日々の音色とことば

usual tones and words

バック・トゥ・ブログ 2023

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久しぶりにブログを再び動かしてみようと思う。

 

ありがたいことに、去年から朝のラジオ番組に定期的に出演させてもらうようになった。テレビからもたびたびお声がけいただくようになった。本も何冊か出版することができた。

 

「音楽ジャーナリスト」という肩書きで仕事をするようになって、10年が経った。取材をして、それを文字に起こして、原稿を書いて。なんだかんだで毎日忙しくて、あっという間に日々は流れていく。

 

「自分がどこから来たのか」ということを、ふと考えた。やっぱり僕はブログから来たんだよなと思った。この名前でブログを始めたのは2008年の初頭のこと。最初に決めたのは、誰かを貶めないということと、できるだけ悲観的にならないということ。

 

とにかく、僕は、仕事としての文章とか、対価をいただく原稿とか、そういうところじゃないものを書くというところからやってきたんだよな、と思う。ひとりごとのような、それでも誰かが読んでくれることをちょっと期待しているような。そういうトーンでものを書く。そこから今の自分がつながっている。

 

再び動かすのをnoteにするか、ここにするか、どうしよう? それも考えた。両方運用してるから同じ内容を転載することも考えてみたんだけど、どうもそれはノリが悪い。面倒くさいというのもある。

 

noteは課金してマネタイズする機能が設定されているので、そういう方向性の文章を書く場所としてはいいんだろうなという気持ちもある。だけど、僕が今、ブログに書きたいのは、そういう文章じゃない。誰かにお金を払ってもらうような、何かの対価を求めるような文章じゃない。

 

あんまり拡散したくないという気持ちもある。アテンション・エコノミーの丁々発止にはできるだけ参加したくない。バズることを狙いたいわけじゃない。かといって課金制度で囲い込んだ人だけに読ませることを書きたいわけじゃない。

 

岡田育さんの「さようなら、Twitter」という文章を読んだことにも、ちょっと影響されている。

 

okadaic.net

 

Twitterは変わってしまった。そういう声も聞く。そうなのだろうと僕も思う。

 

ただ、昔はよかったとか、それに比べて今はひどいみたいなことを言うような気持ちはない。あるのは現在だけ。そう思う。

 

ともかく、僕が思っているのはブログを書こうということ。日記を書くみたいに、淡々と、続けていこうと思う。

 

これまでもスタイルや方向性や文体はいろいろ変わってきたから、一貫していなくてもいいと思う。その時に考えていることを、オチもまとまりもつけずに、ただ綴っていくということをしようと思う。

 

犬と猫2匹と暮らし始めて、6年になる。散歩は毎日僕が担当している。iPhoneのカメラロールは犬と猫の写真ばかり。

 

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日常のこととか、ニュースや世の中の動きについてのこととか、そういうことを書いていくのもいいかもしれないな。

 

ELLEGARDENが教えてくれた「歳を重ねても色褪せない」ということ

※2023年2月28日に「ARTICLE」というサイト(現在は閉鎖)に掲載された文章の再録です

The End of Yesterday

「誰だって自分に火がつく歌があるはずだ」

ELLEGARDENの細美武士は約16年ぶりの新作アルバム『The End of Yesterday』の収録曲「Firestarter Song」でこう歌っている。「Everbody’s gotta have their own firestarter song」。そうだよなあ、と思う。

 


僕にもそういう曲はある。

音楽が自分を奮い立たせてくれた経験は沢山ある。たとえばヘッドホンで聴きながら街を歩いたり、爆音でかけながら車を走らせたりしているうちに、自然と身体が熱くなるような感じになったりする。自分で気が付かないうちにギュッと拳を握りしめていたりする。ライブハウスで汗まみれになったり、野外フェスでずぶ濡れになったりしたときの特別な記憶が、自分を支えてくれているようなところがある。

そういう、自分に火をつけてくれる歌のうちのひとつがELLEGARDENの曲だった。

だから活動再開はとても嬉しかった。2008年の活動休止から約10年ぶりの2018年にONE OK ROCKとの対バンのスタイルで行われた復活ツアー「THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018」は、ZOZOマリンスタジアムでライブを見届けた。

 

