日々の音色とことば

『ヒットの崩壊』『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』発売中です

今年もありがとうございました。/2019年の総括

例年通り、紅白歌合戦を見ながら書いてます。

 

2019年はどんな年だったのか。

 

そのテーマについては、タワーレコード40周年記念特設サイトの連載コラム「ポップの予感」に書きました。

 

tr40.jp

 

ディケイドの終わりには、変革が訪れる。時間の流れは連続で途切れないものだけれど、人々はそこに意味と物語を求める。十年ごとの区切りで時代を語ろうとする。そのムードが積み重なって、やがて、社会そのものの色合いを変えていく。

 

2010年代は、とてもダイナミックなディケイドだったと思い。社会がありありと変わっていって、そこに、カルチャーが密接に絡み合っていた。そのうねりのようなものをまざまざと感じられたという意味では、とてもいい時代だった。

 

個人的にも、いろんな転機のあったディケイドだった。すごく充実していたと思う。

 

年々、どんどん時間がすぎるのが早くなっていって、一年があっという間に経ってしまう。それは自分の年齢のせいなのか、情報があふれ濁流のように行き交うのがデフォルトになった時代環境のせいなのかは、わからないけれど。

 

そのうえで、2019年は、個人的にも印象深い仕事をいくつか形にできたと思っています。書籍のようなパッケージにはできなかったけれど、前述したタワレコ40周年の連載とか、田中宗一郎さんと三原勇希さんがホストの「POPLIFE: The Podcast」のゲストに出てインターネットについて語った回とか、音楽と社会についての話、アイデンティティの話を深めていくことができたような気がする。

 

それでも、自分としては頑張っているつもりでも、追いつけないくらい社会の意識のほうが変わっていて。振り落とされないように必死だったという気もする。

 

今年はもうちょっとブログを書きたかったな。忙しさにかまけていると忘れてしまうけれど、自分が考えたこと、書いたことが、「置き石」になってくれる。そういうことを、2020年はもう少し気に留めておいてもいい気がする。

 

最後に、自分がよく聴いたアルバムを並べておきます。

 

 

  1. Billie Eilish「WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO」
  2. Post Malone「Hollywood Bleedeng」
  3. 長谷川白紙「エアにに」
  4. 小沢健二「So Kakkoii 宇宙」
  5. Dave「PSYCHODRAMA」
  6. Ariana Grande「Thank you next」
  7. FKA Twigs「MAGDALENE」
  8. カネコアヤノ「燦々」
  9. Nick Cave & The Bad Seeds「Ghosteen」
  10. ドレスコーズ「ジャズ」
  11. OGRE YOU ASSHOLE「新しい人」
  12. テイラー・スウィフト「Lover」
  13. LANA DEL RAY「Norman Fucking Rockwell」
  14. Vampire Weekend「Father of the Bride」
  15. KOHH「Untitled」
  16. ヨルシカ「エルマ」
  17. King Gnu「Sympa」
  18. Clairo「IMMUNITY」
  19. KIRINJI「Cherish」
  20. Kanye West「Jesus is King」
  21. ROTH BART BARON「けものたちのなまえ」
  22. 星野源「Same Thing」
  23. Official髭男dism「TRAVELER」
  24. BABYMETAL「METAL GALAXY」
  25. 佐々木亮介「Rainbow Pizza」
  26. あいみょん「瞬間的シックスセンス」
  27. Tyler, the Creator「IGOR」
  28. James Blake「Assume Form」
  29. Juice WRLD「Death Rave For Love」
  30. Cashmere Cat「Princess CATGIRL」
  31. RADWIMPS「天気の子」
  32. THE BLUE HARB「TBHR」
  33. Tuvaband「I Enterd the Void」
  34. PEOPLE IN THE BOX「Tabula Rasa」
  35. Gesaffelstein「Hyperion」
  36. RY X「Unfurl」
  37. LIL NAS X 「7」
  38. BLACKPINK「KILL THIS LOVE」
  39. のろしレコード「OOPTH」
  40. BiSH「Carrots And Sticks」
  41. Eve「おとぎ」
  42. JPEGMAFIA「All My Heroes Are Cornballs」
  43. Tones and I 「The Kids are Coming」
  44. Khruangbin「全てが君に微笑む」
  45. Bon Iver「I,I」
  46. 花澤香菜「ココベース」
  47. Akeboshi「a little boy」
  48. BUMP OF CHICKEN「aurora arc」
  49. ヒトリエ「HOWLS」
  50. 崎山蒼志「並む踊り」

 

