日々の音色とことば

usual tones and words

2017年の1月によく聴いたアルバムをまとめておく

今回の記事は、なかばあとで読み返すための自分用まとめです。1月と2月によく聴いたアルバムや曲を淡々とリストアップしておきます。

 

●土岐麻子『PINK』

  

 

PINK

PINK

 

 

 

 

 

 

●ONE OK ROCK『Ambitions』

 

Ambitions 初回限定盤(CD+DVD)

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www.cinra.net

 

●THE XX『I See You』

 

I See You [帯解説 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (YTCD161J)

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●日食なつこ『逆鱗マニア』

 

逆鱗マニア

逆鱗マニア

 

 

●ぼくのりりっくのぼうよみ『Noah's Ark』

 

Noah's Ark (完全生産限定盤)

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●w-inds.『We Don't Need To Talk Anymore』

 

We Don't Need To Talk Anymore 初回盤B(DVD付)

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●SKY-HI『OLIVE』

 

 

OLIVE(DVD付)(Live盤)

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●Creepy Nuts『助演男優賞』

 

助演男優賞

助演男優賞

 

 

●RUN THE JEWELS『RUN THE JEWELS 3』

 

 

 

 

●cero「ロープウェー」

 

●a flood of circle『NEW TRIBE』

 

NEW TRIBE(初回限定盤)(DVD付)

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realsound.jp

 

●fhána「青空のラプソディ」

 

www.youtube.com

 

●PINK GUY『PINK SEASON』

 

 

 

cakes.mu

 

●THE FLAMING LIPS『Oczy Mldy』

 

 

オクシィ・ムロディ

オクシィ・ムロディ

 

 

 

 

●watt「Burning Man ft. Post Malone」

www.youtube.com

 

●Dubstep Grandmaster「Come On」

 

 

ユーモアと祈りについて――『夫のちんぽが入らない』書評

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発売日に書店に行った。あっという間に読んだ。読めてよかった。

 

 

夫のちんぽが入らない。編集者はよくこのタイトルで会議を通したなと思う。本屋でも注文しづらいだろうし。でも読み終えたら「ああ、これしかなかったんだな」と、ストンと胸に落ちた。

 

夫のちんぽが入らない

 

江森丈晃さんが手掛けたデザインと装丁もとても素敵だ。画面だと黒い文字にみえるけれど、実物の本は銀箔でタイトルが書かれている。カバーを外すと夜空を思わせる黒に「夫のちんぽが」という言葉が、点々と散っていて、幾何学模様のような線でつながれている。まるで星座のように。

 

インパクト大のタイトルだから、まずその話から始まるのはしょうがない。でも、ここに書かれているのは単なるウケ狙いの話じゃなくて、下ネタでもなくて、とても切実で壮絶な、苦しく、そして優しさと愛に満ちた半生の物語だ。

 

www.fusosha.co.jp

 

著者はこだまさん。「塩で揉む」というブログをやっている。もともと本作は2014年の同人誌即売会「文学フリマ」で頒布された同人誌『なし水』に寄稿された短編が元になっているのだという。

 

blog.livedoor.jp

 

本文はこんな書き出しで始まる。

 

いきなりだが、夫のちんぽが入らない。本気で言っている。交際期間も含めて二十年、この「ちんぽが入らない」問題は、私たちをじわじわと苦しめてきた。周囲の人間に話したことはない。こんなこと軽々しく言えやしない。

 

何も知らない母は「結婚して何年も経つのに子供ができないのはおかしい。一度病院で診てもらいなさい。そういう夫婦は珍しくないし、恥ずかしいことじゃないんだから」と言う。けれど、私は「ちんぽが入らないのです」と嘆く夫婦をいまだかつて見たことがない。医師は私に言うのだろうか。「ちんぽが入らない? 奥さん、よくあることですよ」と。そんなことを相談するくらいなら、押し黙ったまま老いていきたい。子供もいらない。ちんぽが入らない私たちは、兄妹のように、あるいは植物のように、ひっそりと生きていくことを選んだ。 

 

田舎の小さな集落で、ひっそりと、人との交流を避けるようにして育った主人公の「私」は、地方都市の大学に進学して住みはじめた古い安アパートで彼に出会う。すぐに惹かれ合うようになり、二人は卒業して教師としての職を得て、そしてまっすぐ結婚に向かっていく。「ちんぽが入らない問題」を抱えながら。

 

そして、「入らない」というのは「ちんぽ」だけじゃない。主人公の「私」は人生の局面で、いろいろな「ふつう」とか「当たり前」というものに「入れない」。そのために悩んだり、苦しんだり、傷ついたり、諦めたりしている。これが一人の女性の人生に起こったことかというくらい、様々な困難が訪れる。学級崩壊したクラスを受け持つようになって、追い詰められて、堕落して。

 

でも、筆致は、とてもユーモラスだ。どこかカラッとしていて、明るい。

 

なぜだあと叫びたかった。なぜ大仁田で無血なのだ。大仁田こそ流血すべきだろう。シャワーを浴びに向かう汗まみれの「おじさん」の背中は、まさに一試合終えたレスラーを思わせる貫禄があった。 

 

ここがすごい。詳しくは書かないが、主人公の「私」がどん底まで滑り堕ちていくきっかけを描いた場面だ。起こってしまっていることの重大さと対比して「大仁田こそ流血すべきだろう」の一言がとても可笑しい。

 

でも、描かれていることが壮絶であればあるほど、どこか俯瞰でそれを見ている視線の存在を思わせるユーモアの力が増す。この対比は、たとえば松尾スズキさんの小節や戯曲が書いてきたものでもある。

 

料理に喩えるなら、この本にある笑いやユーモアの要素は決してスパイスではない。それはむしろ出汁のようなものだとも思う。

 

そして、もう一つ、この本の芯にあるのは「祈り」のようなものだと思う。その存在に気付いてから、僕は後半読みながらちょっと泣いてしまった。決して他人事じゃないということは、自分がよく知っている。だから、そのことについては上手く言えないんだけど。

 

無意味なことなんて、きっと何もない。

 

最後のほうに、こう書かれている。

 

ちょっと話は変わるけれど、僕がレディオヘッドというバンドで一番好きな曲に「Everything in its right place」という曲がある。『キッドA』というアルバムの1曲目に入っている。不穏な、でもどこか安らぎを感じさせるようなシンセの音色に乗せて、トム・ヨークがこんな風に歌う。

 

Everything, everything, everything, everything..