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■正直でいること、自由であること、理想を貫くこと

世代という意味でいえば、ELLEGARDENは決して僕にとって“青春のバンド”というわけではない。

彼らが活動を始め、人気を拡大していったときには、自分はすでに音楽雑誌の編集者やライターとして仕事をしていて、そろそろ30代に差し掛かろうとしていた。

でも、“世代”とか、そういうことじゃないんだよな。

ELLEGARDENというバンドはいつも、正直でいること、自由であること、理想を貫くこと、あらゆる抑圧に立ち向かい、その力を跳ね除けることを歌っていた。

その抑圧の中には、世間のなかで常識のように扱われていること、“わかったふりをした大人たち”が“上手い世渡りのやり方”みたいにして手渡してくるものも含まれていた。

たとえば「金星」は、狡猾さによって得たものなんてあっという間に失ってしまうということを歌っている曲だ。たとえば「Middle Of Nowhere」は、誰にも理解されず、信じてもらえず、落ち込んで、すべてを拒絶している“君”に向けての言葉が歌われている。

 

open.spotify.com


沢山の人たちが彼らの歌に込められたものを受け取って、それぞれの人生の中で大事にしてきた。憧れの対象にしてきた若い世代のミュージシャンも沢山いた。だからこそELLEGARDENというバンドは活動休止から10年が経っても、忘れられるどころか、より大きな存在となってシーンに戻ってきたわけだ。

■懐古的なものではなく、今の時代のサウンドに仕上がっていた新作アルバム

2022年12月、ELLEGARDENは約16年ぶりの新作アルバム『The End of Yesterday』をリリースした。正真正銘の復活作。最初はそのインパクトの方が大きかったけれど、しばらく経って何度も聴きかえすようになって、アルバムの真価がフラットに伝わってくるようになった。

アルバムの大きなポイントは、待っていたファンを喜ばせるだけの懐古的なものには決してなっていないこと。むしろ新たな挑戦に満ちたものになっている。

サウンドメイキングにもそれが表れている。ヒップホップやR&Bがポップスの主流になった今のUSのモダンなミュージックシーンの潮流を踏まえた音になっている。もちろん彼ららしい情熱的なメロディのパンクロックが軸になっているんだけど、決して以前の焼き直しにはなっていない。

たとえば独特の浮遊感が漂う「Perfect Summer」やダンサブルな「Firestarter Song」のような曲は、活動休止前の彼らだったら作っていないだろう。

新作はLAで数ヶ月にわたって滞在して楽曲制作し、レコーディングも現地のプロデューサーやエンジニアと共に行ったという。そのことが大きく影響しているのは間違いない。おそらくONE OK ROCKのTakaとの交流も刺激になったはずだ。

雑誌『MUSICA』に掲載されたメンバーインタビューによると、細美武士が単身渡米して数ヶ月でアルバムのために制作したデモトラックは120曲。その全てがドラム、ベース、ギター、コーラスまで入った完成形に近いもので、ケータイのボイスメモに録音された断片レベルのものは1000個はあったという。そこから厳選された11曲がアルバムに収録されている。他にもクオリティの高い曲は沢山あったそうだ。言葉にすると簡単だけど、相当な量だ。そういう執念を感じるような制作作業がアルバムのクオリティの背景になっている。

■全てを賭けた一世一代の勝負に挑む気概

なぜ、そこまで自身のエネルギーを費やすような制作になったのか。

その答えのような、決意表明のようなことが歌われているのがアルバムの1曲目の「Moutain Top」という曲。

 

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全てを賭けた一世一代の勝負に挑む気概が、高らかに歌われている。歳を重ねても守りに入らず過去に頼らない姿勢が、サウンドにも言葉にも表れていて、そこにグッとくる。

そして、こういう曲は今のELLEGARDENだからこそ歌えるものだと思う。

先の見えない可能性に翻弄される10代や20代の頃に比べて、40代や50代の頃になると、良くも悪くも、人生の見通しがある程度立ってきたような気がするような人は多いのではないかと思う。成し遂げてきたことが積み重なって、後ろを振り返れば自分の足跡があって、それが先に進む道につながっている。「安定」というのはそういうことだと思う。

