日々の音色とことば

usual tones and words

「ラッスンゴレライ」はどこが面白かったのか

ラッスンゴレライ [DVD]

 

こないだ飲み会で熱く語ってたら「それブログに書いたらいいじゃん」と言われたので書きます。

 

今回の話は、2015年初頭を席巻したお笑い芸人・8.6秒バズーカーのネタ「ラッスンゴレライ」について。3月23日、デビュー最速となる大阪・なんばグランド花月での単独公演のチケットも即完したとか。あのネタのどこが面白かったのか?という話。でも僕はそこまでお笑いに詳しいわけではないので、あくまで音楽的な切り口から。まずは公式動画を。

 


【公式】8.6秒バズーカー『ラッスンゴレライ』 - YouTube

 

あれを見て「どこが面白いの?」って言う人、沢山いたと思うんです。たとえばビートたけしが「バカ大学の文化祭」と一刀両断してたり。

 

news.livedoor.com

 

松本人志が「別におもしろくはない」「これは“曲”ですよ。みんなやりたがる、手拍子したくなる」と批評してたり。

www.oricon.co.jp

 

たしかにその通りだと思うんです。いわゆるよくある“リズムネタ”だよね、というのもその通り。「俺はまったく面白いとは思えない」という人が沢山いるのもよくわかる。でも、そうやって一刀両断しても「じゃあ、なんでこんなに流行ったんだろう?」「なんでいきなり人気者になったんだろう?」という疑問は残る。

 

実際、一度耳にすると、ついつい口ずさんじゃうんですよ。妙に耳に残る。なんか一人で作業してるときに「♪ラッスンゴレライ」「♪ちょっと待って、ちょっと待って、お兄さん〜」とか言っちゃう。謎の中毒性がある。

 

2月20日の「東京ポッド許可局」で、マキタスポーツさん、プチ鹿島さん、サンキュータツオさんが、「ラッスンゴレライ論」として、この「謎の中毒性」について語り合ってました。

 

TBS RADIO 東京ポッド許可局 2015年2月21日 第99回「ラッスンゴレライ論」 - TBSラジオ 東京ポッド許可局

http://podcast.tbsradio.jp/tokyopod/files/20150221_rassungorerai.mp3

 

3人によると、ここ10年くらいで「リズムネタ」というジャンルが生まれ、その区切りができたことによってジャンルの進化が早まり、爆発した。ラッスンゴレライはその究極の形、ハイパーリズムネタなんだという。

 

なるほど。

 

番組の中では「音楽の歴史と同じような進化をしてる」「ポップスは感染していくもので、音楽もそもそも中毒性がある」「こういうことをちゃんと音楽の専門家と考えたい」みたいなことも言っていたので、それを受けて僕も考えました。ラッスンゴレライの面白さはどこにあったのか。

 

結論を最初に言うと、それは「意味の逸脱とリズムの逸脱が倒錯してるところ」だと思うのです。

 

 ■三三七拍子とシンコペーション

 

まずは基本的な指摘。

 

ラッスンゴレライは「三三七拍子」のリズムをベースにしてる。だから真似しやすい。これは説明するより、実際に手を叩きながらやってみるとしっくりくると思う。

 

「♪ラッスンゴレライ」(パン・パン・パン)

「♪ラッスンゴレライ」(パン・パン・パン)

「♪ラッスンゴレライ、説明してね」(パン・パン・パン・パン・パン・パン・パン)」

 

このリズムを無理やり譜面化すると下のようになる。

 

実はこれ、リズムは「三三七拍子」で、そこに載る言葉は「五・五・七・七」という、とっても日本的でオーソドックスな語呂の良い言葉になっているのです。

 

もちろん、この「語呂の良さ」は、たとえば飲み会のコールなんかにも通じるもの。表拍で手拍子を打って4拍目に「ヒュー!」と入れているのも象徴的。決して新しいものじゃない。ビートたけしがここを見て「バカ大学の文化祭」と評したのもむべなるかな、という感じです。

 

ただ、それだけじゃない。

 

それを田中シングルのほうが「いや、ちょっと待って、ちょっと待って、お兄さん」と受ける。ここで重要なのは「いや」。上記の「ラッスンゴレライ論」でマキタスポーツが指摘している通り、ここはリズムが「食っている」んです。前の小節の4拍目の裏から始まっている。専門用語で言うと、弱起、アウフタクトになっている。それによって、シンコペーションのリズムが生まれている。

 

「リズムネタ」にとって、シンコペーションは発語の快楽を生み出すキモとも呼べるものです。リズムが食っていると、なんだか真似したくなってしまう。そのためには裏拍からフレーズが始まっている必要がある。たとえばオリエンタルラジオの「武勇伝」だったら「♪ぶゆうでん、ぶゆうでん、ぶゆうでんでんででんでん」の、三回目の「ぶゆう」のリズムが食っている。藤崎マーケットの「ラララライ体操」だったら、「♪ラララライ」の「ラララ」のリズムが食っている。

 

それと同じで田中シングルの「いや」が、まず発語の快楽として機能しているのがわかります。

 

 

■意味とリズムの交錯関係

 

 

そして、「ラッスンゴレライ」のネタがよくできてるなーと思ったのはここから。

 