 今年もありがとうございました。来年も素敵な一年になることを願っています。

長谷川白紙『エアにに』と、拡張されるアイデンティティの境界

忘れないうちに書いておこう。長谷川白紙のファーストアルバム『エアにに』がめちゃめちゃ素晴らしい。

 

エアにに

 

エアにに

エアにに

  • アーティスト:長谷川白紙
  • 出版社/メーカー: MUSICMINE
  • 発売日: 2019/11/13
  • メディア: CD
 

 

アルバムについては『MUSICA』の12月号でディスクレビュー書きました。

そこにも書いたことだけど、こちらにも。

 

大袈裟なことを言うと「長谷川白紙以降」というタームが生まれそうなくらいの飛び抜けた才能。リズムとアンサンブルと歌の奔放で綿密な躍動があふれている。どんどん表情を変えせわしなく駆け抜けていく曲調は現代ジャズやエレクトロニカなど様々なルーツも感じさせつつ圧倒的にオリジナル。そして何より歌の強さ。譜割りもメロディの跳躍もこれまでのポップスの常識から逸脱してるのに、一度聴くとしっくりと馴染む。単なるエクスペリメンタルな音楽ではなく、シンガーソングライターとして「歌うべきテーゼ」を持ち、詩としての強度を持つ言葉を歌っているからだと思う。

 

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ひとたび聴いて伝わるのは、彼の音楽が、今まで聴いたことのないテクスチャ―と構造を持っているということで。緻密なコラージュの数々、カオティックな展開、自在なストップ&ゴ―、いろんなタイプの興奮を味あわせてくれる曲調が展開されていく。

で、それも間違いなく素晴らしいと思うんだけれど、僕としては、上に書いたとおり、これだけエクスペリメンタルでぶっ飛んだ音楽が、それでも「シンガーソングライターの表現」になっているということが凄いと思うのです。ただ音符と戯れているというよりも、彼の中に確固たるテーマがあって、その表出として歌がうたわれているということ。歌詞をちゃんと紐解くと、そのことが伝わってくる。

 

体を囲う虹の糸が
見えているのはあなただけ
天国くらいに磨り減って
光を通す
あなただけ
思ったときできた
肌から臓が 着くずれ 文字を待つ
(「あなただけ」)

 

「あなただけ」の冒頭で歌われるのは、身体の境界や、自分の内部の溶融をモチーフにした表現。『草木萌動』でも自分の身体をモチーフにした表現が頻出していたけれど、今作もその延長線上にある表現になっている。

どうして、彼は、そういうことを歌おうとしているのか。

『MUSICA』に編集長の有泉さんによるインタビューが載っていて、彼自身が明確にそれを言語化していた。

 

基本的に、私は常に私自身を否定して外に行きたいんですね。何重もの領域を持っていたいというか、私を固定するひとつの枠組があったとして、それを常に壊して「ない」状態にしておきたい――というのが私の根源的な欲求だなということに気づいたんです。私のやってきたことは全部それで説明がつくぐらい、私にとって基本的な欲求なんだなと。でも、それって実際には無理があることなんですよ。「何者でもありたい」なんてことはもちろん実現できないですし。でも音楽であればそれが可能になる。つまり私が音楽をやるのは、私にとって「私ではない私」にアクセスするための1個の手段なんだなということに気づきまして。私が想像し得なかった私であるとか、もしくはなりたかった私であるとか、少なくとも今の自分ではない広い領域に自分の体を持っていったり、広い領域まで自分の体を広げるための手段が音楽だったんだな、と。

 

私が曲を書く上で一番重要視している、というかこれ以外はほぼ重要視してない判断基準があるんですけど、それは曲を書いている時や書き終わった後に、「私の中を何かに探られていく感覚、あるいは私の中の何かが更新されていく感覚があるかどうか」なんです。やってて楽しいとかそういうことを基準にしていると、私の中ではどんどん立ち行かなくなってしまうところがあって。

 

この二つの発言を読んで、僕としては、とても合点がいったし、なんだかすごく感動してしまった。

たぶん、長谷川白紙の音楽を聴いて「わかりづらい」と思う人は沢山いると思う。馴染みのある様式を使ってはいないから。でも彼の曲はポップスとして機能する。というか、なんだかわからないけれど感覚を揺さぶられるようなものがある。それは、彼がアイデンティティについて歌っているから。

アイデンティティというのは、古くて新しい、すごくクリティカルな問題だと思ってる。

アイデンティティとは「自己同一性」のこと。辞書的な説明をすると「人が時や場面を越えて一個の人格として存在し、自己を自己として確信する自我の統一を持っていること」という意味。もうちょっと噛み砕くと「私はこういう人間だ」と思える「自分らしさ」のよすがというか。

