日々の音色とことば

usual tones and words

Perfume東京ドームで、たった一つ物足りなかったこと/アイドル音楽の「体験」はまだまだ新しくなれる

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■最高なエンターテイメントの「さらにその先」のフロンティア

ちょっと前のことになるけど、今日は12月25日、Perfumeの東京ドーム公演「Perfume 4th Tour in DOME『LEVEL3』supported by チョコラBB」に行った時の話を。ライヴはそれはもう素晴らしかったわけなんだけど、だからこそ「その先」への思いが芽生えたという話。そして、Perfumeだけじゃなく、アイドル音楽のライヴ体験って、まだまだ進化する余地があるんじゃないだろうか?という話です。

まずはPerfumeのステージについて。詳しいレポはナタリーにもRO69にも載ってるので、観に行ってなかった人はそちらをご参照あれ。

ナタリー - Perfumeライブで思わず涙「東京ドームがホームになった」http://natalie.mu/music/news/106550
Perfume @ 東京ドーム | 邦楽ライヴレポート | RO69http://ro69.jp/live/detail/94733
まずは演出面。カンヌの受賞もあったし、ライゾマティクス展もあったし、NHKでも特集されてた。「スゴイもの見せてくれるんだろうな」という事前の期待は相当に上がっていたわけです。それでも今回のPerfumeのステージは、その高く設定されたハードルを軽々と超えるものだったと思う。

特に印象的だったのは、ドームの広さを存分に使った、縦方向の動きを活かした演出の数々だった。ステージセットと映像とが巧みに組み合わされて、ステージ上で歌って踊っている実体の「3人」と巨大な象徴としての「Perfume」が交錯するようなイメージが伝わってくる。

もちろん演出だけじゃなくて、のっち、かしゆか、あ〜ちゃんの3人の存在感も抜群だった。数万人のオーディエンスの熱を受け止めて掌握して、東京ドームの広い空間を完全にホームにしてしまうパフォーマンス。プロフェッショナルな歌とダンスと「これ、いつまで続くの?」な自然体のMCとのギャップも。「♪ソト、ウチ、ソト、ソト〜」を筆頭に数々の観客とのコミュニケーションも、あ〜ちゃんのエモくて熱いMCも。サンタ衣装も可愛かったよね。

そんなことを帰りにメシを食べながら友達と喋っていて、あれもこれもとライヴの感想を言い合ってたんだけど(こういうの楽しい)、ふと彼が一言もらした。

「でも、音、遠かったですね」

そうなのだ。あんなに最高なエンターテイメントだったのに、たった一つだけ物足りないことがあった。音響がイマイチだった。歌声は聴こえてくる。でもスタンド席で体感するサウンド自体は、どこか小さかったというか、遠かった。もっとキックが、ベースラインが下半身をズンズン揺らすくらい鳴りまくってほしかった。特に『LEVEL 3』はテクノポップからEDMへ軸足を移し、さらにその“先”を見据えたアルバムだ。鳴ってる音はバキバキのフロア仕様。だからこそ、それを鳴らす東京ドームのサウンドシステムに物足りなさを感じた、というわけなのである。

「まあ、しょうがないよね。ドームだし」

その場では僕はそんな風に返答した。友達も「こればっかりはしょうがないですよねえ」てな感じで返して、次の話題に流れていった。音が良くないと言ったって、当然、Perfumeの3人も、スタッフも、中田ヤスタカも誰も悪くない。PAエンジニアさんの責任でもない。コンサートや音楽イベントを考慮して作られていないスタジアムで、しかも屋根付きの場所で、「いい音」を望む方が間違ってるとも言える。それは正論だ。

でも。あれから一ヶ月近く経って、「しょうがないよね」がなんか心の中で引っかかり続けてるのだ。東京ドームは彼女たちが目指してきた場所で、それだけじゃなく武道館公演を成功させる数々のアイドルグループが登場してきた今、「その先」にイメージする場所で。そんな夢の場所が「しょうがないよね」というのは、なんだかすごく残念な気がする。

