日々の音色とことば

usual tones and words

奥田民生『FANTASTIC OT9』

アルバムを最初に聴いて、まず音の良さに驚いた。クリアだとかハイファイだとか、そういうことじゃない。生々しいとかリアルというのも(近いんだけど)ちょっと違う。言葉で言い表すなら「美味しい音」という感じ。日本で「この音」を出せるバンドは、ちょっと他にはいないだろう。ギターの鳴り、スネアの重さとキレ、グルーヴの溜め、そういう一つ一つが、絶妙のポイントで鳴っている。そういう、熟成された「深み」がある。

いつのまにか「飄々とした」とか「マイペース」みたいなイメージが定着している奥田民生だけれど、すでに多くの人が指摘している通り、その実像は全くそれとは異なる。もちろん本人の人柄やキャラはあるだろうけれど、ソロ・デビューから今に到るまで13年間「リリースもライヴもない年は一年もない」という、ミュージシャンとして働き者であることは間違いない。特に、ここ1〜2年の動きは激しかった。一昨年の末にスティーヴ・ジョーダン率いるthe verbにギタリストとして参加したかと思えば、昨年初めには井上陽水奥田民生として9年ぶりのアルバム『ダブルドライブ』をリリース。その一方で、「AFCアジアカップ2007」NHKテーマ曲となった「イナビカリ」や星野JAPAN公式応援歌となった「無限の風」など、いわゆるタイアップも精力的にこなす。その活動の充実ぶり、外から受けた“刺激”が、アルバムには結実している。スティーヴ・ジョーダンは「愛のボート」「明日はどうだ」の2曲にドラム/ベースと共同プロデューサーとして参加。「鈴の雨」は井上陽水のナンバーやかつて彼と共作した「2 cars」を思わせるようなヘヴィ・ブルースだ。

アルバムの雰囲気は、おおよそ4つに分かれている。疾走感あるキャッチーなナンバーが並ぶ「イナビカリ」から「愛のボート」の4曲、スロウ・テンポでどことなくジャズや古いポップスの雰囲気も持つ「いつもそう」から「3人はもりあがる(JとGとA)」の3曲。「カイモクブギー」から「鈴の雨」の4曲では、激しくパワフルなバンド・セッションや70年代サイケデリック・ロック風のサウンドが繰り広げられる。そして最後の「なんでもっと」から「明日はどうだ」の3曲は、民生の楽曲の中でもカラフルな色合いを持つ、力強い王道のロック・ナンバーだ。なかでも、個人的な愛聴ナンバーになりそうなのは、「なんでもっと」。後期ビートルズを思わせるシタールとオルガンの音色、包容力あるメロディが心地いい。

繰り返して聴くうちに、どんどん新たな「味」を発見しそうなアルバムだな。



Fantastic OT9Fantastic OT9
(2008/01/16)
奥田民生

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