盾」について歌い続けてきたバンドだった。

 デビューから『RADWIMPS 4 〜おかずのごはん〜』までの彼らは、たった一人の“君”に向けたラブソングを、手垢のついた言葉に頼らず、独創的な言葉とメロディで描いてきた。『アルトコロニーの定理』から『絶体絶命』という二枚のアルバムでは、その言葉の照準を広げ、歌の内容は世の中の摂理のような大きなテーマも含むようになってきた。

 その途上では、バンド解散の危機だってあった。それは『アルトコロニーの定理』に至るまでの、バンドの活動がストップしていた約2年3ヶ月の間。その間、野田洋次郎はCHARAのアルバム『honey』(2008年リリース)に“ラブラドール”を提供、プロデュースを担当している。その時期のことを、後に洋次郎は「すごいバンドになりたかった」「自分ばかりが突っ走っていた」と語っている。バンドヒストリーにおいて、ほぼ空白の2007年と2008年。しかしそれは、野田洋次郎(Vo/G)・桑原彰(G)・武田祐介(B)・山口智(Dr)が「唯一無二の4人」になるために必要な期間でもあった。

 「震災後」というタームだけじゃない。そういった、これまでのRADWIMPSが歩んできた道のりを全ての集大成のようなライヴが、この日の「青とメメメ」だったのだと思っている。

 前置きがめちゃめちゃ長くなった。そしてずいぶんシリアスに書いてきたけれど、実のところ、この日のライヴはとても楽しくて、愛おしくて、最後には笑顔で一杯になるような体験だった。

 時間通り、16時にスタート。降り続いた雨のせいで地面はぬかるんでいるけれど、会場は気持ちいい空気に包まれている。鼓動のようなSEに乗って4人が現れ、大歓声がそれを迎え入れる。高らかにライヴの開幕を告げるような“One man live”から、疾走感を叩きつける“ギミギミック”へ。ステージ背後、左右、さらには透過型LEDも駆使したヴィジョンには幾何学的な映像が映し出され、二万二千人が飛び跳ねる。パンキッシュな“なんちって”では桑原彰のトークで一回曲をブレイクさせ、「もう一回!」のコールを巻き起こす恒例の演出も。

 今年の春に横浜アリーナで行われたワンマンライブ「春ウララレミドソ」でも痛感したが、今の4人の演奏は本当に多彩で自由だ。“遠恋”では武田のスラップと桑原のギターが緊迫感ある掛け合いを見せ、“ヒキコモリロリン”では山口智と洋次郎がツインドラムを披露する。“シザースタンド”では洋次郎と桑原がピアノを連弾する。いろんな見せ場が、それぞれの曲に用意されている。時に火花が散るようなバトルを見せ、ときに笑顔で目を合わせる。観客への無茶ぶりのコール&レスポンスで笑いを誘った“セプテンバーさん”のアウトロでは、洋次郎自ら桑原のギターのボリュームを絞ってフェードアウトさせ、再びつまみを捻ると“シュプレヒコール”のイントロのフレーズになる、という一幕も。そんなメンバー同士のやり取りや表情を逃さずヴィジョンに映し出す映像スタッフの働きっぷりもさすが。

 前半のハイライトになったのは「自分たちの曲じゃないけど」と披露した“ラブラドール”から、二万二千人のハンドクラップが鳴り響いた“いいんですか?”。洋次郎は桑原の額にキス。彼らの音楽が持つ大きな包容力が会場を満たした。「大好きな人を一生懸命愛してください、よろしくお願いします」と言い残して、一旦メンバーがステージから去る。

 その後に披露されたのが、冒頭に書いたピアノのドキュメンタリー映像、そして “ブレス”“蛍”“ブリキ”の3曲だった。丁寧に祈りの思いを解き放つような歌声に、見回すと、目を赤くしているお客さんも多かった。

 歌い終え「お前ら、いいヤツだな」と洋次郎。「こんなにいいヤツらが集まってるのに、なんで世界はよくならねえんだ、ちくしょう!」と、“祈り”から“怒り”へとギアを入れ替える。「今生きてる俺らがこの世界の代表だから。ちくしょうと思う世の中でも、うちらもその一員だし、その責任を負ってるから。誰かのせいにするとかじゃなく、幸せな世界にしていきましょう」、と告げ、爆発するようなアンサンブルの“DADA”、そこから“G行為”“おしゃかしゃま”と緊迫感ある楽曲を叩きつけるように披露。身体をまるごと揺らすような熱を生み出す。このパートもまたハイライトの一つだった。

 日は暮れて夜空に月が浮かび、後半は“夢番地”から再び大らかに包み込むような展開へ。“トレモロ”ではレーザーが空を照らし、“俺色スカイ”ではステージ背景一杯に青空が映し出される。

 本編最後は“オーダーメイド”。手書きのアニメーションをバックに、真摯な歌声と言葉が染み渡っていく。「今日のことを一生忘れない」。そう告げて、4人はステージを降りた。同じことを感じた人はきっと多いはずだろう。

 そして、アンコールは予想外のサプライズが実現。「味」と大きく書かれた赤いTシャツを身につけ鼻メガネをかけた4人がカートにのってフィールド後方の小さなサブステージへ。驚きと喜びの歓声が辺りを包み、沢山の人が殺到する。「味噌汁’s」、7年ぶりの復活だ。キレのあるダンスで“ジェニファー山田さん”、そして新曲“にっぽんぽん”を披露。痛快でユーモラスな楽曲に、花火も上がって、大きな盛り上がりを生み出す。

