講談社現代新書より上梓した単著『ヒットの崩壊』が発売になります。amazonでは11月16日となっていますが、明日、11月15日には都内書店に並び始めると思います。
この本の問題意識は、以下に引用する「はじめに」のところで書いています。
「ヒット曲」というものを一つの主題にした本ですが、音楽業界だけのことにとどまらず、流行の実情や、メディアと人々の接し方の変化、それによって生まれている社会の変化のうねりのようなものにも迫れたらと思って執筆を進めています。
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はじめに
「最近のヒット曲って何?」
そう聞かれて、すぐに答えを思い浮かべることのできる人は、どれだけいるだろうか? よくわからない、ピンとこないという人が多いのではないだろうか。
かつてはそうではなかった。昭和の歌謡曲の時代も、90年代のJ−POPの時代も、ヒット曲の数々が世の中を彩っていた。毎週のヒットチャートを見れば、何が流行っているのか一目瞭然だった。テレビの歌番組が話題の中心にあった。
でも、今は違う。シングルCDの売り上げ枚数を並べたオリコンのランキングを見ても、それが果たして何を示しているのか、判然としない。流行歌の指標がどこにあるのかわからない。それが今の日本の音楽シーンの実情だ。
果たして何が起こっているのか?
「音楽不況だからしょうがない……」
そんなことを言う人もいる。確かにCDの売り上げは右肩下がりで落ち込んでいる。しかし、音楽の〝現場〟には、今も変わらぬ熱気がある。それは、音楽ジャーナリストとして20年近くロックやポップ・ミュージックについて取材と批評を続けてきた筆者の正直な実感だ。音楽フェスの盛況、ライブ市場の拡大もそれを裏付ける。
では、なぜヒットが生まれなくなったのか? 実は、それは音楽の分野だけで起こっていることではない。
ここ十数年の音楽業界が直面してきた「ヒットの崩壊」は、単なる不況などではなく、構造的な問題だった。それをもたらしたのは、人々の価値観の抜本的な変化だった。「モノ」から「体験」へと、消費の軸足が移り変わっていったこと。ソーシャルメディアが普及し、流行が局所的に生じるようになったこと。そういう時代の潮流の大きな変化によって、マスメディアへの大量露出を仕掛けてブームを作り出すかつての「ヒットの方程式」が成立しなくなってきたのである。
本書は、様々な角度から取材を重ね、そんな現在の音楽シーンの実情を解き明かすルポルタージュだ。ミュージシャン、レーベル、プロダクション、テレビ、ヒットチャート、カラオケなど、それぞれの現場の人たちが時代の変化にどう向き合っているのか。その言葉は、たとえ音楽に興味がない人にとっても、あらゆる分野で「ヒット」が生まれなくなっている今の時代を読み解くためのキーになるのではないかと思う。
本書の構成は以下のようになっている。第一章では、90年代から現在に至るまで、音楽産業がどう変わってきたかを解説する。CDが売れなくともアーティストが活動を続けられるようになった現状、「コンテンツ」から「体験」へとマーケットの軸足が移ってきたここ10数年の変化を読み解く。そして、日本の音楽シーンを代表するヒットメーカーとして、音楽プロデューサー・小室哲哉と、いきものがかり・水野良樹という二人の作り手に話を聞き、それぞれのスタンスと、ヒット曲についての考え方を探る。
第二章ではヒットチャートの変化に迫る。極端な結果を示すようになったオリコン年間ランキングから、「AKB商法」とも言われる特典商法がヒットチャートを〝ハッキング〟してきた経緯を示す。そして、当のオリコン側はそのことをどう捉えているのかを尋ねる。また、複合的な指標による新たなヒットチャートのあり方を掲げるビルボード・ジャパンの狙いと、カラオケランキングから見えるヒット曲の受容の特徴を解き明かす。
第三章はテレビの音楽番組をテーマにしている。10年代になって民放各局で放送されるようになった「大型音楽番組」の登場、そしてその長時間化は、果たして何を意味しているのか。制作者の意識を問う。
第四章はライブ市場の拡大の背景にあるものを解き明かす。何故フェスは盛況を続けているのか。そして大規模な演出を用いたスペクタクルなワンマンライブやコンサートが増えてきているのは何故か。テクノロジーがライブを進化させた背景と、その行き先を探る。
第五章では、ビジネスやマーケットではなく、音楽の中身について論じる。00年代以降、日本のポピュラー音楽の潮流はどう変わってきたのか。海外への憧れとコンプレックスから解き放たれて独自の進化を果たした「J‐POP」という言葉の意味合いの変化、そして日本発のポップカルチャーとして海外進出を果たしているその原動力を分析する。
そして第六章では、大きな転換期を迎えている世界全体の音楽市場の動向を見据え、日本の音楽シーンの先行きを探る。ストリーミング配信が普及し十数年ぶりにレコード産業が拡大基調となった海外で、ヒットはどのように生まれるようになったのか。ロングテール以降の時代にグローバルなポップスターが君臨するようになった経緯、そして新たな「モンスターヒットの時代」の仕組みを解き明かし、この先に訪れる未来の可能性を示す。
日本のロック/ポップス史に大きな足跡を残したミュージシャン・大瀧龍一は、かつてこう語った。
歌は世につれ、というのは、ヒットは聞く人が作る、という意味なんだよ。ここを作る側がよく間違えるけど。過去、一度たりとて音楽を制作する側がヒットを作ったことはないんだ。作る側はあくまでも〝作品〟を作ったのであって〝ヒット曲〟は聞く人が作った。 (大瀧詠一『大瀧詠一 Writing & Talking』より)
とても鋭い洞察だと思う。
しかし、いつの間にか「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉自体をあまり耳にしなくなった。歌謡曲の時代には一つの定番だったフレーズは、今はその意味合いが薄れてきている。
かつて、ヒット曲は時代を反映する〝鏡〟だった。 果たして、今はどうだろうか?