In its right place

In its right place

In its right place

Right place

 

エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス。全てがあるべき場所に。

 

それは僕が大事な場所にしまっておいて、たまに辛くなったときに、よく効くおまじないのようにそっと取り出して小さく唱える言葉でもある。

 

全てのものは、そのあるべき場所に、ある。僕はそう願う。無意味なことなんて、きっと何もない。それは祈りの言葉だ。あらゆる選択と、あらゆる過去は、まるで最初からそこにはまるべきパズルのピースだったかのようにぴったりと結びついて、あなたを赦す。柔らかな笑顔の残像だけが残る。

 

そういう祈りは届くはずだと信じている。

 

 

夫のちんぽが入らない

夫のちんぽが入らない

 

 

今年もありがとうございました/2016年の総括

例年通り、紅白歌合戦を見ながら書いてます。

 

今年もいろいろあった一年でした。個人的には、講談社現代新書から『ヒットの崩壊』という新刊を出せたことが、何より大きかったです。

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

 

『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』に続いて2冊目の単著なのですが、一つの代表作になるようなものを書こうと思って取り組みました。おかげさまで反響は大きくありがたいかぎり。

 

おかげさまで、この本が刊行されたタイミングで様々な媒体でインタビューや対談に取り上げていただきました。ラジオ出演も、ひとつひとつ嬉しかったです。

 

www.musicman-net.com

 

www.billboard-japan.com

 

realsound.jp

 

blogos.com

 

blogos.com

 

spincoaster.com

 

いろんな人と話していても、今年は音楽シーンが「面白かった」という声を沢山聞いた一年でした。00年代後半あたりにあった閉塞感とは明らかにムードが変わっていた。

 

僕としては2010年代に入って明らかに時代の変化が訪れていたので、そのことをちゃんと記すことができたのはよかったと思います。

 

 ■2016年の年間ベストについて

 

2016年の年間ベストについては、『ミュージック・マガジン』に寄稿しました。

そちらで選んだのがこの10枚。

 

ミュージックマガジン 2017年 01 月号

ミュージックマガジン 2017年 01 月号

 

 

  • ブンブンサテライツ『LAY YOUR HANDS ON ME』
  • 宇多田ヒカル『Fantome』
  • フランク・オーシャン『blonde』
  • ボン・イヴェール『22, A Million』
  • フランシス・アンド・ザ・ライツ『Farewell, Starlite!』
  • Chance the Rapper『Coloring Book』
  • BABYMETAL『METAL RESISTANCE』
  • アノーニ『Hopelessness』
  • サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』
  • ぼくのりりっくのぼうよみ『Hollow World』

ミュージック・マガジンのレギュレーションでは2015年12月にリリースされた作品が含まれるのでぼくのりりっくのぼうよみ『Hollow World』が入っているのですが、2016年にリリースされたアルバムから選出するならば、そのかわりにビヨンセ「Lemonade」が入ると思います。

 

そして『MUSICA』には国内アーティストのベスト10を、リアルサウンドには海外アーティストのベスト10を寄稿しました。

 

MUSICA(ムジカ) 2017年 01 月号 [雑誌]

MUSICA(ムジカ) 2017年 01 月号 [雑誌]

 

 

そちらで選んだのが、それぞれこの並びです。

 

  1.  ブンブンサテライツ『LAY YOUR HANDS ON ME』
  2.  宇多田ヒカル『Fantome』
  3.  BABYMETAL『METAL RESISTANCE』
  4.  サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』
  5.  星野源『恋』
  6.  欅坂46『サイレントマジョリティー』
  7.  RADWIMPS『人間開花』
  8.  コトリンゴ『この世界の片隅に オリジナル・サウンドトラック』
  9.  蓮沼執太『Melodies』
  10.  yahyel『FRESH AND BLOOD』

realsound.jp

 

1.Francis and the lights『Farewell,starlight!』

2.Porter Robinson & Madeon『Shelter』

3.Frank Ocean『Blonde』

4.Bon Iver『22, A Million』

5.Chance the Rapper『Coloring Book』

6.ANOHNI『Hopelessness』

7.Japanese Wallpaper『Japanese Wallpaper』

8.Beyonce『Lemonade』

9.David Bowie『★』

10.The Japanese House『Swim Against the Tide』

 

■2017年に向けて

これは、来年というより、もう少し長いスパンでの話かな。

上のspincoasterの野島さんとの対談でも語っていることなんだけれど、おそらくこの先の世界は、長い目で見れば分散型の社会になっていくと思うんです。インターネットの普及は、「情報の流通」という力をマスメディア的な中央集権モデルからP2P的なモデルに移行させてきた。そしてSNSの普及は、「影響力」という力を個人に分散させていく。その流れで、次は「信用の付与」が分散していくタームに入るのだと思う。

そのことを踏まえて、これはずっと思っていることなんだけど、どんどん「裏で舌を出す」ような生き方が通用しなくなっていくのを目の当たりにしている。だからこそ。

 

来年も、正直に、足元を見失わないように、やっていこうと思ってます。

 

当たり前のことだけど。