日々の音色とことば

usual tones and words

インタヴューをする時に僕が心がけていること

ある方からTwitterで

突然ですが、柴さんは、インタビューをする際、表現者の方の、どんな思いを引き出そうと心がけていますか?例えば、ナタリーやパピルスでのインタビューの際を、教えていただけたら幸いです。最近、いいインタビューとは何なのか?を考えているのですが、色んなインタビューを読んでいて、やはり柴さんの原稿が、濃厚で、「おもしろい」と感じるのです。どこを目指すことで、そのような素晴らしいインタビューになるのか、知りたいのです。よろしくお願いします。

と訊かれた。

 そんなこと言われると素直にすごく嬉しくて、思わず舞い上がってしまったんだけれど、でも、同時に「うーん」と唸ってしまった。この質問にちゃんと答えるのは難しい。いいインタビューって何だろう。どうすればよくなるんだろう。

 そういえば、最近SPBSで「作家・ライター養成講座」なる講座で喋らせてもらう機会があって、そこでも同じようなことを訊かれた。「インタビューが上手くいくやり方を教えて下さい」的な。その時は正直に言っちゃったな。「やり方なんてありません」って。いや、正確に言うと「毎回頑張ってます」というのが近いかもしれない。インタビュー相手の一人一人考えていることが違うのは当たり前で、同じ人でも作品やタイミングによって話すべきことが異なるわけで、だから目指す先というのは、毎回毎回、違う。

 でも、いくつか、僕なりに心がけていることはある。当たり前のことかもしれないけれど、ちゃんと書いておこう。

 一つめは、「相槌をうつ」ということ。相手の投げたボールを、ちゃんと一回こちらのミットで受け止める。時には相手の言葉を繰り返す。場合によっては「それって、○○ということですよね」みたいに言い換えたりもする。気になった言い回しがあったら、その意図を尋ねる。いずれにしろ、相手の言ったことが届いていることを、ちゃんと示す。これがないと、会話が乾いてくる。就職の面接みたいになってくる、というか。

 二つめは、「準備をする」ということ。もちろん作品を聴きこんで解釈するし、資料とだいたいA4一枚くらいに訊きたいことを印刷した紙は手元に置いておく。手ぶらでいくことはほとんどない。

 と、書いてみたけど、やっぱり、あまりに当たり前すぎるなあ。加えて言うならば、作品について「これって、こういうことなんですよね」という納得を最初の方で互いに共有することができたらその先に踏み込んだ話のできるインタビューになる、ということかな。こちらの解釈とメタファが上手くハマったら、共有したその前提に乗っかることで、紋切り型ではない会話ができる。ただ、それは作品やその人の生き方をこちらがどう解釈したかの問題だから、メソッド化することは不可能なんだよなあ。

 僕が覚えているなかでは、ケミカル・ブラザーズの『ウィー・アー・ザ・ナイト』についてのインタビューをした時が、“上手くハマった”例として思い出深い。あのアルバムはそれまでの派手なブレイクビーツやハウスから、ミニマルで洗練されたエレクトロニック・ミュージックへと音楽性を変えてきた作品だった。そういう「必要な音色だけが的確に配置されている」感覚を伝えたくて、「このアルバムは“禅”の感覚に通ずるものがありますね」と言って、竜安寺の石庭の話をした。「確かにそうかも!」ってずいぶん盛り上がって、次に会った時には「ああ、“禅”の話をしたライターだったよね。本国のプレスにもそうやってアルバムの説明をしたよ」と声をかけてくれた。あれは嬉しかったな。

 質問の答えになってるかどうかわからないけど、今僕が思うのは、こういうことです。


ウィ・アー・ザ・ナイトウィ・アー・ザ・ナイト
(2009/07/01)
ケミカル・ブラザーズ、ウィリー・メィソン 他

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