アノーニのアルバム『ホープレスネス』を聴いた。久しぶりに、身震いするような感覚を得る一枚。素晴らしい。
まずはサウンド。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとハドソン・モホークがプロデュースしている。つまりは今のエレクトロニック・ミュージックの最先鋭を支える才能がタッグを組んだわけで、そりゃすごくないわけがない。ヒリヒリするような緊迫感と不思議なカタルシスが同居するような音が鳴っている。
そして歌声。すごく深くて、どこかスピリチュアルな崇高さを持った声の響きに心を揺らされる。ジェイムス・ブレイクとか、ボン・イヴェールとか、そのあたりの人たちに近い感触。
「アノーニ」というのはアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズとして活動してきたアントニー・ヘガティの新しい名前で、その中性的な響きはトランスジェンダーであることを公言している彼女のアイデンティと密接に結びついている。そういうバックグラウンドとも関係しているような気もする。
歌われていることのテーマもかなり刺激的。
リード曲「Drone Bomb Me」は、曲名通りドローン爆撃による悲劇を、被害者の目線からありありと描くリリックが歌う。
私の上にドローン爆弾を落として
山の向こうに吹き飛ばしてほしい
山の向こうの海の中へ
私をこの山腹から吹き飛ばして
頭をこっぱみじんにして
ガラスの内臓を爆破して
血まみれの私を草の上に横たえてほしいの
私の目がきらっとしてるのが見えるでしょう
私は死にたいんだと思う
あなたの目に留まりたいの
しかしアルバム後半の「Crisis」で、同じ悲劇を今度は加害者の側から描く。
クライシス
もし私があなたの父親を
ドローン爆弾で殺したら
あなたはどう思う?
「4 Degrees」は気候変動に対しての歌。これも加害者の視点だ。
私は見たい
この世界が煮えるさまを
気温が4度上がるだけでしょう
犬が水を欲しがって吠えるのを聞きたい
魚が腹を見せて海に浮かぶのを見たい
キツネザルやああいう小さな生き物たちが
灼けて死んでいくのを見たいの
たった4度上がるだけ!
ANOHNI - 4 DEGREES (Official Preview)
で、最後の「Hopelessness」から「Marrow」では、この絶望的な状況に、結局、一人のアメリカ人である自分自身も少しずつ加担しているという嘆きを歌う。
まさに「ホープレスネス」。気が滅入るような現実を歌い上げている。だけど、音楽の美しさと、彼女の歌声の響きがそれを浄化している。
今の時代の一番新しい形のブルーズだと思う。