けれど、それを全てかなぐり捨てるような覚悟があってこそ、得られるものがある。

「チーズケーキ・ファクトリー」も、歳を重ねたからこそ生まれる思いを綴った曲だ。

過去の大切な思い出は、今もキラキラと光っている。それは決して色褪せないし、今だって、その気になりさえすれば、その輝きを探す冒険にもう一度出かけることができる。

■ELLEGARDENが教えてくれたもの

僕が40代後半になって気付いたことがある。これまで沢山の小説やマンガ、映画やドラマが「青春が色褪せる」ことを描いてきた。沢山の歌がそういうことを歌ってきた。無鉄砲さや、夢に向かう真っ直ぐさやみずみずしい喜び、そういうものが歳を重ねるごとに失われていくということをテーマにしてきた。

だから10代の頃は「大人になるって、そういうことなんだ」と思い込んでいた。夢と引き換えに、安定と責任を得る。そういうことだと思っていた。

もちろん、それが間違っていたわけじゃない。それは多くの人にとって頑然とした事実であるとも思う。

でも、それって結局、“わかったふりをした大人たち”が伝える“上手い世渡りのやり方”でもあるんだよな。

僕にとって、ELLEGARDENの曲はそういうことを教えてくれるものでもある。

 

TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』と結束バンドが鳴らす「下北沢のあの時代」

※2023年1月27日に「ARTICLE」というサイト(現在は閉鎖)に掲載された文章の再録です

邦ロックの系譜を受け継ぐ、完璧なアルバム

結束バンド(期間生産限定盤)

 

まさかの傑作アルバムが届いてしまった。

 

ジャケットの絵柄からいわゆる"アニソン"かと思いきや、アニメの関連作品でありつつ、いわゆる00年代以降の“邦ロック”カルチャーの魅力をぎゅっと凝縮したような1枚になっている。

 

全14曲に相当な愛情と気合の入り方を感じる。

 

それが結束バンドのアルバム『結束バンド』だ。

 

結束バンドというのは、TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇中に登場するバンド。

高いギターの腕前を持ち動画投稿サイトで人気を集めながらも引っ込み思案で極度の人見知りな高校1年生、“ぼっち”こと後藤ひとりが、伊地知虹夏、山田リョウ、喜多郁代と出会ってバンドを結成、音楽活動を通じて成長していくストーリーだ。

 

キャッチコピーは「陰キャならロックをやれ!」。

 

コミカルな日常風景とライブハウスを舞台に繰り広げられるリアルな音楽描写が人気の理由になっている。

 

■下北沢ライブハウスシーンへの愛情とリスペクト


僕がこの『ぼっち・ざ・ろっく!』を知ったのは、アニメよりも楽曲が先だった。放送が始まってしばらく経った頃、Spotifyのバイラルチャート上位にランクインした「青春コンプレックス」を聴いて、結束バンドという存在を知った。

 

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曲を聴いて感服した。

 

2本のギターが絡み合って疾走するバンドアンサンブルにも、内向的な心象風景と思春期的な衝動が混ざりあった歌詞にも、00年代の下北沢のギターロックシーンの格好よさのエッセンスが息づいている。巧みに韻を踏み促音で跳ねるリリックに「アジカン以降」のセンスを感じる。

 

で、そこから『ぼっち・ざ・ろっく!』を観て納得した。

 

このアニメは下北沢が舞台になっている。

 

主人公たち4人が拠点にしているライブハウス「STARRY」は、実在するライブハウスがモデル。外観だけでなく、地下に降りていく階段も、バーカウンターやステージもかなりリアルに再現されている。

 

そして、アニメのいろんなところにASIAN KUNG-FU GENERATIONを元ネタにしたモチーフがある。

 

後藤、喜多、山田、伊地知という4人の名前は、そのまま後藤正文(Vo,G)喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)というアジカンのメンバー4人の名前からとったもの。各話のサブタイトルもアジカンの曲をもじったものになっている。

 

おそらく『まんがタイムきららMAX』で連載している原作者のはまじあきさんがアジカンやいろんなバンドのファンで、アニメのスタッフもその愛情やリスペクトを100%汲んだ形で音楽制作にあたっているんだろうと思う。

 

■下北沢発ギターロックバンドの完璧なフルアルバム


楽曲に携わっている作家陣の面々からもそのことが伝わる。

 

ほぼ全ての楽曲で編曲を手掛ける三井律郎はLOST IN TIMEのギタリストで、00年代から現在に至るまでずっと下北沢を拠点に活動してきているバンドマンである。

 

