吉田尚記アナの『なぜこの人と話をすると楽になるのか』を読みました。
これがすごく面白かった。そして参考になること沢山あった。僕は基本的に音楽ライターという仕事をやっていて、そうなるとインタビューが日常的な仕事となっている。だいたい月に10本から15本くらいの取材をやっている。いわばコミュニケーションを仕事にしてる人間の一人なわけなんだけど、そういう自分から見てもすごく目からウロコというか、納得というか、コロンブスの卵を立てられたような気持ちになった。
■コミュニケーションを「ゲーム」と捉えることで見えてくるもの
この本で書かれていることは、とてもシンプルだ。要点は
「コミュニケーションとはゲームである」
ということ。そしてその特徴を以下のように定義している。
- 敵味方にわかれた「対戦型のゲームではない」、参加者全員による「協力プレー」
- ゲームの敵は「気まずさ」
- ゲームは「強制スタート」
- ゲームの「勝利条件」は、コミュニケーションによって感心したり共感したり、笑い合ったり幸せになったり、そういうポジティヴな感覚を得ること
対戦型のゲームではないということは、つまりコミュニケーションは一方が勝ったり負けたりするような類のものじゃないということ。誰かを言い負かそうとしていると、得てしてゲームの敵である「気まずさ」に負けてしまう。そうじゃなくて、コミュニケーションが成立すること自体が、コミュニケーションの目的となる。
つまり、いろんな人が無意識のうちにやっている「ムダ話」や「雑談」のようなものを「コミュニケーション・ゲーム」として再設定したことに、この本のポイントがある。そしてそれは、著者である吉田尚記アナが、口下手で「コミュ障」な出発点からアナウンサーとして「技術としてのコミュニケーション」を磨いてきたという経験に裏打ちされている。
そして、このゲームを楽にプレーする基本は「相手にしゃべってもらって、その話を訊く」ということにある、という。
何度も言うとおり、できるだけうまくいくよう確率を上げていく方法はあります。その基本はたったひとつ。人にしゃべらせる。これだけです。人に楽しくしゃべってもらう。最初に話しかけるとき以外、自分からしゃべる必要はない。ぼくは何を訊こうか決めて人に会いに行くことはよくありますが、これをしゃべろうと決めて人に会いに行くことはありません。
ちょうど同じようなことを、『「おもしろい人」の会話の公式』を出版したばかりのNHKエンタープライズのプロデューサー、吉田照幸さんが言っていた。

「おもしろい人」の会話の公式 気のきいた一言がパッと出てくる!
- 作者: 吉田照幸
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2015/02/12
- メディア: 単行本
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「人望がない人」は、大体"話しすぎ"ている | オリジナル | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
自分をアピールするための発言をやめました。よくあるでしょう。いい意見が出たあとに、「僕もそう思ってました。確かにそれは……」っていう人。自分を振り返ってください。無意識にしてしまう行為です。なぜなら本当にそう考えていたから。だけどこれはうっとうしいだけです。だからそうした言葉が出そうになったら、ぐっと堪えるようにしました。
日常の会話でも、「この前ハワイに行ってさぁ~」って発言に、「あ! オレも3年前に行って」ってなどとは、絶対に言わないようにしています。これは、無意識に「会話泥棒」をしてしまっているわけです
つまり、コミュニケーション・ゲームの達人になるためには「聞き上手」である必要がある。それが、吉田尚記さんと吉田照幸さんの言っていることなのだと思う。
■インタビューのスキルは属人的なものなのか
でも、やっぱりみんな、「聞き上手」になるためにどうするかを知りたいんだよね。その技術論が求められている。
だから阿川佐和子さんの『聞く力』が100万部を超えるベストセラーになった。それに「全力で便乗した本」(と「あとがき」に書いてある)吉田豪さんの『聞き出す力』も相当売れている。
実はこの2冊を読んでわかるのは、インタビューのスキルというのものは、とても属人的なものだということ。
たとえば『聞く力』の有名なエピソードで、デーモン小暮さんに「ヘビーメタルって何ですか?」と聞いた、というのがある。怒られるかと思ったらすごく丁寧に、しかもきわめて論理的に説明してくれた、という。知ったかぶりしたってしょうがない、素直に率直な質問をぶつけるのも時には効果的だという話。でも、それって誰もが真似できるものじゃない。阿川佐和子さんだから成立する。たとえば新聞記者や雑誌のライターが同じ質問をしたって場が凍るだけ。
吉田豪さんのスキルも、実はかなり属人的なものだと思う。『聞き出す力』には阿川佐和子との対談も収録されていて、そこではこんな会話がなされている。
阿川 吉田さんのインタビュー術の一番大事なことはなんだと思ってらっしゃいますか?
