日々の音色とことば

usual tones and words

POLYSICSとソーシャル・キャピタルと“繋がりの社会性”


15th P(初回生産限定盤)(DVD付)15th P(初回生産限定盤)(DVD付)
(2012/02/29)
POLYSICS

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POLYSICSのニューアルバム『15th P』に収録されている“友達ケチャ featuring 友達”が面白い。

最初に聴いた時は「なんてバカバカしい!」と吹いたけれど、実はこれ、ネタにして終わるには勿体ない興味深さを持っているのではないだろうか。つまり、この曲は彼らが持っている“ソーシャル・キャピタル=社会関係資本”への考え方をすごくパンキッシュな発想のもと音源化したものだと思うのだ。

「友達ケチャ featuring 友達」は、2011年に行われたフェスのバックヤードで、ハヤシがハンドレコーダーを片手に知人友人に「チャッ」と言ってもらった音源を元に作った楽曲だという。

http://natalie.mu/music/news/62955

奥田民生など総勢67名が参加したというこの曲(詳しい参加メンツは上の記事を参照)。聴いてみると、ひたすら「チャッ!」という声が重ねられているだけ。そこに似非オリエンタルな歌声を入れてバリの民族音楽のケチャ風にまとめた1分35秒。POLYSICSの本来の音楽性からは勿論かけ離れている曲だし、そもそも『15th P』はバンドの結成15周年を記念したコラボ曲を集めたアルバムだし、たぶんこの曲もその一貫の「話題作りのネタ」として受け取られる類の楽曲なのだとは思う。

でも、僕はこういう“企画性”にこそ、バンドの本質が表れるものだと思っている。

まず面白いのは、結局曲を聴いても「誰が参加してるか」なんてビタイチわからないこと。普通、「総勢○○名が参加した楽曲」というのは、その多くが“ウィー・アー・ザ・ワールド”的な発想を持ったものになる。東日本大震災へのチャリティソングとして発表されたJAPAN UNITED with MUSICによるビートルズのカヴァー曲“All You Need Is Love”が、まさにそうだ。個性的な声を持ったシンガーたちが、曲の一節を代わる代わる歌う。そこに、こってりしたギターなど各種ソロが挟まれる。つまり、それぞれの参加アーティストが「3秒で自己主張」して、それをパッチワークのように組み合わせる曲作りとなる。で、それとは真逆の方法から作られているのが、この曲。そもそも「チャッ!」と言ってるだけだから自己主張のしようもないのだけど、もはや誰の声かも判然としない。名のあるミュージシャンが沢山参加しているわけだから、ボブ・ゲルドフ的な発想で考えたら「ソーシャル・キャピタルの無駄遣い」である。でも、このほうが全然「POLYSICSらしい」。


それはつまり、この曲が象徴するのがPOLYSICSならではの“繋がり”の設計だということだと、僕は思っている。このフィーチャリングについて、「彼らの交友関係の広さこそがこの曲を実現させたのだ」てな感じで語るレビューも多い。勿論それは間違いじゃないのだが、大事なポイントはそこじゃない。たぶん15年バンドをやってれば、それくらいの数の友人や知人がいるミュージシャンは、他にもいるはずだ。フェスのバックヤードでの交流もあると思う。でも、本当に大きいのは「『チャッ』と言ってもらう」というある種他愛のない馬鹿馬鹿しい思いつきを、実際にやるかどうか。それを実行に移せるかどうか、だ。

で、こういうコロンブスの卵的なアイディアは、突然降ってくるようなものじゃない。大抵、そこに至る道筋がある。で、それを象徴するのが前作アルバム『Oh! No! It's Heavy Polysick!!!』のジャケットだと僕は思っている。



Oh!No!It’s Heavy Polysick!!!Oh!No!It’s Heavy Polysick!!!
(2011/03/09)
POLYSICS

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このジャケットでは、スタッフなどメンバー以外の様々な人がPOLYSICSのコスチュームを着て登場している。で、リスナーも応募して当選すればコスチュームを着て撮影会に参加し、自分が写った世界で一枚だけのオリジナルジャケットがプレゼントされるという企画も行われた。
(「POLYSICS | 私もHeavy Polysick!!!」)
http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/POLYSICS/special/0309/

つまり、“友達ケチャ featuring 友達”に現れているPOLYSICSというバンドの「らしさ」は、バンドへの“参加可能性”だと思うのだ。簡単にいえば「誰でもPOLYSICSになれる」ということ。そのハードルはかなり低く設定されている。参加回路が開かれている。だからこそ、ファンだったらつなぎとサンバイザーを身につけるだけでいいし、アーティストは「チャッ」と言うだけでいい。意味ではなくコミュニケーションへの接続自体を目的としているという意味では、社会学者の北田暁大の言葉を借りて「繋がりの社会性」への志向を持つ数少ないロックバンドだ、と言ってもいい。

考えてみれば、フェスの会場を歩いていてもPOLYSICSのコアファンは、大抵オレンジ色のつなぎを着ているからすぐにそれとわかる。僕は夏フェスでお客さんに声をかけて写真を撮るような仕事をしてたこともあるから、そういう人たちの「ノリの良さ」は肌で知っている。これもきっと、POLYSICSというバンドが15年かけて築きあげてきた財産だと思うのだ。