そして1話〜3話で使用されたエンディングテーマ「Distortion!!」の作詞作曲を手掛けたKANA-BOONの谷口鮪はアジカンに憧れてバンドを始めたというルーツの持ち主だ。

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4話〜7話のエンディングテーマ「カラカラ」の作詞作曲を担当したのはtricotやジェニーハイのメンバーとして活動中の中嶋イッキュウ。変拍子やテクニカルな曲展開を盛り込んだエモ〜ポスト・ハードコアの曲調が特徴だ。

 

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8話〜11話のエンディングテーマ「なにが悪い」の作詞作曲は昨年活動休止したthe peggiesの北澤ゆうほ。高校時代からガールズバンドとして都内ライブハウスで本格的に活動し、結束バンドと同じような10代を過ごしてきたミュージシャンだ。

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主題歌だけでなく劇中曲もかなり力の入った作りになっている。

 

たとえば第5話でのライブハウスのオーディションのシーンで披露した「ギターと孤独と蒼い惑星」や、第8話で演奏した「あのバンド」、12話の文化祭シーンで演奏した「忘れてやらない」「星座になれたら」は、とても結成したての高校生バンドとは思えない技巧的なアレンジと卓越したバンドアンサンブルを聴かせる楽曲だ。 

 

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劇中では後藤ひとりが結束バンドのオリジナル曲の歌詞を書いているということになっているのだが、「青春コンプレックス」や「あのバンド」の作詞を担当している樋口愛の切実な言葉選びも楽曲の魅力になっている。

 

他にも草野華余子や音羽-otoha-など多くのアーティストが作曲家として携わり、バラエティ豊かでありつつ一つのバンドの音楽性や志向性としては軸の通った楽曲が揃っている。

 

さらに驚いたのは、アルバム『結束バンド』の全14曲には主題歌や劇中曲のみならず、劇中で使用されていない楽曲も収録されているということ。

 

単なるサウンドトラックやイメージアルバムというよりも、曲順や構成も含めて「下北沢発ギターロックバンドの完璧なフルアルバム」とも言うべき仕上がりになっている。

 

特筆すべきは「フラッシュバッカー」という曲。スローテンポで壮大なシューゲイザーテイストのこの曲が終盤に入っていることで、アルバムとしての完成度が増している。

 

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そして、アルバム『結束バンド』のラストには最終話のエンディングに使用されたASIAN KUNG-FU GENERATIONの「転がる岩、君に朝が降る」のカバーが収録されている。

 

「フラッシュバッカー」から、ある種ボーナストラック的な位置に置かれたこの曲に続くことで、聴き終えたときの独特な余韻が生まれる。

 

■アジカンが塗り替えた00年代以降のロックシーン

 

『ぼっち・ざ・ろっく!』を観て改めて感じるのは、00年代以降の日本のロックシーンにおけるASIAN KUNG-FU GENERATIONの存在の大きさだ。

 

そもそもアジカンとアニメの結びつきはとても強い。彼らのブレイクのきっかけになった代表曲「リライト」は『鋼の錬金術師』のオープニングテーマで、「遥か彼方」は『NARUTO』のオープニングテーマだ。

 

そして、ロックというジャンルのイメージ自体も、彼らの登場以降、徐々に変わっていった。

 

それ以前のロックにはある種の不良性と結びついているような側面もあった。革ジャンのイメージも強かった。ドレスアップした衣装を身にまといカリスマ的な存在感を持つロックバンドが目立っていた。

 

僕はもともと『ROCKIN’ON JAPAN』という雑誌で編集者をやっていてゴッチとは同じ1976年生まれなのでリアルにそのあたりの空気感を知っている。

 

90年代はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYやTHE YELLOW MONKEYがシーンの主役だった。AIR JAM以降のメロコアやパンクシーンの盛り上がりも大きかった。メインストリームはV系のバンドたちが席巻していた。

 

そんな風景を塗り替えたバンドのひとつがASIAN KUNG-FU GENERATIONだった。もちろん彼らだけじゃない。くるりも、NUMBER GIRLもいた。BUMP OF CHICKENのインパクトも大きかった。syrup16gやART-SCHOOLやストレイテナーや、いろんなバンドたちが「下北沢のあの時代」を鳴らしていた。

 

『ぼっち・ざ・ろっく!』と結束バンドは、そういうカルチャーの系譜をきちんと受け継いでいるところが、一番の魅力の由来になっているように思う。