吉田 下調べ&いかに距離をつめるかですね。警戒されないことって大事じゃないですか。
阿川 そのためにしてることは?
吉田 相手の本やグッズを山ほどもっていってアピールするのは有効な手段です。
下調べが重要ってのは、ほんとにその通り。
でも『聞き出す力』の本文に「インタビュー前の下調べはプロとして最低限の礼儀なのだ!!」と書いてある通り、それは(どこまで徹底的にやるかは人それぞれだと思うけれど)、スキルというよりもそれは必須事項、前提に近いことだと思う。その上で「相手の本やグッズを山ほどもっていってアピールする」というのも、単に真似するとイタいファンアピールにしかならない可能性が高い。
そして『聞き出す力』の中でも、吉田豪さんのインタビュースキルのコアの部分は、とても属人的なスキルであることが明かされている。
学生時代から、あまりにも堂々とした態度で相手の目をじっと見つめたりすると「豪ちゃんは、なんでもお見通しだからなあ……」と勝手に相手が誤解して、何も知らないのに赤裸々なカミングアウトをしてくれることが何度もあったぐらいで、とりあえず堂々としてさえいれば意外と何とかなるもの」
「インタビューのスキルが属人的なものである」というのは、写真に喩えるとわかりやすいと思う。
誰でも人に話を聞くことはできる。それは、とりあえず、スマホでもデジカメでも何でもいいからシャッターを押せば写真は撮れる、というのと同じこと。高級なカメラを買えばそれなりのクオリティのものもできる。露出とかシャッタースピートとか構図とか、学べることは沢山ある。でも「いい写真」を撮るためのスキルというのは、あるレベル以上までいくと、とても属人的なものになってしまう。「梅佳代さんみたいな写真を撮りたい」「佐内正史さんみたいな写真を撮りたい」と思っても絶対無理なわけで。そうなるためには梅佳代さんに、佐内正史さんになるしかない。
とはいえ、実はこのトップインタビュアー二人の対話で、すごく大事なことがさらりと話されていた。
吉田 人を面白がるということに集中すれば大体なんとかなりますよね。
阿川 そう。その人をひとりの生の人間とみて疑問をぶつける。
「他人に興味を持つ」って、実はちゃんと心がけてやってる人は少ないのかもしれない。それは何故かというと、基本的に誰もが「自分のこと」に興味があるから。そりゃ当たり前のこと。でも、誰かのことを、誰かがやってる仕事や、誰かが好きなもののことを、きっちりと掘り下げて考えることって、そんなにない。
ここで『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』に戻る。
結局、人のためにしゃべるということがコミュニケーションの核なんですね。自分がどう思うかで話を進めるのではなく、相手の側から話を進めてもらう。相手の側から話を進めてもらう。相手に気持ちよくしゃべってもらうには、自分はどうしたらいいか、そこだけを考えてきた気がします。
会話の基本は、徹頭徹尾、人のためです。そうしていると相手からも話を訊かれるようになって、自分も楽しくしゃべられるようになる。
それを意識して実践していくことが、コミュニケーションのコツなんだと思う。
というわけで、最後に告知。
そういう話を踏まえた上で、今週末の3月13日(金)に、吉田尚記さんとトークセッションをやります。(というかこのブログの記事自体、最初はトークセッションのレジュメ用として書き始めたんだけど「いいや、公開しちゃえ〜!」と思って書き直したものなんです)
期日、内容は以下の通り。「トップインタビュアー」扱いは面映いことこの上ないですが、ちゃんと吉田尚記さんなりの、僕なりの「インタビュースキル」というものを、属人的なものと、そうでないものに分解して開陳しあえるような会にしようと思います。ぜひ来てね。
【代官山 ビジネススタイルカレッジ】~デジタル時代のメディア最先端をゆくトップインタビュアー対談~ 吉田尚記×柴那典スペシャルトークショー | 代官山DAIKANYAMA T-SITE
会場:代官山 蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
会期:2015年3月13日(金)
会場:蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
開館時間:19:30~21:00
主催:代官山 蔦屋書店
お問い合わせ:03-3770-2525
http://tsite.jp/daikanyama/event/004695.html