 ダブルアンコールでは、もう一つの新曲“ラストバージン”も披露され、最後は全員の手拍子とコーラスが会場を包んだ“有心論”で大団円。「幸せになれよ!」と洋次郎は告げ、4人で手を繋いで高く掲げ、全てを出し切った満足感と共に彼らはステージを降りた。

 気付いたら3時間15分。本当にあっという間のステージだった。振り返ると、月が明るく夜空を照らしていた。結局、一度も雨が降ることはなかった。きっと、あの場に居合わせた人は、彼らの音楽が響かせた巨大な「愛おしさ」を、喜怒哀楽の極地を切り取ったような数々の楽曲を、幸福感を、強く記憶に刻み込んだことだろう。

「いつか君たちに大好きな人ができたら、それぐらいでっかい声で名前を呼んで、愛してると言ってあげてください」

 そう告げた洋次郎の言葉を思い返しながら、帰途についた。ポケットには、会場の入り口で配っていた小さなステッカーが入っていた。そこにはイラストと「五月の蝿」と書かれ、裏にはQRコードとアドレスが印刷されている。

 そう、この日に用意されたサプライズはそれだけではなかったのだ――。

 

シングル『五月の蝿』レビュー

 


五月の蝿 RADWIMPS MV - YouTube

 

 それは戦慄の新曲だった。

 「青とメメメ」会場で配られた小さなステッカーに描かれていた、巨大な唇から粒のように赤い血がどくどくとあふれ出る衝撃的なイラスト。それはRADWIMPSの新曲“五月の蝿”のジャケットだった。

 9月16日、深夜24時。ニューシングル『五月の蝿 / ラストバージン』の詳細が発表され、同時にバンドのオフィシャルHPで“五月の蝿”が24時間限定でストリーミング配信されることが告げられる。そこからたった一日で、ネットを介し、その衝撃的な曲の内容は多くの人に伝わった。思わず目を丸くするような狂気と猟奇の世界が、そこにはあった。

「僕は君を許さないよ 何があっても許さないよ」という歌い出しから始まる、5分少しの楽曲。そこには、ひたすら非道で暴力的な“君”と“僕”の描写が続く。

「君が襲われ 身ぐるみ剥がされ レイプされポイってされ途方に暮れたとて その横を満面の笑みで スキップでもしながら 鼻唄口ずさむんだ」

「通り魔に刺され 腑は零れ 血反吐吐く君が助け求めたとて ヘッドフォンで大好きな音楽聴きながら 溢れた腑で縄跳びをするんだ」

 ひきつったように歪むギターリフが印象的な曲調は、まるで荒れ狂う感情の渦をそのまま刻み込んだようなもの。8分の6拍子のグルーヴが、まるで聴き手の肩を掴んで揺さぶるように響く。野田洋次郎の声もメロディも澄んでいるから、余計に切迫感が伝わってくる。

 歌詞は、いつか“君”の愛する我が子が「母さんの子になんて産まれなきゃよかった」と喚き出し、そこに“僕”が颯爽と現れ彼女をそっと抱きしめ「君は何も悪くないよ」と告げる――という描写で終わる。極限の愛憎が最後まで貫かれている。

 言葉の選び方だけで言えば、“狭心症”など、これまでもエグい歌詞の言葉はあった。それでも、それは社会の無慈悲さや理不尽さを告発するような“対・世界”のもの。一対一の関係でこれだけ刺々しい歌を歌うことは、これまでなかったはずだ。

 なぜ、彼らはそこに足を踏み出したのか。それは「中庸がないアルバム」と語っていた『絶体絶命』の、さらなる「先」を目指した結果なのではないだろうか。

 ニューシングルには「青とメメメ」で披露したもう一つの新曲「ラストバージン」も両A面の形で収録される。ゆったりとしたバラードのこの曲は、「『生まれてはじめて』と『最初で最後』の『一世一代』が君でした あぁ『寝ても覚めても』『後にも先にも』 そういった類のものでした」――と、特別な“君”を目の前にした時の心の高まりと、ピュアな信頼に満たされた喜びを綴った曲だ。“ます。”や“ふたりごと”や“有心論”や、デビュー時から彼らが描いてきた世界観に繋がる、とびっきりの愛おしさが紡がれている。

 おそらく、“五月の蝿”と“ラストバージン”は表裏一体なのだろう。極限の憎しみと、混じりけのない信頼。それは愛という感情が生み出す両極で、だからこの2曲を「究極のラブソング」としてパッケージしたのだろう。アートディレクターの永戸鉄也氏やイラストレーターのKYOTAROさんが手がけたイラストが象徴的だ。赤い鮮血がしたたる“五月の蝿”に、青い竜巻のように二人が抱き合う“ラストバージン”。一見して対極に見える二つの絵は、どことなく深い感覚の奥で繋がっているように感じられる。

 ちなみに、ニューシングルのカップリングには7年ぶりに登場した味噌汁’sの新曲“にっぽんぽん”も収録。笑えるほどの小気味よさで「ソースより醤油だろ」「僕は日本人」と歌うこの曲も含めて、いろんな意味で、バンドが原点に立ち返って新しい旅路をスタートさせたんだな、と痛感した。

 彼らは今、アルバムに向けて曲を作っているという。新曲が次々と産まれているという。2014年には全国ツアーの開催も予定している。

 おそらく、これまでよりもさらに深く心をえぐり、突き刺し、揺さぶるような曲が並ぶアルバムになるだろう。その予感と期待が高まるシングルだった。