実は左側のほう、はまやねんのセリフは何を言っても「三三七拍子」の表拍からズレないのに対して、右側のほう、田中シングルのセリフはどんどんリズムの裏拍に乗っていくわけなんです。

 

一回目の「ちょっと待って、ちょっと待って、お兄さん」は、まだ「三三七拍子」のリズムの中に収まってる。一緒に手を叩いてみるとそれがよくわかる。「タタタン・タタタン・タタタン・タン」だ。

 

でも、二回目の「バリ、グアム、ハワイ、どれですのん?」で、裏拍が混じってくる。ちょっと複雑な話になってくるけれど、7×2=14を「2(バリ)・3(グアム)・3(ハワイ)・4(どれです)・2(のん?)」と分割しているわけだ。

 

三回目の「♪彼女と車とか言うてたけども 彼女おらんし車ないやん」は、さらに裏拍にのせて発語する範囲が増えてくる。

 

「4(彼女と)・3(車)・2(とか)・4(言うてた)・3(けども)」

「3(彼女)・4(おらんし)・3(車)・4(ないやん)」

 

で、四回目。今度は「ちょっと待って、ちょっと待って、お兄さん」のリズムが変化する。

 

「♪ちょ、ちょ、ちょっと待て、オニさん」

 

ここが、子供とかいろんな人が真似したくなるポイントだと思う。「♪タタタン・タタタン・タタタン・タン」から「♪タン・タタン・タン・タン・タタタン」へ。

 

さらに続く「♪意味わからんからやめて言うたけど もうラッスンを待ってまっすん」はかなりテクニカルだ。「3(やめて)・3(言うた)・2(けど)」で裏拍に乗っかる。そしてシンコペートしたまま「もうラッスンを待ってまっすん」を駆け抜ける。

 

対して、はまやねんのセリフの方は決して「三三七拍子」の表拍のリズムからズレることはない。

 

「楽しい南国 ラッスンゴレライ」

「彼女と車で ラッスンゴレライ」

 

言ってることはズレていくけれど、語呂はズレないわけだ。

 

「電車に乗るとき スパイダーフラッシュローリングサンダー」

 

もそう。一見意味不明の言葉を連呼してるように聴こえるけれど、実は発語のタイミングは全て表拍になっている。

 

一方でそれを受ける田中シングルの「♪ちょちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待って、ゥオニさん!」は、ほとんど裏拍のタイミングでの発語になっている。

 

これも無理やり譜面にするとこうなる。

 

つまり、一見わけわからないことを言ってるボケのはまやねんの方は、実はリズム的には最初のルールを逸脱していない。一方、それに対して「ちょっと待って、ちょっと待って」とツッコミ的な機能を果たすはずの田中シングルの方のセリフは、どんどん自由にリズムのルールを逸脱していく。

 

「意味の逸脱」と「リズムの逸脱」の倒錯が起こっている。それが「ラッスンゴレライ」の面白さだ、と思うわけなのです。

 


完コピ!オリラジが「ラッスンゴレライ」をやってみた !8.6秒バズーカーも驚愕!「日本女子博覧会 ...

 

オリエンタルラジオのコピーが本家よりキレキレで面白いのも、そのあたりを意識的に把握して尖らせているからかなーと思ったりします。

 

 

■先輩・オリエンタルラジオの薫陶

 

そういや、3月2日放送の『人生が変わる1分間の深イイ話』でも、8.6秒バズーカーにオリエンタルラジオが先輩としてガチでアドバイスしてました。それも超面白かった。ちょうど10年前、2005年に「武勇伝」で一気にブレイクして、その後の低迷や葛藤を経てきただけに、言葉に重みがある。

 

「最初は『何これ』って言って見てもらえる時期があって。知られると『あぁ見れた見れた』になる。そっから『もういいよ』って言われる時が来ちゃうのよ」

 

とか。

 

「とにかくリズムネタはバカにされるのよ。何? あの宴会芸?みたいに言われる」

 

 

 

とか。それでオリエンタルラジオは漫才を10年やったけど、やっぱり自分たちには向いてなかった、と気付いたんだという。改めて自分たちが何で世に出てきたか?を考え「あ、俺らデンデンデンデン言いながら出てきたんだ」って思い至ったという話。

 

「ファースト・シングルの呪縛と向き合う数年間は長かったけど、またやってみようと思う時がくるのよ」

 

という言葉の通り、今、オリエンタルラジオは再び「武勇伝」ネタを進化させてテレビで披露してる。ダンサーと共に、EXILEや三代目J SOUL BROTHERSばりに歌い踊ってる。

 

(追記) RADIO FISHというユニット名で、そのネタで歌い踊る曲「STAR」が配信されていた。「検索ちゃん」で観たけど、自分たちで作ったオリジナル楽曲らしい。これマジで格好いいです。思わず買っちゃった。

 

STAR

STAR

  • RADIO FISH
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

ライブでも披露されていたみたい。

natalie.mu

 

たぶん「ラッスンゴレライ」もそろそろ消費されて飽きられるフェーズに入っていくはずだと思うんだけど、その先で奮闘してきた先輩がいることは、8.6秒バズーカーの二人にとってはすごく幸せなことでもあると思います。