日々の音色とことば

usual tones and words

「文学の触覚」展@東京都写真美術館

「文学の触覚」展にいってきました。

文学の触覚

「文学の触覚」展
http://www.syabi.com/details/bungaku.html

場所は恵比寿ガーデンプレイス内の東京都写真美術館。展示自体は11月から行われていたもの。ずっと気になっていたところ、人から話を訊いて、「これは行かねば」と強く思っていたのだった。

お目当ては舞城王太郎+dividualによる、《タイプトレース道〜舞城王太郎之巻》。彼の新作小説『舞城小説粉吹雪』が「書かれていく様子」をリアルタイムで体験するというインスタレーションだ。TypeTraceというソフトによって、舞城王太郎が自宅で執筆しているタイピングの様子が、逡巡や書き直しも含めて克明に記録される。それを再生することによって、彼が小説をどのように書いているのかを追体験することができるわけだ。

展示室にはソファーが置かれ、机には一台のマッキントッシュ。その前方にはソフトと連動して自動でキーが打ち込まれていくキーボード。そして大画面のスクリーン。再生する日時を選ぶと、キーボードがカタカタと音を立ててスクリーンに文字が映し出されていく。文字は、書くのにかかった時間に比例してフォントが大きくなる仕組みになっている。

舞城王太郎はとてもスピード感のある文章を書く作家で、僕がいま一番個人的に好きな小説家でもある。だから、それがどういう風に「打たれているか」は、すごく興味があった。特に、

僕は雲が好きだ。ゆっくりと形を変えて流れていく春の昼の軽やかな雲や、もりもりと膨れ上がって空からどしんと落っこちてきそうな夏の入道雲や、綺麗に並んで乱れず慌てず高いところに大きく広がって慎重に進んでゆく秋のうろこ雲や、青いキャンパスにふいいっ、すいいっ、と筆で薄く撫でたような冬の白く薄く儚げな平たい雲が好きだ。どんな雲も、いつまでも眺めていても飽きない。

という書き出しの部分。意外とすんなり書き始めたかと思うと、戻っては消し、形容詞を追加したり書き直したりしていくのを見るのは、とても面白い体験だった。ただ、全部見ると70時間以上かかるんだよなあ。さすがにそれは無理。

他の展示も、なかなか面白かった。白いボールを手に持って振ると加速度センサーに反応して言葉の羅列が画面をぐるぐると動き回る平野啓一郎と中西康人の作品「記憶の告白 -reflexive reading」。穂村弘の詩「火よ、さわれるの」が、かざした手の平の中に浮かび上がる「情報を降らせるインターフェース」もよかった。

印刷された紙媒体を読むだけじゃなく、様々な方法で文学を体感する試み。最先端のインターフェースが言葉そのものの刺激を再構築しているようで、とても興味深かった。

展示は2月17日(日)まで。