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以上が「はじめに」で書いたことです。
J-POPの90年代と今を語る第一章では小室哲哉さんといきものがかり・水野良樹さん。ヒットチャートをテーマにした第二章ではオリコン株式会社の垂石克哉さんとビルボード・ジャパンの礒崎誠二さん、JOYSOUNDの鈴木卓弥さんと高木貴さん。テレビと音楽番組をテーマにした第三章では『FNS歌謡祭』『FNSうたの夏まつり』の総合演出を手掛けるフジテレビの浜崎綾さん。ライブをテーマにした第四章では、BUMP OF CHICKENやサカナクションやKANA-BOONを手掛けるヒップランドミュージックコーポレーションの野村達矢さん。日本と海外の音楽シーンの関係性の変化を書いた第五章では、もう一度水野良樹さんと、シュガー・ベイブやフリッパーズ・ギターを手掛け日本のポップスの歴史の体現者であるプロデューサー・牧村憲一さん、きゃりーぱみゅぱみゅや中田ヤスタカ擁するレーベルunBORDEのレーベルヘッド鈴木竜馬さん。そして第六章では、再び小室哲哉さん、水野良樹さん、鈴木竜馬さんにご登場いただきました。
僕一人の論考ではなく、ミュージシャン、プロデューサー、マネジメント、ヒットチャート、テレビ、カラオケなど、音楽の現場にいる人たちの生の言葉があってこそ成立した本だと思っています。改めて感謝しております。
柴那典著『ヒットの崩壊』講談社現代新書。これだけきちんと検証されている本、丁寧な本は久しぶりです。手前味噌になりますが、津田さんと僕の共著以来の、信用できる音楽本です。それで僕が今取り組んでいるのが、いや苦みながら書いているのは、ヒットの生まれ方に関する本という(^^;; pic.twitter.com/f3EvU4wLzE
— 牧村G憲一 (@makiji) 2016年11月12日
週明け、火曜日に発売になります
— ハマサキアヤ (@AYA_hmsk) 2016年11月13日
柴那典さんの著書「ヒットの崩壊」
私も音楽番組演出として
今思ってること、感じていることを
率直にお話しさせていただきました。
是非お手に取ってみて下さい https://t.co/sBOzpTPPgm
こういう事例を見るたびに
— ハマサキアヤ (@AYA_hmsk) 2016年11月13日
信じられない思い。
今どきそんな態度の制作者
見たことないけど、
どこかにいるんだろうなぁ。
時代が止まった化石は滅んで欲しい https://t.co/GdByt1wLDI
というように
— ハマサキアヤ (@AYA_hmsk) 2016年11月13日
いまテレビ業界の30代半ばより若手は
「テレビは偉い」という
幻想から抜けきれないバブルな
おっさんたちと
日々闘いながら制作しています、
というような本音を
100枚ぐらいオブラートに包んで
話したのが先の柴那典さん
「ヒットの崩壊」に掲載されています必読。
反響にも感謝。
そして最後に告知ですが、ブログ「All Digital Music」を主宰するデジタル音楽ジャーナリスト、ジェイ・コウガミさんと、この本、特に第六章で書いたストリーミング以降の音楽シーンについて語るトークイベントを11月15日に開催します。詳細は以下。
『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)刊行記念
柴那典×ジェイ・コウガミ「テクノロジーは音楽をどう変えたのか?」
開催日時:2016年11月15日(火)19:30スタート
開催場所:スマートニュース イベントスペース(渋谷)
イベントページ:http://peatix.com/event/211745/