ちなみに。音響の専門家でもないしPAエンジニアの知識もないのであくまで僕の体感を元にした物言いなんだけど、そのPerfumeが2008年に公演を実現させた武道館は、比較的いいサウンドが実現できるハコになっている。

でんぱ組.inc、私立恵比寿中学、BABYMETAL... アイドルはなぜ「日本武道館」を目指す?(1/2) - Real Sound|リアルサウンド
http://realsound.jp/2014/01/incbabymetal.html
上の記事では武道館について「音がよくない」と書いているけれど、それはちょっと前のこと。

BOOWYの氷室京介が「ライヴハウス武道館にようこそ!」と言った80年代から90年代にかけては、上の記事通り武道館はかなり音の悪いハコだったと思う。あの場所も元々コンサート向けに作られているわけじゃない。天井で音が跳ね返って、ぐるりと音が回ってしまって、気持ちのよくない音場になってしまっていた。

それが、音響技術の発展のおかげで、武道館はいつの間にかライヴハウスやホールと(体感的には)遜色ない場所になっていた。実際、何人かのキャリアあるミュージシャンが武道館の「音の良さ」について語るのを訊いたこともある。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんがその裏付けを話してくれたこともある。

今って、PAやスピ一カ一の技術がどんどん進化しているんです。ただ、最終的な出音を決めるのは、PAエンジニアの感性と、バンドがコントロ一ルするバランスによるところが大きい。それが噛み合えば、すごく立体的なものになるし、意思疎通がないとただ音が出ている感じになってしまう。僕らの場合は、デビュ一の頃からずっと佐々木幸生さんというPAエンジニアの人にお願いしているのですが、彼はサカナクションのPAもやっていたりして。


BOOM BOOM SATELLITES × supercell対談 -インタビュ一:CINRA.NET http://www.cinra.net/interview/2013/11/15/000000.php
武道館よりさらに大きなハコである幕張メッセで行われる数々の公演でもサウンドシステムに不満を持ったことはほとんどない。

なので、きっと東京ドームくらいの大きなスタジアムでも、この先の音響技術の発展で「しょうがないよね」が解消されるのではないか、数万人単位のベニューでも「いい音」が鳴らせるようになるんじゃないかと思う。もしくは新しく建設される国際競技場がそういう用途のハコになるのかな、とか。で、そういう可能性を実現させるのがPerfumeなんじゃないかと期待してる。とにかく、今の日本でスタジアムクラスの公演を打てるグループは多くはなくて、その中でもPerfumeは最も先鋭的な「音」にこだわったグループだからこそ、そのフロンティアを開拓する存在になるんじゃないか?と思っているわけなのです。

■ステレオ→サラウンドが更新するライヴ体験

そして、ここからは、もうちょっと突飛で現実離れした話。アイドルのライヴ体験って、サウンドシステムの考え方を更新したら、もっと今までにないものになるんじゃないの?って話です。ステージの上で鳴ってる沢山の音をステレオ2chにミックスすることに「狭さ」を感じるようになってきた、というか。例によってPAエンジニア的な知識はないのでプロの人からしたら「何言ってんだこいつ」的な物言いなのかもしれないけど、その辺はまあ目をつぶってくださいな。

そう思うきっかけになったのが、12月27日に観た渋谷慶一郎さんのコンサート「Playing THE END」だった。「THE END」の楽曲をソロのピアノで弾くという公演。会場レイアウトは、中央のピアノの周囲を客席が取り囲み、さらにその後方にスピーカーが配置された形だ。

前半はピアノ演奏のみだったんだけど、明らかに未体験ゾーンだったのが後半。中央のスピーカーからはピアノの音が、後方からは「THE END」の象徴でもあったノイズや電子音が響く。単なるサラウンドではなく、360度ピアノを囲むオーディエンスを「内」と「外」から音が包み込む。今までにない音響体験。

