日々の音色とことば

usual tones and words

今年もありがとうございました。/2023年の総括

例年通り、紅白歌合戦を観ながら書いています。 2023年はどんな年だったか。ここのところ恒例になっている宇野維正さんとのトークイベント「ポップカルチャー事件簿『2023年徹底総括&2024年大展望』編」でも語りましたが、やっぱりエンタテインメントの領域…

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』重版記念/「ボーカロイド文化のその後の10年」

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』が増刷しました。 2014年4月の刊行から9年目。これで3刷目となります。こういうたぐいの本が発売から時間が経ってから重版となるのは本当に嬉しい限り。僕にとっては初の単著でもあり、思い入れの大きな本でもあります。…

映画『バービー』に潜む“死”と“不安”

『バービー』を観た。 驚いたのは、予想してた以上に“死”にまつわる映画だったということ。 全然気付かなかった。なにしろキャッチコピーは「バービーの世界、初の実写化!」。キービジュアルもピンク色のカラフルな仕上がりだし、予告編もまるでおとぎ話の…

『君たちはどう生きるか』に描かれた“誕生”と“継承”

『君たちはどう生きるか』観てきました。 すごかったです。とにかくすごかった。ポスタービジュアル以外何も公開されない特殊な宣伝手法もあって、ストーリーも登場人物も全く前情報がない状態で観た宮崎駿監督の最新作。年齢を考えるとこれが最後の作品にな…

小さくて弱いもの、疎外されたもの、傷ついたものの側に立つスピッツの歌について

スピッツの『ひみつスタジオ』がすごくいい。 これまでのスピッツのアルバムの中で一番好きかもしれない。何度か聴き返して、どういうところが好きなのか改めてわかってきた。 ストリーミングチャートでヒットして新たな代表曲になりつつある「美しい鰭」と…

NewJeansとアジアと「チョベリグ」な日本

僕が『平成のヒット曲』という本を出したのは約2年前の2021年のこと。そこの後書きにはこう書いた。 改めて振り返った今、ひょっとしたら我々が過ごしてきたのは、ある種の「幸福な時代」だったのではないだろうかという思いがある。 もちろん、そう考えない…

バック・トゥ・ブログ 2023

久しぶりにブログを再び動かしてみようと思う。 ありがたいことに、去年から朝のラジオ番組に定期的に出演させてもらうようになった。テレビからもたびたびお声がけいただくようになった。本も何冊か出版することができた。 「音楽ジャーナリスト」という肩…

ELLEGARDENが教えてくれた「歳を重ねても色褪せない」ということ

※2023年2月28日に「ARTICLE」というサイト(現在は閉鎖)に掲載された文章の再録です 「誰だって自分に火がつく歌があるはずだ」 ​ ELLEGARDENの細美武士は約16年ぶりの新作アルバム『The End of Yesterday』の収録曲「Firestarter Song」でこう歌っている。…

TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』と結束バンドが鳴らす「下北沢のあの時代」

※2023年1月27日に「ARTICLE」というサイト(現在は閉鎖)に掲載された文章の再録です 邦ロックの系譜を受け継ぐ、完璧なアルバム まさかの傑作アルバムが届いてしまった。 ジャケットの絵柄からいわゆる"アニソン"かと思いきや、アニメの関連作品でありつつ…

今年もありがとうございました。/2022年の総括

例年通り、紅白歌合戦を観ながら書いています。 3年ぶりのNHKホールで有観客での紅白。華やかなステージセットにさまざまな歌手やグループがかわるがわる歌い踊り、沢山の人が行き交い、ひたすら賑やかなエンタメが繰り広げられる画面の様子からは、ちょっと…

ハッピー・ハードコア漫才としてのヨネダ2000「餅つき」

今年も『M-1グランプリ』面白かった! なんだかんだで忙しくて直後に感想書けなくてもうすっかり時間が経ってしまったんだけど、それでもブログに書いておこう。ヨネダ2000の「餅つき」のネタがBPM160であることの“意味”について。 www.youtube.com 抜群に面…

サッカー日本代表の劇的瞬間とリンクしたKing Gnu『Stardom』

※2022年12月9日に「ARTICLE」というサイト(現在は閉鎖)に掲載された文章の再録です 『飛行艇』から3年、歩み続ける"より大きな存在"への道のり たぶん、10年後や20年後もずっと語り継がれることになるだろう。正直、まったく予想してなかった。でもすごい…

浄化の力を持つ“白魔法”としての藤井風『grace』

※2022年11月7日に「ARTICLE」というサイト(現在は閉鎖)に掲載された文章の再録です 多くの人を惹きつける藤井風の“魂の清らかさ” 藤井風のことを好きな人はもうみんな気付いていると思うけれど、彼が沢山の人を惹きつけている理由の大きなポイントには、そ…

春ねむりさんのことについて (追記あり)

(※追記しました) まあ、これは書かねばならないよな。なんせ当事者なので。 沈黙していたほうが波風立たないのはわかっているけれど、自分のスタンスを表明しておかないのはよくないなと思うのでね。そして僕にとってブログというのはそういうことを文字に…

6G呪術飛蝗

情報技術の発達によって、誰しもがカジュアルに祟りをなすことが可能になった。 僕がそのことに気付いたのはおよそ10年ほど前のことだけれど、今では、そのことはもはや常識のようになっているのではないかと思う。クラウドに顕在化した呪いの力について、ソ…