で、ほとんどの人は、アイデンティティについて「あったほうがいい」と思っている。生きていくために「自分らしさ」が必要だと思っている。たとえばサカナクションの「アイデンティティ」みたいに、そのことをテーマにした日本のポップソングも多い。

 

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アイデンティティがない、つまり「自分らしさ」のよすががないことは、人を不安にさせる。

だから、多くの人は、人種や民族や、生まれ育ちや住む場所や、性別や性的志向や、職種や所属や、いろんな「領域」や「枠組み」をアイデンティティのよすがにする。

でも、長谷川白紙が言ってるのは、その反対なわけだ。「私を固定するひとつの枠組があったとして、それを常に壊して『ない』状態にしておきたい」というわけだから。

すごくラディカルな、そしてめちゃめちゃ風通しのいい考え方だと思う。

もちろん現実には難しい。でも少なくとも、音楽を聴いている瞬間には、それができる。「私」という境界は溶けて、違う領域にタッチできる。長谷川白紙はそういうことをテーマに表現してるから、こういう歌、こういう音楽にある。必然性がある。

そういうところにすごく興奮します。

嵐「Turning Up」/ J-POPを背負う、ということ

Turning Up

 

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嵐の新曲「Turrning Up」。いい曲よね。

11月3日、デビュー20周年の記念日に記者会見を行い、公式のTwitter、Facebook、Instagram、TikTok、Weiboのアカウント開設、全シングル65曲のデジタル配信を開始。それに合わせて公開されたのがこの曲。

というわけで、「嵐のネット解禁」はいろんな社会的インパクトを持って受け止められている。僕もいろんな媒体に『ヒットの崩壊』著者の音楽ジャーナリストとして取材を受けました。音楽産業にあたえるインパクトとか、海外への波及効果への影響とか。

まあ、でもそんなことはさておいて。経済的な影響だとかジャニーズのネット戦略とか、そういうのはおいておいて「いい曲よね」というのがグッド・ニュースだなあと思う。ただ過去曲が解禁になるのよりも、新曲が配信されて、そこに意志とメッセージが読み解けるものになっているのが大きい。

というのも、これ、シングルとしては本当に久々の「嵐が嵐のことを歌ったポップソング」だから。

ここ何年もずっと、嵐のシングル曲というのは、メンバー主演のドラマや映画の主題歌だったり、大きなスポーツイベントのテーマソングだったり、ナショナルクライアントのCMソングだったりした。要はタイアップありきで制作された楽曲ということで、それはまあ国民的グループとしては当たり前の事実でもあった。

でも、この「Turrning Up」に関しては、「Theme of ARASHI」や「COOL & SOUL」に通じる、グループがグループのことを真っ向から歌ったノンタイアップの曲。ラップのリリックに「山 風 (嵐)と ほら朝まで」とグループ名をことを綴っているのも象徴的。

作曲はAndreas CarlssonとErik Lidbom。曲調はコンテンポラリーなブラック・ミュージックをベースにしている。そういう意味でも「ファンクをどうJ-POP化するかを考えて作られた曲」であるデビューシングル『A・RA・SHI』の20年後の正統的なアップデートという感じもする。

で、ポイントは、いわゆる海外のポップミュージックの動向とJ-POPの要素の絶妙なブレンドにあると思う。サウンド自体は、いわゆるブルーノ・マーズ以降の今のR&Bを意識しているもの。だけど、Aメロ、Bメロ、サビという曲の構造も、曲後半のヴァースでラップが入るという構成も、すごくJ-POP的。この「サウンドは洗練されているけれど構造はJ-POP」というのは、実はこの曲のメッセージ性ともリンクしてる。

曲を聴いて耳に残るのはサビの「Turrning Up With The J-POP」という一節。ここでの「Turn Up」は「音量を上げる」という意味だと思うので、直訳すれば「でっかい音でJ-POP聴こうぜ!」みたいなことを歌ってる。つまりそれがこの曲の持つメッセージ性ということになる。「嵐=J-POPの代表」ということをこの曲で打ち出してるわけだ。

 

 

 

ツイッターの発信が明らかに英語圏を意識していることや、中国語圏のSNSであるweiboのアカウントを開設していることを含めて、全てのアクションと曲に込められた意図が合致してる。

嵐については活動をつぶさに追っているわけではないのだけれど、ここぞというタイミングで意志の強い楽曲を放ってくるところが、わりと好きなのです。

 

(ちなみに数年前の対談はこちら)

realsound.jp