技術的に、予算的に可能かどうかは知らないけど、たとえばPerfumeの東京ドームもこんな風だったら最高だな―と思ったわけです。たとえばアリーナとスタンドのいろんなところにスピーカーやウーハーがあって、ドーム全体にバキバキの低音が響き渡って、センターステージにいる3人の歌声は中央から届く、というような。生演奏を主軸にしたバンドではなく、EDMやエレクトロニック・ミュージックに軸足を置いてるからこそ、「いろんな音がいろんな場所から鳴る」というトライが可能になるわけで。

そうそう、サラウンドといえばやっぱり去年のサカナクションの幕張メッセも鮮烈な体験だった。ドルビー完全協力の6.1chサラウンドライヴ。以下のレビューにも書いたけど、僕が「さすがだなあ」と思ったのは、公演が決して単なる新しい技術のデモンストレーションになっていなかったこと。5人の演奏する音はあくまでステージから届く。で、コーラスや残響がサラウンドスピーカーから響く。結果、「音楽の中にいる」感覚になる。

SAKANAQUARIUM2013 sakanaction ライヴレポートhttp://www.nexus-web.net/live/future/sakanaction/

ブルーレイディスクの豪華版にはライターの布施雄一郎さんによるライヴの裏側のドキュメントを追ったテクストが載っていて、それを読むとサラウンド調整を担当したベースの草刈姐さんを筆頭にしたメンバー自身の試行錯誤で新しい音楽体験を生み出したことがわかる。


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話は戻るけど、オーチャードホールやシャトレ座で体感した渋谷慶一郎+初音ミク「THE END」公演も、10.2chサラウンドスピーカーを導入していて、それもすさまじい音響体験だった。前後左右だけでなく上下にも音の定位があって、「空間自体が鳴っている」という感覚になる。

なかなか言葉では言い表わせないんだけど、これは確実に新しい感覚だった。驚くほどの音への“没入感”が得られるというか。ライヴのエンタテインメントは様々な方向で進化しているけれど、ここにも確実にフロンティアがある。そしてPerfumeのような生演奏をベースにしていないアイドルグループは、そういうところに踏み出すことができるんじゃないかと勝手に思ってるわけです。

■サラウンドだけじゃない「多チャンネル化」

ちなみに。アイドルのライヴにおけるサウンドシステムの多チャンネル化は、何もサラウンドを目的にしてなくてもいいとも、思う。特に多人数のアイドルグループだったら、ユニゾンで歌ってもメンバーそれぞれの単独歌声が出るスピーカーがあったら面白いんじゃないか?とも思う。

そういうことを考えたのが、今年1月5日に観たでんぱ組.incのZepp Divercity Tokyo公演だった。ライヴ自体はそりゃもう良かったわけですよ。アルバム『WORLD WIDE DEMPA』は日本独自に進化したカラフルで高密度な「浮世絵ポップ」の結晶で、“でんでんぱっしょん”や“でんぱれーどJAPAN”を筆頭に、わちゃわちゃした沢山のフレーズが乱れ飛び6人がハイテンションで歌い踊る。いろんな音の情報が奔流のように浴びせられるステージなんだけど、スピーカーは2系統しかないから、それがぎっしり詰まってる感じで届く。バンドのライヴだったらそれぞれのプレイヤーの音が塊になって一体化してガツンと届くというのが醍醐味の一つなんだけど、グループアイドルのライヴって、もっといろんなところでいろんな音が鳴ってていいんじゃないかな?って思ったわけです。

それこそ沢山のスピーカーをステージに並べて、メンバーの色分けをそこに施して、でんぱ組.incだったら「未鈴スピーカー」とか「ねむスピーカー」、ももクロだったら「あーりんスピーカー」「れにスピーカー」みたいにね。もちろん全体のサウンドも聴こえるけど、そこからは特定のメンバーの声が聴こえるわけだから、推しのメンバーがいるファンは当然そこに集う。そういうのも楽しそう。


アイドルシーンは「戦国時代」と言われる時代をとっくに脱して「多様性の時代」になっている。だからこそテクノロジーが音楽体験を更新できる可能性はまだまだ沢山ある。そんな風に思ったりもするわけです。

与太話ですけどね。