ままならなさのなかで/FUJI ROCK FESTIVAL '22の配信を見ながら思う

土曜日。フジロック・フェスティバルの配信を見ながら、これを書いている。 直前まで行く準備をしていたのだけれど、先週に家族が体調を崩して熱を出してしまったので、とりあえず、見合わせることにした。幸いにして、PCR検査は陰性。すっかり回復したよう…

cakesサービス終了と、この先の不安

cakesがサービスを終了する。 cakes.mu 正直、かなり寂しい思いはありますよ。もちろんメディアの世界は諸行無常であって、全ての場所やサービスが永続的に続くわけじゃないことはわかっている。紙と違ってウェブメディアのアーカイブ性が低いということも、…

リアリティショー化された戦争/オンライン演説のナラティブについて

3月23日。ウクライナのゼレンスキー大統領の日本の国会での初めてのオンライン演説を聞いた。移動中だったので電車の中でYouTubeのライブ配信を見た。 youtu.be 正直な感想として「これはすごい」と心底思った。今、アメリカやヨーロッパやいろんな国で起き…

この後戻りのできない変化の中で

なんだか、とても気落ちしている。 ニュースに心をかき乱されて、鬱々とした日々を過ごして、思うところを上手く言葉にできない居心地の悪さを抱えたまま時間が過ぎていく。 大きな戦争が起こってしまった。2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻。砲弾が…

今年もありがとうございました。/2021年の総括

例年通り、紅白歌合戦を観ながら書いています。 社会全体が大きな転機を迎えた2020年に続いて、2021年も、ずいぶんと不透明な1年だったように思います。なんにせよ無事に年末を迎えられてよかった。 2021年はどんな年だったか。KAI-YOUに寄稿したコラムにも…

2021年の10曲(国内編)

すっかり年末になっちゃいました。すっかり慌ただしい年の瀬。個人的には「年間ベスト」みたいなことはあまりやりたくない性分なのですが、自分の記憶を記録に定着させるという意味でも、今年聴いてハッとした曲を書きとめておこうと思います。 STUTS & 松た…

『平成のヒット曲』の「はじめに」

新刊『平成のヒット曲』が、11月17日に発売されました。その「はじめに」と「目次」を、横書きで読みやすいよう少し修正を加えて公開します。 平成とは、どんな時代だったのか――。 本書は、それを30のヒット曲から探る一冊だ。 1989年の美空ひばり「川の流れ…

ターミナル/ストリーム

ミームは呪術、アルゴリズムは魔術。 そのことに気付いている人は多いと思う。オカルティックな言葉を聞くと眉に唾をつけたくなるタイプの人でも、よくわからないこと、説明のつかないことが起きているという実感のようなものを持っている人はかなりいるんじ…

「誇り」について

Spotifyの「#SpotifyPride」プレイリストを聴きながら、これを書いてる。 Spotifyが、LGBTQQIA+の権利や文化について世界中でさまざまな啓蒙活動が行われる6月の#SpotifyPrideを祝したオリジナルプレイリストを公開した。 Spotifyではグローバルにおいて「Cl…

無力感の中で

久しぶりの更新。 迷ったけれど、やっぱり書いておこう。今考えていることを忘れないために。 ■取り残された国 およそ1年前、僕はこう書いた。 地球上で様々な国、文化、統治機構の「A/Bテスト」が行われてしまっている shiba710.hateblo.jp パンデミックと…

2021年1月に聴いてよかったアルバム&EP

2021年に入って、もう1ヶ月。はやいですね。いろんなことが飛ぶように過ぎ去っていってしまうので、これはよかったなーと思うアルバムやEPを記録していこうと思います。 ■Arlo Parks『Collapsed in Sunbeams』 サウス・ロンドン出身のシンガーソングライター…

今年もありがとうございました。/2020年の総括

例年通り、紅白歌合戦を観ながら書いています。 「特別な一年だった」「困難な一年だった」「大変な一年だった」と、皆が振り返る2020年。とりあえず、こうして無事に年の瀬を迎えられたことに感謝しています。 2020年はどんな年だったか。それはKAI-YOUに寄…

津野米咲さんの急逝に思う

あまりに突然の悲しい報せ。 赤い公園の津野米咲さんが亡くなった。29歳だった。 natalie.mu 「どうして」という言葉が湧き上がって、胸に詰まる。とても大きな喪失感がある。 最初に赤い公園のライブを観たのは2011年のことだった。インタビューで最初に会…

コロナ禍によって音楽産業はどう変わったか 執筆・取材リンクまとめ

ここ半年、「コロナ禍によって音楽産業はどう変わったか」というテーマで沢山の取材をしてきました。 そのリンクを随時こちらにまとめておきます。 gendai.ismedia.jp 野村達矢氏(一般社団法人 日本音楽制作者連盟理事長・株式会社ヒップランドミュージック…

「心のベストテン」で喋った、2020年が転機の年になるということについて

■「土の時代」から「風の時代」へ 今日はちょっと突飛な話をしようと思う。 去年くらいから西洋占星術をかじっていたんだけど、いろんな人が、2020年は大きな転機の年になると言っていた。 木星と土星が重なる約20年に一度の「グレート・コンジャンクション…