FIVE STUFF(初回生産限定盤)(DVD付) (2011/07/27) DOES 商品詳細を見る |
7月15日発売のMUSICAでDOESの新作『FIVE STUFF』についてのレヴューを書いたんだけれど、その300字ではとても書ききれなかった「DOESが“和”であることの考察」について補足しておこうと思う。
MUSICA (ムジカ) 2011年 08月号 [雑誌] (2011/07/15) 商品詳細を見る |
DOESは、そもそもバンド名の由来(氏原ワタルがザ・ブリーダーズの“Doe”という曲を好きだったこと)からしても、非常に洋楽的なルーツを持つバンドである。その根っ子には90年代のUSオルタナティブ・ロックがある。
「国内のロックはまるで聴いてなかったし、シーンの状況も、メジャーがどういうところかも知らなかった」
(氏原ワタル、http://natalie.mu/music/pp/does03)
そして、今の彼らが目指す音楽的な方向性にも、USインディ・シーン、00年代後半からのブルックリンのバンドたちのテイストが大きく刺激になっている。具体的な名前をあげるならば、たとえばMGMTやヴァンパイア・ウィークエンド。それを日本のギターロックにどう“接続”するかが、今の彼らの追求する大きなモチーフになっている。『FIVE STUFF』に収録された“タイニー・パンク”なんかは、まさにそういう曲になっている。
「MGMTとかは、去年くらいからずっと聴いてますからね。これは来たな! って思ったんですよ。新しいって思った。基本的に古い音楽は好きなんだけれど、閉塞的になってもダメだから。彼らは古い音楽を今の解釈と新しい発想でやっている。それは賛同できますね。日本の3ピースのギターロックとして、そういう刺激をどう昇華していくのか。そういうことをずっとやってますね」
(氏原ワタル、http://natalie.mu/music/pp/does03/page/2)
そういう指向を持って音楽をやっている彼らの曲に、何故“和”のテイストが漂うのか? もはや言うまでもないが、彼らのブレイクのきっかけとなったのは『銀魂』の主題歌になった“三月”や“曇天”、“バクチ・ダンサー”などの曲群。そこでの『銀魂』=“侍”=“和”という世界観が、彼ら自身の音楽の世界観やイメージにも大きく寄与している。もちろん、そういった“和”の雰囲気を醸し出しているのは、歌詞の言葉のセレクトや文体も大きい。けれど、実はそれだけじゃないんじゃないだろうか? メロディの紡ぎ方に一つの特徴があるんじゃないか? ――ということが、最初にレビューで書こうと思ったこと。でも、届いた雑誌を読んでみたら、同誌の副編集長の寺田氏のインタヴュー中に、まさにそこについて触れていた箇所があった。
――僕が今回聴いて思ったのは、ここまでアレンジが幅広くても、このメロディと歌って凄く来名声が高いなってことで。ちょっと和音階が入ってきて、そこに言葉が乗ってきた時に、音の綺麗さと流麗さ、そして凄く繊細な感情を行間に感じた歌詞っていう。これがDOESらしさなんだなって改めて気づかされたし、それが研ぎ澄まされているというか。(後略)
「うん、そう思いますね。どんどんシンプルに、『こうでしょ? ああでしょ?』みたいな感じになってるんだよね。和テイストとか和メロとかってよく言われるんだけど、前のやり方はどっちかっていうと逆輸入な感じで。(後略)」
ここの会話はまさにそのとおりなんだけど、二人が「和音階」「和メロ」という言葉で言い表してるのが、要は「ニロ抜き短音階」=「マイナー・ペンタトニック」なんじゃないだろうか? ということが、レヴューで僕が書こうと思っていたこと。そして、それに気付いたきっかけは、彼らの新しいミニアルバム『FIVE STUFF』に収録された“黒い太陽”という一曲。
この曲のサビは特徴的なメロディラインを持っている。
《高く飛び跳ねて 全てを掴めよ 僕らの命は 燃えるためにある 黒い太陽さ》
E D B D B A G E/ E D B A G A B D /E D B A G A C B /B D D E B A G A/ B A E B A E D E
これをみて気付くのは、基本的にE、G、A、B、Dの5音の組み合わせで成り立っているということ。一箇所だけCが出てくるが、それ以外は基本的にこれらの音だけでメロディが組み立てられている。これが何かというと、Eマイナースケールから「F#」と「C」を抜いた5音から成り立つ音階。2度と6度の音を抜くので「ニロ抜き短音階」とも呼ばれる。英語で言うなら「マイナー・ペンタトニック・スケール」。詳しい説明はwikipediaで。
DOES には、この「ニロ抜き短音階」を効果的に使った曲が多い。
(ちなみに“和音階”という言葉の正確な定義は存在しない。“ヨナ抜き音階”、つまり4度と7度の音を抜いた音階――CメジャーのスケールならばC、D、E、G、Aからなる音階が、民謡や唱歌や演歌に使われる“和風”の音階としてよく言われる。ただし、DOESの曲には実はヨナ抜き音階は少ない)
たとえば“バクチ・ダンサー”のサビ
A C D D C D E D C A /A C D D C D E D C A /A C D D C D E D C A/C B B A/C B B A/G A C A/
ここにはAマイナースケールのペンタトニック・スケールが、また“曇天”のサビではDマイナースケールのペンタトニック・スケールが効果的に使われている。(もちろん2度と6度の音を完全にオミットしてるわけじゃないけど)
本当はもう少し時間を欠けて検証しなきゃいけないテーマなんだけれど、DOESというロックバンドが言われる“和テイスト”の正体は、ここにあるんじゃないだろうか。
そして、もちろん僕自身、音楽理論にそこまで精通しているわけではないけれど、ホントは音専誌にこういう分析がもっと乗っててもいいんじゃないかな。音を聴いて「こんな感じがする」と印象を書くだけじゃなく、それが何故生まれているかを追求することができたら、もっと面白いよね、という。『MUSICA』に書いたレヴューの裏側にはそういう思いまで込めてたんだけど、とても書ききれなかったので補足しました。