日々の音色とことば

usual tones and words

津野米咲さんの急逝に思う

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あまりに突然の悲しい報せ。

 

赤い公園の津野米咲さんが亡くなった。29歳だった。

 

natalie.mu

 

「どうして」という言葉が湧き上がって、胸に詰まる。とても大きな喪失感がある。

 

最初に赤い公園のライブを観たのは2011年のことだった。インタビューで最初に会ったのは2012年にメジャーデビューのミニアルバム『透明なのか黒なのか』『ランドリーで漂白を』をリリースしたときのこと。その頃は全員が白い衣装を身にまとっていた。独特な和音と、不思議なほど耳が惹きつけられるメロディのセンスを持ったバンドというのが第一印象だった。話してみたら、すごくあっけらかんとした明るくて人懐っこい人柄と、底知れない才能を感じた。

 

www.cinra.net

 

この頃からある時期まで、赤い公園は、ずっとライブの最後に「ふやける」という曲を演奏していた。自主制作盤には収録されているが、デビュー以降は音源化されていない。明らかにバンドの中でも特別な曲だった。静かに、抑えたテンポの中で歌が始まる。途中でエモーションが溢れ出すかのように轟音に転じ、濁流のようなギターノイズを掻き鳴らし、ステージを降りる。

 

その姿がとても鮮烈だった。

 

メジャーデビューした2012年10月からは津野米咲の体調不良による半年間の活動休止もあったけれど、2013年8月には1stフルアルバム『公園デビュー』をリリースする。

 

津野米咲が「赤い公園のリーダー」としてだけでなく作曲家としてメキメキと頭角を現していったのもこの頃で、その大きなきっかけになったのは、やはりSMAP「Joy!!」だったと思う。

 

無駄なことを 一緒にしようよ
忘れかけてた 魔法とは
つまり Joy!! Joy!!
あの頃の僕らを 思い出せ出せ
勿体ぶんな
今すぐJoy!! Joy!!
どうにかなるさ 人生は
明るい歌でも歌っていくのさ

 

「無駄なことを一緒にしようよ」というフレーズは、それをSMAPというアイドルグループが歌うという意味合いも含めて、本当に「大衆の心の負荷を取り除く」エンターテイメントの真髄のような一節だったと思う。

 

そして、その曲が活動休止中に作られていたことも以下のインタビューで語られている。インタビュアーは三宅正一さん。

 

natalie.mu

 

2014年には赤い公園は2ndアルバム『猛烈リトミック』をリリースする。このアルバムの1曲目に収録された「NOW ON AIR」を最初に聴いたときの高揚感は今でも覚えている。

 

www.youtube.com

 

music.fanplus.co.jp

 

アルバム『純情ランドセル』収録の「KOIKI」も、とても好きな曲の一つ。

 

www.youtube.com

 

バンドはいろんな紆余曲折を経てきた。

 

2017年8月にはヴォーカリストの佐藤千明が、Zepp DiverCityTOKYOにて行われたライブ「熱唱祭り」にて脱退。そして翌2018年5月、『VIVA LA ROCK 2018』のステージから新ヴォーカルとして元・アイドルネッサンスの石野理子が加入。2019年にはエピックレコードに移籍。

 

苦境も乗り越え、バンドは歩みを続けてきた。昨年11月には『消えない -EP』をリリース。辿ってきた道筋を感じさせる曲だ。

 

www.youtube.com

 

こんな所で消えない 消さない

 

今年4月には「2度目のファーストアルバム」となるフルアルバム『THE PARK』をリリースしたばかり。そして11月25日には『オレンジ/pray』がリリースされる予定だった。

まだまだ、途上だった。赤い公園というバンドの歩む道は、こんな所で消えるようなものではなかった。津野米咲という人は類まれなる音楽家としての才能の持ち主で、これからも沢山の名曲を生み出していくはずだった。

 

心から冥福をお祈りします。安らぎとともにあることを。

 

 

そして、もうひとつ、大事なことを。

 

しんどい時代が続く。暗がりや荒波の渦中にある人、綱渡りの向こう側が見えないような苦しい思いを抱えている人も、きっといると思う。でも、できるだけ、心をゆるめて、身体を休めて、頼れる誰かに頼ってほしい。どうか一人で抱え込まないでほしいと願う。

 

ミュージシャンへのメンタルヘルスへのケアは、今後、より大事な問題になっていくはずだ。アメリカやヨーロッパでは専門家によるカウンセリングやセラピーの窓口も設けられている。

 

heapsmag.com

 

日本でも、こうした海外の動きに学ぶべきと強く思う。音楽やエンターテイメント業界が動くべき時にきている。『なぜアーティストは壊れやすいのか?音楽業界から学ぶカウンセリング入門』の著者でもある手島将彦さんが提言している。僕も同意する。

 

 

 

rollingstonejapan.com

 

 いとうせいこうさんと星野概念さんの『ラブという薬』も参考になると思う。

 

ラブという薬

ラブという薬

 

 

喪失を埋めることはできない。でも、悲しみを繰り返さないために、社会のほうが、環境のほうが、変わるべき時に来ているのだとも考えている。