日々の音色とことば

usual tones and words

ロンドン〜グラストンベリー


ヒースローの混雑をくぐり抜けてロンドンのホテルに着いたのは夜の10時頃。友人と会い遅い晩飯を食べたあと、一泊してグラストンベリーに向かう。

パディントンからキャッスルキャリーまで鉄道で1時間40分ほど。駅のまわりには店一つなく、草原が広がっている。田舎町だ。そこからタクシーにのり30分ほどで、グラストンベリーの小さな街に着く。

フェスティヴァルが開催されるのは来週末。6月にグラストンベリーに行くということは、僕が今まで持っていた常識では、フェスに行くということとほぼ同義である。だから自分の向かっている先のことが、いまいちよくわかっていない。そこにフェスティヴァルはない。マドンナもブルース・スプリングスティーンもいない。泥まみれの数万人も、見渡す限りのテントもない。

フェスティヴァルが開催されるのは、実際にはグラストンベリーの街から数マイル離れた牧場だ。フェスティヴァルに行きたい欲求はすごく大きかった。しかしチケットは昨年の早い段階からソールドアウトになっていた。何より一人で大荷物を抱えてテントに泊まるのは酷すぎる。ツアーに参加したり周囲の行きそうな人に声をかけることも考えた。でも結局は、フェスティヴァルには足を運ばないことを選んだ。

「グラストンベリーに行く、でもそこにあるのはフェスティヴァルじゃない」ということを、うまく咀嚼できない。だから周りの人にもグラストンベリーに行くことは伏せていた。説明するのが厄介だ。

僕の感覚では、自分の意志と足でここに来たというよりも“連れてこられた”という方が近い感じがする。

街に入ると、薄汚れた掲示板が目に入る。もともとは街の案内図のようなものだったのかもしれない。けれど、そこにあった絵や模様のようなものはとうに雨に流れてしまって、真ん中に言葉だけが残っている。

「INSIDE OUT」

そこにはそう書いてある。なるほどな、と思う。

内側にあるものが、外に出てくる。